Book4看板 Dragon Sword Saga4 〜Ⅱ.−1〜
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~ 第4巻『魔界の王子』 ~

剣月緑ライン Ⅱ.『復活』 妖精緑アイコン1 ~ よろず屋は見る!? ~   剣月緑ライン

「あ~あ、毎日毎日、なんで俺たちばっかり、こんなことしなきゃならないんだ? 」 「仕方ないだろ、金がないんだから。これから、どこへ行くかも、まだ決まってない んだし、もういい加減、腹くくって働いた方が、かえってラクだぜ」  俺は、ぶーぶー言いながら洗濯板でジャグ族の着るボロ布を洗っているカイルを たしなめた。 「このあたしに、そんなことできると思って!? 」  ふと見ると、マリスが、織物道具を手に、ジャグたちにキレかかっているのを、 ヴァルが押さえていた。  俺たちご一行は、今度は、ジャグの機織(はたお)り工房で、手伝わされているのだ った。  ジャグ族は、自分たちはボロい布をはおっているだけなのに、織物の技術は、物が ない割には発展していて、手織りでも、なかなかにきれいな模様を編み込んだ敷物類 を作っていた。  ここで働くようになってから知ったのだが、同じボロでも、女性は目の下にも四角 い布を垂らして、顔を隠している。  その布に、よく見ると、独特な刺繍が施されているのだった。  そして、この工房には、ほとんど女性ばかりが勤めていた。  工房と言っても、石造りの建物の中に、敷物を作る人たちが集まっているだけだ。  俺とカイルは、彼らの着ていた、山積みになった服を洗濯し、マリスとヴァルは、 簡単な織物の手伝いをしているのだ。 「あ~あ、こんなに汗水垂らして働いても、稼ぎは全部,食堂のオヤジのふところに 入っちまうかと思うと、ますます働く気なんか失せちゃうぜ~」  昼の休憩になった時だった。  止めても、カイルの口からは、愚痴がこぼれるばかりだ。 「あたしも、まさか、こんなところに来てまで、縫い物なんかさせられるとは、 思っても見なかったわよ」  マリスもフテ腐れて茶を啜る。  が、シブかったらしく、顔をしかめた。 「マリスは、貴族のお嬢様だったんだろ? 縫い物くらい、習ってるんじゃないの か? 」  王女だったとまでは知らないカイルが、悪気はないのだろうが、ぶーたれた顔の まま尋ねた。 「ちょっとくらいは、やったことあるけど、苦手だったわ。下手だったし。士官学校 にいた時の方が、のびのびしていられたわ」 「だろうな。想像つくよ」  俺がくすっと笑うと、マリスが、じろっと睨んだ。 「それにしても、クレアも、薄情だよな。俺たちが、こんなに大変な思いをしてるっ てのに……いいご身分だぜ」  カイルは、またぶちぶち言い出した。 「クレアが、あいつらに女神扱いされた時、俺は、正直言って『やったー! これで、 働かされないで済む! 』って、思ったんだぜ。彼女の言うことは標準語でも、なぜ か彼らには通じてるみたいだったからな。  それなのに、実際、働かなくてよくなったのはクレアだけでさ。  あの時やってた土木工事から解放されたのはいいけど、次の行き場も決まってない し、相変わらず、村中の手伝いをし終わるまでは、この村にいるしかないんだろ? 」  クレアの姿は、ここにはない。  ジャグたちの拝んだ女神像を発見してからというもの、彼女は、奴等から丁重に もてなされるようになり、俺たちとは別々に行動しているのだった。 「カイルの言う通り、あたしも、もしかしたら、これで変な仕事をしなくて済むの かもって、思ったんだけど……。クレアが、自分だけ免れてぬくぬくしているような 人とも思えないし、なんで、あたしたちを解放するように、言ってくれなかったの かしら」  マリスが不可解そうに首を傾げていた時、ちょうど、クレアが、何人かのお付きの ジャグ族を連れて現れた。 