Book3看板 Dragon Sword Saga3 〜Ⅴ.−2〜
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~ 第3巻『砂漠の謎』 ~

剣月黄ライン  Ⅴ.『砂漠に潜むもの』  〜 2 〜  剣月黄ライン

砂漠昼間

(マリス……! 間に合ってくれ! )  ダグラを駆り立てながら、逸(はや)る鼓動が音を立てる。  マリスとヴァルドリューズは一年旅を続け、魔物と戦っている。戦闘の時に発動さ せる召喚魔法のコンビネーションは最高ではあるが、普段の信頼関係がそれほどでも ないように、ケインには思えていた。  マリスの方はヴァルドリューズの実力を認めており、信頼もしているように見える が、ケイン自身、魔道士というものを、どこか得体の知れない人種だと思っているこ ともあってか、どうも、ヴァルドリューズが彼女を信頼しているのかどうかを、疑問 に思ってしまう時がある。  それは、砂漠の前に滞在していたアストーレ王国の山の上で、彼と二人だけで話を した時から抱き始めているものだった。 『ゴールダヌス派というわけではない』と、『サンダガーを暴走させた時は、マリス を斬ることもある』――それらの言葉を、ヴァルドリューズの口から聞いてからであ った。  以来、ケインは、彼に対しての見方が、少し変わってしまっていた。『もしかした ら、真の敵は彼だった! 』ということになったとしても驚かないほど、彼に対して 不信感を抱いていたのかも知れなかった。 (こんな砂漠に、しかも、何か異様な事態が潜んでいるとわかって、囮(おとり)とし て、ほっぽり出すなんて、彼女を守る役のヤツのすることじゃない! )  ケインには、彼がミュミュやクレアには、あまり感情を面に出さない彼なりにも、 心から思い遣っているように見て取れたのだが、マリスに対してそのような場面は、 見たことがなかった。  彼が常に敵を意識し、結界を張ることを怠らなかったのは、義務であるように見え たのだった。 (こうは考えたくはないけど、……ヴァルが、ゴールダヌス派ではないんだったら、 わざとマリスを危険なところへ追いやって、……魔獣を倒している間の事故死に見せ かけることだって、しないとは限らない……! マリスが死んでしまえば、ゴールダ ヌスの計画とやらも達成されないわけだし、……できれば、こんなことは考えたくな かったけど、その可能性がないとは限らない! ) (性格的にも行動的にも、かなり問題のある彼女ではあるけど、本来なら、王太子妃 となって、戦いとは無縁な、華やかで優美な人生――ホントかよ? ――を、送って いたかも知れないんだ。それが、信頼しているパートナーであり、上級魔道士である ヴァルが、いつ敵に回るかわからないこんな状態で、魔物やベアトリクスの追手、敵 の魔道士たちを蹴散らしながら、仕舞いには……魔王にあてがわれてしまう!?  そんな理不尽なこと、俺には、黙って見過ごすことは出来ない! )  そして、彼は、こうも考えた。  いつか、何もかもが終わって無事だったら、マリスは帰らないとは言っていたが、 ベアトリクスまで、彼女を送り届けるつもりでいる。ベアトリクスでの陰謀もすべて 片付けてから、である。 (セルフィス王子がどんな人物かは皆目見当が付かないし、当然面識もなければ義理 もないけど、あの常軌を逸したマリスが好きになった相手なんだったら、彼に、これ 以上彼女を野放しにさせないよう言い聞かせて――じゃなかった、彼こそが、彼女を 最も幸せにしてあげられるような気がする)  それが、彼の、ヴァルドリューズに対しての不信感とともに、ケインの中に沸き出 してきた思いつきであった。 「ケイン? どうしたの? 」  マリスがダグラの上で、目を見開いている。ケインが考え事をしている間に、彼女 に追いついていた。  ほっと安堵した彼は、すぐに顔を引き締める。 「心配するなよ、マリス。魔物が現れても、絶対に俺が守るからな」  頼りになる男の決め台詞のように言ったつもりであったが、それに反して、彼女の 顔は不機嫌になっていった。 「あたしを守るですって? そんなことは、どこかのお姫様にでも言うことね」  拍子抜けした彼は、すぐに思い出した。 (そうだった。こいつは普通じゃなかったんだった。俺なんかに、そんなことを言わ れるのは、プライドが許さないらしい……) 「そうは言うけどさ、マリス、お前、素手で魔物に刃向かうつもりか? それは、 いくらなんでも無謀過ぎないか? 」 「だったら、ケインの剣、貸して」 「へっ!? 