Book4看板 Dragon Sword Saga4 〜Ⅱ.−2〜
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~ 第4巻『魔界の王子』 ~

剣月緑ライン Ⅱ.『復活』 妖精緑アイコン2 ~ よろず屋は見た!? ~   剣月緑ライン

「へえ、器用なものねえ」  狩り用に枝を拾ってきて、弓矢にに仕立てている俺の手元を覗きこんで、マリスが 感心してみせた。 「金がない時は、自分で食い物を調達してたからな。このくらいは、朝メシ前さ」 「ふ~ん」  マリスが、しゃがんで、じーっと見ている。自分の頬に、うっすら赤みが差してる のを感じるが、平静を装う。 「ほんと、ケインは何やっても器用だなあ」  その後ろで、カイルがゴマをする。  普通の傭兵なら、これくらいのことは、皆やっていると思うのだが、彼は『普通』 ではなかったから、こういう時は全然役に立たない。  だから、俺一人で、弓矢を三つとも作らなくてはならなかった。 「うん。なかなか立派な弓矢だわ」  マリスが試しに、その辺の木に、矢を構えてみせた。  狩りは得意だと言うだけあって、そのフォームは、なかなか綺麗だった。  俺は、感心して、マリスのその様子を眺めていた。  ピンと張った草のつるから放った矢は、木の幹に当たって跳ね返った。 「これだけの原始的な材料で、ここまでのものが出来るなんて……! すごいわ、 ケイン! 」 「いやあ、ほんと、すげえ、すげえ! 」  マリスもカイルも、素直に褒めてくれた。  が、カイルは、単に調子イイだけだろう。  なんとか三人で、仕留めてきた野ウサギやアヒルを、それぞれ竃(かまど)焼きや、 挽き肉にしてから団子にし、スープに入れたり、ぶつ切りにして、根菜と煮たり、 いろいろやってみた。  そうして、食い物屋の準備は、着々と進んで行ったのだが――  ひゅ~……  野原に、屋台を構えた俺たちのところには、誰も通りかからなかった……。 「……あのさあ、ここって、立地条件が、あんまりよくないんじゃないか? 」  店先で、ぼーっと、突っ立っていたカイルが、俺たちを振り返って呟いた。  確かに、ここは、村の中心から、はずれていた――。  それは、仕方のないことだった。  村人から反感を買っている俺たちに、しかも、何の資金もない俺たちが、村の中心 に店を出すなど、出来るわけはなかったのだった。 「商売の条件のひとつ、立地条件がマズいってのは、致命的だわ。となると、…… やっぱり、客引きかしらね」  マリスが腕を組んで考えていた。 「よしっ! あたしとカイルとで、なんとかお客を連れてくるわ。ケインは、店番し てて」 「えーっ! 俺も行くのー? 」 「そうよ。女性客ならお手の物でしょ? 」 「女性客ったって、……あれじゃあ……」 「いいから」  マリスとカイルは、あーだこーだ言いながら、出かけていった。


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 二人が戻ってきたのは、それから間もなくのことだった。 「喜んで、ケイン! ほら、こんなにお客が! 」 「……は、はあ……」  満面の笑みで顔を綻ばせたマリスは、両腕に何人ものジャグを抱え込んでいた。  その後ろには、同じくジャグを抱えたカイルが、顔を引き攣らせていた。  それが客か!?  「まさか、通りすがりの人々に、襲いかかって、気絶させて、ここまで連れてきた んじゃないだろーな? 」  彼女は、にっこり笑って頷いた。 「なんてことするんだ! それじゃあ、誘拐じゃないか、誘拐! しかも、白昼 堂々! 」 「あら、大丈夫よ。後ろから殴ったから、顔はみられてないし。気が付いて『ここは どこだろう? 』って思っても、ケインの料理を食べれば、『おお! これは、うま い! 