「皆さん、お勤めご苦労様です」  ジャグの女たちは、一斉に立ち上がって、クレアに平伏(ひれふ)した。 「あなたたちの作る絨毯は、砂漠の行商人(キャラバン)たちに、とても評判がいい そうですね。これからも、頑張って、美しい織物を作り続けて下さいね」  クレアが、天使のような微笑みをたたえて言った。  ジャグたちは、歓声を上げた。 「おい、クレア」  カイルが、ぶすっとした顔で立ち上がる。 「奴等に言葉が通じるようになったんだったら、長老のところに行って、この村から 出させてくれるように頼んでくれよ。俺はもう、こんなところで、わけのわかんねえ 仕事するのなんか、うんざりなんだからな! 」  クレアは、俺たちの方に顔を向けただけで、近付いて来ようとはしない。 「何を言っているのです。働かざる者食うべからずです」 「なんだよ、今は、そんなこと言ってる場合じゃないだろ? だいたい、俺たち、 いつまでこんなことしてりゃあいいんだよ? 村中の人間の言うことを聞かなきゃ、 村から出られないなんて、いったい、何日かかるんだ。いや、数週間で済めばまだい い。下手したら、何ヶ月もここにいなきゃなくなるんだぞ。  俺たちには、そんなヒマはないはずだろ? 次元の穴や、魔物どもを、これ以上、 野放しにしておいていいのか!? 」  珍しく、カイルが、本来の目的に触れていた。  だが、クレアは、一向に表情を変えなかった。 「ここでは、わたくしの決めたことには、絶対服従です。あなたがたは、ジャグの 掟に従うべきです」 「ちょっと、クレア! 」  マリスも立ち上がった。 「もとはと言えば、あなたが店の主人を説得する際に、勘違いして壁を壊したんじゃ ないの。そうなる前に、逃げようって、あたしが言ったにもかかわらず、店主を説得 するんだって言い張ったのは、あなたでしょう? その結果、ジャグの住民の言う ことを、一件、一件聞かなくちゃならないハメになったんじゃないの。  それなのに、その、自分には何の責任もないような言い方はないでしょう! 」  ちょっとムッとしたように、マリスが言った。 「無銭飲食をしておいて、平気で逃げようとする神経の方が、わたくしには信じられ ません。反省が足りないようなら、新たな処罰も、考えなくてはなりません」  毅然とした態度で、クレアは、そのまま出て行った。 「……なーによ、あれ! 」 「ひどいぜ、クレアのヤツ。あんな冷たいヤツだったのか!? 」  マリスもカイルも怒っていた。


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「クレア」  俺は、クレアの後を追いかけた。数人の供を連れた彼女は、首だけ、こちらを振り 向いた。 「どうしちゃったんだよ」 「別に、なにも」 「だって、なんか変だよ」 「わたくしは、当たり前のことを言ったまでですわ」  クレアは、俺から目を反らすと、また歩き始めた。 「ちょっと、待っ――」 「わたくしはね、ケイン」  彼女は、俺の言葉を打ち切って、再び足を止め、そのまま続けた。 「このまま、ジャグの村に残ろうと思うの」  ……えっ!?   ……今、何て……?   突然の彼女のその告白に、俺は身動きひとつ出来ないでいた。 「彼らは、とても純粋だわ。生きることに、一生懸命なの。私たちヒト族のように、 争ったり、傷付け合ったりしないわ。皆、強力しながら生きているの。幸い、ここに は、魔物もいない。食べ物は、まだ慣れないけど、ここの人たちの、ひたむきな姿に、 この数日で、心を打たれたわ。  だから、ケインたちは、償いが終わったら、わたくしに構わず、出て行っていいの よ」  長く、美しい黒髪が、ふわっと風に舞う。  クレアが、冗談でこんなことを言う人間ではない。  その黒い大きな黒曜石のような瞳にも、嘘はなかった。 「……本気なのか? 」 「ええ」  初めて出会った彼女の村で、それ以来、ずっと一緒に旅をしてきたが、彼女がそん な風に言うなんて……。  