」 「また前みたいに、マスターソード貸してくれない? それとも、今度は、そっちの バスターブレードも使ってみたいわね。よく斬れるんでしょう? 」  マリスの不機嫌な顔は消え去り、今では瞳を輝かせている。  武人気質であるからか、武器のこととなると、わくわくしているようだった。 「確かに、どっちかの剣をお前に貸せば、魔物が出て来ても、戦闘はラクだけど……」 「だけど……なに? 」  一呼吸置いて、ケインは続けた。 「どっちも、俺にしか使えない剣なんだ」 「あら、でも、前は、マスターソード貸してくれたじゃない? 」 「あのー、それは、きみが勝手に抜き取ったから。それに、マスターソードは、今は あの時とは状況が違ってて……」  黒の魔石(ダーク・メテオ)の力を吸収したマスターソードは、以前と違い、黒魔法 が強化したが、同時に、敵の魔力を吸収し、使うことが出来る。剣の持ち主でない 限り、魔力を吸収することは出来ないのだった。 「ふ~ん、なんだか事情があるみたいね。……だったら、バスターブレードでもいい わ」 「それこそ、人には、使えない剣なんだ」 「あら、ちょっとくらい重くたって、あたしは平気よ」 「そうじゃないんだ。バスターブレードは、前の持ち主の意志を引き継いだ者にしか 使えないんだ」 「えーっ、そうなの? じいちゃんとこで見てから、あたし、バスターブレード使っ てみたかったのに。……あ、見たことあるっていうのは、もちろん、魔術であって、 本物じゃないけどね」 (ゴールダヌスか。さすがに、何でも知ってるらしいな) 「でも、何でその、『じいちゃん』は、そんなに性格に伝説の剣の姿形を知ってなん だ? 魔道士の力を持ってしても、この剣は――特に、マスターソードは知られてな かったはずなんだよ」  マリスは、少し驚いて、ケインを見る。 「そうだったの? でも、じいちゃんは、どっちの剣も、見たことがあるって言って たわ」  ケインは思わず、ダグラの足を止めた。マリスも、揃って、手綱を引き、彼の隣で 立ち止まる。 「……そんなことは、有り得ない。だって、バスターブレードも、マスターソードも、 前の持ち主は、何百年も前の人物だったはずだ」 「じいちゃんは、千年以上も前から生きているのよ。だから、きっと、その間に、 両方の剣を見たんだわ」 「せ、千年だって!? 」  驚いたケインは、マリスの顔を見つめながら、クレアの言葉を思い出した。  『半ば魔神と化した魔道士』だと。 (千年も生きているということは、やっぱり、そういうことなのか)  ついでに、ふと思い出す。  フェルディナンドで出会ったカエル魔道士のドゥグは七〇〇年、木の魔道士バヤジ ッドは六〇〇年以上生きていると言っていた。既に、ヒトとはほど遠い外見の彼らで あったが、それ以上も前から生きているゴールダヌスとは、どのような外見だったの だろうか?  (ゲテモノ食いだと言うし、殆どバケモノだったんじゃ……!? )  そう思い付いて、ケインは、ぶるっと身体を震わせた。 「詳しい話はよく覚えてないんだけど、バスターブレードのことは、なんでも北の果 ての巨人族の剣で、この世で最強の剣だってことくらいは、なんとなく覚えているわ。 マスターソードのことは、あの剣は詳しいことは持ち主にしか伝授されないからって、 あまり教えてもらえなかったけど。いくら優秀な魔道士たちが力を合わせて探ろうと しても、ダメだったみたいよ。  五〇〇年前に魔道士の塔が設立されて以降も、マスターソードの秘密は、どうして も探れなかったみたいだわ」  マリスは一旦区切ってから、続ける。 「それでも、じいちゃんや、『蒼いじじい』、ヴァルなんかは、もうちょっとは詳し く知ってるみたいだけどね」  『蒼いじじい』とは、ゴールダヌスと敵対する蒼い大魔道士のことであった。  あまりにも強力な魔力を持つ魔道士には、その名を口にしただけでも探知されてし まうおそれがあるため、悪口ではなく、マリスはそのような言い回しをしたのだった。 「ねえ、ほんとに、剣貸してくれないの? 」  マリスは、好奇心を隠せない目を隠し切れずに、媚びた表情を作っている。 「貸したいのは、やまやまなんだけど……」  ケインは、少しの間、考えていた。 (バスターブレードは、本来の持ち主の意志を受け継がないと……だし、マスター ソードは、ダーク・ドラゴンの力が吹き込まれ、剣を使えば使うほど、俺に馴染んで くるもの。マリスに貸したところで、その力が逃げていくわけでもないし、操れる わけでもないけど、その間は、剣の成長が止まってしまう。  この先訪れる町や村に、いい剣がなければ、マリスに貸している期間も延びること になるわけで、それだと、ちょっと――大分、もったいない気がする。