』って、細かいことなんか、忘れちゃうわよ」  細かいこと……か?   いつもの如く、彼女の神経は、フツーじゃなかったのだった。   そのうち、ひとりのジャグが気が付いた。 「いらっしゃいませー! 」  マリスが思いっきり笑顔で言った後、「……で、いいんだっけ? 」と、小声で、 俺に確かめる。「ああ、まあな」と、俺が頷く。  石の塊を積んだだけのテーブルで、頭を振りながら正気付いたその客に、マリスが、 竃焼きを運んでいった。 「お待たせしました。どうぞ~」  ウキウキと、器を置くマリスとは逆に、客は、うさん臭そうな表情だ。 「お客さん、これ、とっても美味しいのよ。当店の看板メニューなの。これに目を 付けるなんて、さすが、お目が高いわ。さあ、どんどん食べてちょうだいね、社長」  いったい、どこでそんなこと覚えてきたのか?   俺のいる厨房(とまで呼べるかどうか)の場所に引っ込んだマリスは、にこにこ笑顔 を絶やさず、客の様子を見守っている。  カイルは、他の、まだ寝ているジャグたちを、それぞれテーブルにつかせていた。  マリスには呆れたり、圧倒されたりしながらも、こいつも、案外付き合い良かった。 「オエイアオエイッ! 」  竃焼きを食べたジャグは、ペッと口の中の物を、吐き出した。 「ああっ! 何すんのよ! 」  マリスが、つかつかと、その客に詰め寄っていった。  心配だったので、俺もついていく。  心配なのは、あくまでも、ジャグの身である。 「ソソエイアオイヂ! 」 「なによ、あんたたちが普段食べてるものなんかよりも、ずっとおいしいでしょ!? 」 「イエオヰアエオエイギ! 」 「これのどこがマズいってのよ! 」  言葉は通じてなくても、意味は通じているようだった。  肉だんごスープを食べていた客も、やはり同じように一口食べたら吐き出している。  結局、連れ込んだジャグは皆、俺の作った物を、マズがって、帰っていった……。  彼らには、彼らの味覚があり、俺には泥にしか思えなかった食堂のあのスープや、 砂漠の軟体動物を焼いた物なんかの方が、断然美味しく感じるのだろう。  味覚の違いだとわかってはいても、それなりにショックだった。 「食い物屋は、失敗だったか……」  マリスが、ぼそっと言った。 「ケイン、気にすることないわ。あなたの腕が悪いわけじゃないもの。他の国でやれ ば、きっと、当たってたわ」 「そうだぜ。ま、あいつらが食べてくれなかったおかげで、こんなうまい残りもんが 思い切り食えるんだから、俺としては、よかったけどな」  マリスに続いて、カイルが竃焼きをばくばく食べながら言った。  調子いいだけだとわかってはいても、そう言ってもらえると、ちょっとは慰めら れた。


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「ただいまー」  ミュミュが、近くの空間から、ヴァルドリューズと一緒に現れた。 「あなたたちも、ご苦労さん」  マリスが、ヴァルとミュミュにも、余った料理を勧めた。 「さっき、織物工房で、クレアに会ったよー」  根菜をかじりながら、ミュミュが思い出したように言った。 「クレアは、この村に残るんだって」 「なにっ!? 」  カイルとマリスが驚いた。 「俺にもそう言ってたけど、ミュミュと、ヴァルにも言ったってことは、……やっぱ り本気だったのか」 「なんだって!? 」  俺の顔を見てから、カイルが困惑したように、マリスを見る。 「おい、どうするんだよ、マリス。本当に、クレアを置いていくのか? 」  彼女は、ヤツの質問に、しばらく黙っていた。 「……どうしても残りたいんなら、あたしには、止める権利はないわ。……残念だけど ……」  沈んだ声で、マリスは答えた。 「そんな……! クレアが、こんな村で、しかもひとりでなんて、やっていけるわけ ないだろ!? 