俺には、どうしても、それが、彼女の言葉だとは思えなかった。  中原の大国アストーレに残らず、皆と旅に出ることに決めた時だって、彼女は、 俺が来てくれて良かったって、言ってくれた。  そのクレアは、マリスと違って、お城が居心地悪そうには見えなかったし、魔物 退治なんて危険な度よりも、お城での生活の方が合っていたようにみえた。  王女殿下にも気に入られてたから、アストーレ城に残るのも、クレア次第だった だろう。  それなのに、ラクな方を選ばず、俺たちとの旅を選んでくれた彼女が――  巫女から魔道士に転向し、使える術も増えてきたし、俺にも、ちょっとずつ、 慣れない剣を教わって、頑張っていた彼女が、こんなことを言い出すなんて――!  「……クレア、そんなこと言うなよ。一緒に旅を続けようよ」  思わず、クレアの腕を掴んだ。  クレアが、俺の顔を見上げる。  澱(よど)みの無い、美しい黒曜石の瞳が、一瞬、揺らいだ気がした。 「ロオアイエジャオアジィッ! 」  お付きのジャグたちが、次々と、俺の手をはたいてきた。  彼女は、俺の手が離れると、また進行方向に視線を戻し、歩き始めた。


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「おーい、夕飯出来たぞー」  布団代わりに敷いているボロ布の上に、俯(うつぶ)せていたカイルと、マリスが、 起き上がる。  切り株に座っていたヴァルとミュミュも、こっちへ来た。 「今日は、ちょっと豪勢なんだぜ」  俺は、得意気に皆の顔を見渡した。  さっきのクレアのことが、気にかかってはいたから、空威張りだ。 「あら、肉が入ってるわ! 」  スープの中身を見て、マリスが嬉しそうな声を上げた。  カイルも、マリスの器を覗いてから、自分のスープを啜り始めた。 「おいしい! これ、何の肉なの? 」 「トリ。さっき、あっちの川で見つけて捕まえたんだ」  いつも木の実や根菜ばかりだったから、このトリのスープは、自分でも言うのも なんだが、非常にウマい。  ミュミュも、幸せそうな顔で、バクバク食べている。 「それにしても、ケインて、料理上手ね」  マリスが、ちょっとだけうっとりしたように、俺を見ている。  ちょっと、いや、大分、嬉しかった。 「昔、よく親父と交代で料理してたんだ」  『彼』を親父と呼んだ試しはなかったから、気恥ずかしい気もする。 「ああ、そのバスターブレードの持ち主だった人ね。……あ……」  マリスが片手を口に当てた。 「どうかしたか? 」 「……また、亡くなったお父さんのこと、思い出させちゃったわね」  そう言えば、レオンは死んだことになっていたんだった。  バスターブレードを受け継いだ時、『俺のことは、死んだものと思ってくれ』 という彼の言葉と、彼を知っている蒼い大魔道士の手下どもの目を欺くためも あって、俺は、バスターブレードを、彼の今際(いまわ)の際(きわ)に、もらった ことにしているのだった。  そうとは知らないマリスは、俺の言った通りに信じているんだろう。  本当のことを教えてもいいのだが、蒼い大魔道士に限らず、魔道士というヤツは、 どこで聞いているかわからない。  迂闊に話しているのを聞かれ、レオンに恨みを持っている魔道士か何かが、彼の ところへ向かうのを避けるため、騙すつもりはないが、今のところは、一応その ままにしておくか。 「気にすることないさ」  俺は、マリスに微笑んでみせた。マリスも、少し安心したような微笑を浮かべた。 「とか何とか言って、本当は女に教わったんだろ? 」  肉を頬張りながら、カイルがニヤけている。 「お前じゃないんだからな。女性に教わったには違いないが、肉屋の太ったオバちゃ んだぜ」  俺も、にやりと返す。  最近は、こいつにおちょくられても、引かずに、対処出来るようになってきた。 