かと言って、 バスターブレードは……! マスターソードは……! )  彼の思考はぐるぐると巡り続け、一向に答えが出る気配はない。 「しょうがないわねえ。あたしが決めたげる。よしっ! バスターブレードにしま しょう! 」  マリスが、ぽんと手を打った。 「こらこら、勝手に決めるなってば。それこそ、お前の持てるモンじゃないんだよ」 「ケインが前の持ち主から意志を受け継いで使えてるんだとしたら、あたしも、その 意志を受け継げばいいんでしょ? 」 「……それが、マリスに出来るようなことなら、俺だって、さっさとバスターブレー ドを貸してるんだけど」  溜め息を吐いたケインを、きょとんとした顔で、マリスは見ていた。 「いいか、これを手に入れた人間の意志と、違う者が使えば、巨人族が剣を取り戻し に来ちゃうんだぞ」 「……そうなの? 」 「そう」 「……で、その持ち主の意志って、何だったの? 」  マリスの瞳は輝いていた。 「俺が使えてるってことで、わからないか? その持ち主の意志は、すなわち正義だ」 「……」  マリスは、黙っていた。  少しの沈黙を経て、再び彼女は口を開いた。 「マスターソードは? 」 (……おい、なぜ、そんなに簡単に諦める? )  ケインは、横目で見てから答えた。 「マスターソードは、まだ成長段階なんだ。俺が使わない間は、成長が止まっちゃう んだよ」 「じゃあ、どっちもあたしには使えないっていうの? ひどーい! 」 「行いを正せば? そしたら、バスターブレードだって、使えるかも知れないぞ」  悠々と、ケインはマリスを見て言った。 「……バスターブレードもマスターソードも正義の剣……」  マリスはダグラの上で腕を組み、ぶつぶつ言っていた。 「よしよし、考えてる、考えてる。これを機に、行いを改め——」 「やっぱ、パス! どう考えても、どっちもあたしには無理みたい。お手上げだわ」  彼女は、肩を竦めてにっこり笑った。拍子抜けしたケインは、危うくダグラから 落ちそうになった。 「な、なんで、そんな簡単に諦めるんだよ。悪いことに使わなければ、いいだけなん だから、簡単だろ? 」 「それが、なかなか難しいのよねー。だって、野盗とか苛めちゃだめなんでしょ? 」  彼女は、ころころと笑っていた。 (このムスメは……! やっぱり、根性が曲がってる! ) 「……本当に、剣はいらないのか? 」 「うん。ケインに守ってもらうから、いい」  またまた彼は、ダグラから落ちそうになった。 「だって、どこの魔道士や魔物が狙ってるかわからないのよ? あたしが武器を持て ないんなら、ケインが四六時中守るしかないじゃない? あたしと常に一緒なのよ?  大変ねぇ、頑張って! 」 「し、四六時中……」  マリスのにっこり笑顔を見て、ドキッと心臓が鳴り、ほわっとした気持ちがケイン の脳裏を掠めたのは、ほんの一瞬であった。 (いやいや、呑気に喜んでる場合じゃない! 俺が根を上げて、剣を貸すって言い出 すまで、きっと何かやらかすつもりなんだ……! この顔は、絶対そうに違いない! )  両者の睨み合いが続く。  ふと、マリスが視線を反らせた。といって、睨み合いに負けたのとは、様子が違い、 真剣な表情だ。 「……魔物だわ……! 」  空が、ようやく薄暗くなりかけていたその時、久しぶりに対面しようとしている 魔獣の、おどろおどろしい気配が、ケインにも、徐々に感じ取れた。  ごごごごごごごご……!   砂漠の地面の底から、地鳴りのような音がする。 「大きいわ! ……まさか、近くに次元の穴が!? 」  ますます大きくなる地鳴りに、二頭のダグラは、悲鳴のような嘶(いなな)きを上げ、 暴れ出した。なだめても静まらなかったため、二人はダグラから下りる。二頭とも、 別々の方向へ駆け出していってしまった。  どごごごごごご……!   二人の前方の砂地が盛り上がる。頂点の砂が流れ落ちていくのと同時に現れたもの は――  太い四本の手足を生やし、頭が既にヒトひとり分はあろうかという、黒光りした 大きな岩で出来た八頭身のヒトに似せた形のもの――ゴーレムだった。 「ふはははは! 」  そのゴーレムの肩には、小柄な人影があった。  黒いフードを被った、見るからに魔道士のような者であったが、フードの中は、 三〇代後半くらいで、あまり特徴のない、魔道士にしては普通の青年らしさが感じら れる顔だった。 「ふっふっふっ、久しぶりだな、ケイン・ランドール! 」 「なにっ!? 俺の敵だったのか!? 」 「忘れたとは言わせんぞ」  男はそういうが、ケインには、まったく覚えがない。 