何が何でも、連れ戻そうぜ! 」  カイルが、マリスと俺を交互に見る。 「クレアは彼らと言葉が通じるわ。女神のように、崇められているし、……あたし たちよりは、ずっとこの村を、居心地よく感じてるんじゃないかしら」 「だって、せっかく魔法だって頑張ってたのに……。  それに、彼女は、あんなにかわいいのに、巫女だったせいで、まだ男と付き 合ったこともないんだぜ? あんな種族の違う奴等と暮らしてたら、一生、 誰とも結ばれないで終わっちまう。そんなのは、もったいなさすぎる!   なあ、ケイン、そうだろ!?   俺は、ひとりの男として、フェミニストとして、ひとりでも多くの女性に、 幸せであって欲しいと望んでるんだ! こんなことは、断じて許すまじ! 」  アツくなって語っているカイルの勢いに、俺は圧倒されていた。 「そのクレアだが……」  ヴァルが、重々しく口を開く。  マリスもカイルも、振り返る。 「少々、気になることがある」  ヴァルは、それきり黙ってしまった。 「なんだよ、気になることって? クレアが気になるってのか? ……それって、 好きってことか? 」  カイルが睨むような目で、ヴァルにつっかかっていく。  そうは言ってないと思うのだが?  「確かに、俺も、クレアと話した時、なんか変に思ったんだ」  ヴァルも皆も、そう続いた俺の方に、視線を移した。 「言葉遣いも、ちょっと気取って聞こえたし、妙に、そのう……神憑(かみがか)った ような……? だけど、いつもの彼女のようにも思えたし……」 「言われてみれば……、いつものクレアのようであって、そうでなかったように、 あたしも思ったわ」    俺に続いて、マリスも、静かに言った。 「そうかあ? 俺には、いつものクレアにしか見えなかったけどなぁ」  カイルが首を捻る。 「あのね、ミュミュね、みんなで開拓作業やってて、あの女神像が出て来た時に、 なんか白い煙みたいなのが、クレアの身体に吸い込まれていったのを見たよ」 「女神像……」  ミュミュのセリフを聞いて、マリスが腕を組んだ。 「そう言えば、あの開拓工事、まだ途中だったはずなのに、なんで中止になったのか しら? なかなか面白い作業だったから、ちょっと残念に思ってたのよ」 「領地を広げるって目的だったっけ? 言われてみれば、中途半端だったよな」  マリスも俺も、その時のことを、もっと詳しく思い出そうとした。 「確か、クレアが言い出したんだよ。『この土地を、これ以上、掘り起こしてはいけ ません』とかなんとか。理由までは言わなかったけどさ」  カイルが言った。 「ふ~ん……。もしかしたら、あの場所に、もう一度行けば、何かわかるかも知れな いわね」  マリスは顔を上げて、皆を見回した。


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 その夜、俺たちは、再び開拓工事の場所に来ていた。  小さな立て札があり、ミミズの這っているような文字が並んでいた。  多分、ジャグの言葉で書かれた『立ち入り禁止』の文字だろう。 「あったわ。この女神像ね」  マリスが、ヒトの大きさほどもある岩の彫刻を見付ける。 「ヴァル、何かわかった? 」  女神像に触れているヴァルドリューズに、マリスが尋ねた。その側を、ミュミュが、 ちらちら飛んでいる。 「……やはり……」  ヴァルが、ぼそっと、だが、確信のこもったを呟きだ。 「なんだよ、『やはり』って? 」  カイルが、少しじれったそうに、イライラした口調で言った。 「ちゃんと、俺たちにもわかるように、はっきり言えよ」  ヴァルは、像から手を放して、ゆっくり口を開いた。 「この女神像には、何者かが宿っていたようだ。形跡からすると、おそらく、この 女神を崇める大昔のジャグの巫女のように思われる」 「ジャグの巫女だあ? 」  カイルは、眉をへの字に曲げ、素っ頓狂(とんきょう)な声を上げた。 