「ホントかぁ? お前が昔付き合ってったっていう女から教わったんじゃねーのか よ? 」  マリスが、きょろきょろと、俺とカイルとを見ている。 「前に、お前と酒飲んで一晩明かした時に、言ってたじゃないか。故郷(くに)に女が いたって。その女が、お前に料理教えたんだろ? 」  カイルが、ヘラヘラ笑って、こっちを見ている。  いくら酔ってても、そんな話はしていない。  どうせ、こいつは適当なこと言って、俺をからかおうというのだろう。  もうその手には乗らないぜ!  「何言ってんだ。そんなヤツ、いねえよ」  もうヤツには取り合わずに、さっさと片付けてしまおうと立ち上がると、 「またまたトボけちゃって。いたんだろ? クレアみたいな綺麗な黒い髪をした女だ ったって、言ってたじゃないか」  ヤツのそのセリフは、俺の足をピタッと止めた。 「……俺、いつそんなこと、言ったっけ? 」  ヤツは、ぱっと目を輝かすと、途端に、俺の首に腕を回し、ジャレついてきた。 「こいつぅ! なかなか自分のこと言わないもんだから、適当にカマかけてみたんだ が、やっぱり、そうだったのか!   故郷に女がいたんだな!? どんな娘(こ)だ? 美人か? いや、お前のことだか ら、美人系より、かわいい系だったに違いない! そうだろ!? 」  カイルは嬉々としながら、勝手なことを言っていた。  生憎(あいにく)だが、リディアは、美人系だったもんね!   だが、これ以上は、絶対に喋るまい、と思っていたそばから、 「リディアっていって、美人だったんだって」  ミュミュが、カイルの側に、ぱたぱた飛んで行って、バラしやがった!  「まーた、ミュミュはーっ! ヒトの心を勝手に読むなって言ってんだろー! 」 「いーじゃん、このくらい」 「それで、そのリディアちゃん――いや、美人系なら、リディアさんか。彼女とは、 どこまでいったんだよ? 教えろよー! 」  そんなこと、マリスの前で、絶対言いたくなかった。 「放せってば! 」 「正直に言えよ! 」 「きゃはははは! 」  俺たちが、変に盛り上がっている最中であった。 「そうだわ! みんなで食い物屋をやりましょう! 」  マリスが人差し指を立てて、いきなり立ち上がった。 「はあ? 」  眉を寄せた俺とカイルの声は、同時だった。 「だからー、このまま、この村の人間のいいなりになって、タダ働きさせられるだけ じゃなくて、どうせなら、あたしたちだけでも、お金を稼いでおいた方がいいと思う の。いずれ、この村とは、おさらばするんだし、その時のために、ちょっとずつ資金 を貯めておくのよ」  マリスが、目を輝かせる。 「それは、わかるけどさあ、それが、なんで食い物屋なんだよ? 」  カイルが、眉間に皺を寄せる。  マリスは、俺に向かって、にっこりした。 「ケインの料理食べて、思いついたのよ。さっきのような簡単なものでいいから、 ケインが料理を作って、それをジャグたちに売るの。材料になりそうなトリとか、 小動物は、あたしが捕まえてくるわ。これでも、狩りは得意だったのよ。任せて ちょうだい」  マリスが、どんと胸をたたいてみせた。 「そうかあ。その方が、俺たちも、毎日うまいモンが食べられるもんなあ」  うっとりと、カイルが天を見上げている。 「何言ってんの。店のものには、手をつけないでちょうだい。手の空いてる人は、 今まで通りジャグの手伝いをするのよ」 「ええーっ!? それって、俺とヴァルは、またあの手織り工房に行けってこと かよー!? 」 「当たり前でしょ」  マリスに言われて、カイルは「う~ん」と、ちょっとの間考えていたが、 「だったら、俺も行く! 俺は、狩りだって得意なんだぜ」  ……やはり、どうしても遊べそうな方へと、行ってしまうカイルだった。  それにしても、安易な思い付きであった。


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