「誰だ、お前は!? 」  魔道士の男は、足をすべらせかけたが、すぐに体勢を立て直した。 「ほら、私だ」 「……ほら、と言われても……? 」 「お前とは、ローダンの山で初めて会った……ほら、あの時の……」  なんとか思い出させようと努めているようであったが、といって、友人ではなさそ うだ。 「お前なんか知らない」  ケインが真面目な顔でそう言うと、ちょっとがっかりしたように、彼の口からは 思わず溜め息が漏れた。 「じゃあ、ザンドロス様のことは……? 」  自信をなくした小さな声で、男はまたしても尋ねる。 「ザンドロスだと!? そいつは、マスターソードを奪おうと企んだ、上級のヤミ 魔道士じゃないか! なんで、お前は、そんなヤツのことを知っている!?   ……そうか、それだけ、ヤツが有名人だったということだな! 」  し~んと、冷めた空気が流れていた。マリスも、謎のゴーレムでさえも、止まって いた。 「……マヌケ加減も相変わらずのようだな、小僧。我が名は――まだ名は許されてお らぬが、ザンドロス様と共に、お前を捕えようとした、お付きの新人魔道士様だ! 」  ゴーレムの肩の上で、魔道士がそういうと、タイミングよく、風が一吹きし、ふわ っと砂を巻き上げていった。  ケインは顔をしかめ、腕を組み、はたまた首を傾げ、一生懸命思い出そうと試みた。 「……………………………………………………………………………………………………………………………………ああっ!   そう言えば、いたな、そんなヤツ! 」  ケインは、ぽんと手を打ち鳴らした。 「ふっ、やっと思い出しおったか」  魔道士の方も、ちょっと嬉しそうである。 「ねえ、誰なの? 」  マリスが、つつつとケインに寄る。 「二年前に、ちょっと出会ってな。ザンドロスってヤミ魔道士は倒したんだが、その 時お付きだったこいつには、逃げられちゃったんだよ。別に倒すほどのヤツでもなか ったから、後を追わなかっただけで」 「なあ~んだ、そうだったの」  あはははは……と、その場は、笑いに包まれていた。 「ちがーう! そうではないっ!」   一緒に笑っていた魔道士であったが、ゴーレムの肩の上で足を踏み鳴らし、和やか な空気を遮った。 「私は大魔道士様のご命令で、二年と三ヶ月もの間、この砂漠で貴様を張っていたの だ! 今度こそ、逃しはしないぞ、ケイン・ランドール! 」  彼は、ピシッと指をケインに向けた。 「だから、逃げたのは俺じゃなくて、お前の方だってば」 「そうではないっ! 私は、あくまでも大魔道士様に報告をしに行ったのだ! それ は、新人魔道士の務めなのだ! 従って、決して、お前が怖くて逃げたのではないの だ! 」  いかにも言い訳じみた言い方に、二人には聞こえた。 「それで、あんた――ああ、名前がないんじゃ呼びようがないわね。とりあえず、 『名無しのプー』でいいわね? 」  マリスのセリフに、彼は、ゴーレムの上で転げ落ちそうになっていた。 「プーさん、あんたの言うその大魔道士って、もしかして、蒼い大魔道士のこと? 」  ケインは、はっとしてマリスを見た。 「大魔道士なんて、そうそういるもんじゃないわ。それに、彼は、マスターソードの ことを知っていたものね」 「さすがに、我が大魔道士様は著名であられる。小娘、貴様の言う通り、我が主人は、 蒼い大魔道士ビシャム・アジズ様であらせられる! 」  既に、勝ち誇ったような笑い声が、ゴーレムの肩の上という高いところから、こぼ れてきていた。 「そうだったのか! てことは、あの蒼い大魔道士が、マスターソードや俺のことを 知ってたのは……!? 」 「そうだ。私が報告したからなのだ! 」  またしても、嬉しそうな声であった。 「ああ、そうそう、お前に聞きたいことがあったのだった」  魔道士プーは、普通に、近所の住民のように、親し気な口調になった。 「バスターブレードのレオン・ランドールはどうしたのだ? お前の父親の。なぜ、 一緒ではないのだ? 今、どこにいる? 」 「……そうか、俺のことを覚えていたんだから、当然、彼のことも覚えていたか」  ケインは、ぎゅっと拳を握りしめた。 「父親って……」  マリスは呟いてから、ケインを気遣うように見る。  ケインは、顔を上げ、ゴーレムの肩に乗った魔道士をキッと見据え、言い放った。 「……レオンは死んだ。彼が息を引き取る前に、俺がバスターブレードを引き継いだ んだ」  ケインは、背中に背負い、突き出している剣の柄に、左手で触れていた。


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