「この女神に、異常に執着していたのか、何かの偶然かは知らぬが、おそらく、同じ 巫女同士、クレアと波長が合ったのかも知れぬ」 「そうよね。彼女には、ヴァルにも聞こえない何かが、聞こえていたものね。その 巫女の念だったのかしら? 」  マリスが、ヴァルに頷く。 「で、それが、どうしたってんだよ? 」  自分だけわかっていないのが、つまらないとでも言うように、カイルは口を尖らせ た。  それへ、ヴァルが、ゆっくりと、淡白な視線を移す。 「多分、クレアが、像に触れた時、……その巫女が、彼女に、……憑依(ひょうい) したと思われる」 「なんだって!? 」  俺もカイルも驚いて、ヴァルを見つめた。 「ミュミュも、そう思うよ。あの時のクレア、なんか様子がおかしかったもん」  ミュミュも、丸い目を、こっちに向けて、ぱたぱた飛ぶ。 『おいっ、憑依(ひょうい)って、何だ!? 』  俺を振り返ったカイルの顔には、そう書いてあった。 「砂漠での疲れと、魔力の弱まったところへ、巫女が乗り移ったのだろう。普段の 彼女になら、簡単に憑依などは出来ないはずだ」  ヴァルの話を聞いているうちに、どんどんカイルが動揺していく。 「じゃ、じゃあ、クレアは、そんな大昔の巫女が乗り移ったまんま、……もう、もと には戻れないっていうのか? 」  カイルの言うことに、俺も心配になってきた。 「今なら、まだ間に合う。だが、長時間の憑依は危険だ。巫女の霊は、こうして いる間にも、クレアの精神を、徐々に支配しているだろう」 「そ、そんな……! 」  俺は、思わず、マリスに答えを求めるように見た。  彼女は、顔色一つ変えず、何か考えている。 「おい、ヴァル、なんとかしろよ! どうしたら、元通りのクレアに戻るんだよ?  お前なら出来るんだろ? 戻せ! 今すぐ彼女を、もとに戻すんだ! 」  ヴァルがやったわけじゃないのに、カイルが、ヴァルの襟元を掴んだ。 「クレアの方のタイムリミットは、いつ頃? 」  マリスが、冷静な声で尋ねた。 「憑依が始まって、二日ほど経っている。おそらく、……明日の晩くらいまでだろう」  ヴァルのセリフを聞いて、再び喚(わめ)き出しそうになったカイルよりも先に、 マリスが言った。 「だったら、まだギリギリ時間はあるわね。クレアを連れ戻す前に、どうしても調べ ておきたいことがあるの」  俺たちは、呆気に取られて、マリスを見た。 「こんな時に、何、暢気(のんき)なこと言ってるんだよ! 早くしないと、クレアが ――! 」 「わかってるわ」  動揺しているカイルを、マリスが、きっぱりした口調で遮った。 「掘ってた時に感じてたんだけど、どうもこの岩山は、うさん臭いわ。ここへ来て、 ますますその感じが強くなってきたわ。不思議なことに、この間よりも、ずっと、 はっきり感じられるの。ここには、『魔の気配がする』って」  マリスの話を受けて、カイルが頭を抱える。 「なんだ、そりゃあ!? この村には、魔物なんかいないって聞いてたのに、実は いたっていうのか? この上、またとんでもないものが出て来るかも知れないって ことかよー!?   それとも、俺には何も感じられないのに、マリスは感じるってことは、今度は、 マリスが魔物に憑依されちまうってことかあ!? 」 「俺もお前も魔力がないから、何も感じられないだけだろ? 少しは落ち着けって」  パニくりそうなカイルの肩を、俺は押さえた。 「ただの魔物とは違う。気を付けろ」  ヴァルが、淡々とマリスに言った。 「うわー! やっぱり、魔物なのかー! 」  まだカイルが騒いでいた。  そこへ、――  がるるるるる……!     聞き慣れた、獣の唸り声のようなものが、辺りに響き渡った! 


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