Book3看板 Dragon Sword Saga3 〜Ⅳ.−3〜
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~ 第3巻『砂漠の謎』 ~

剣月黄ライン  Ⅳ.『ヒトの道』  〜 3 〜  剣月黄ライン

 男性用の水浴び場で、疲れを取ったカイルとケインは、木陰で瞑想するヴァルドリ ューズとは別行動になり、キャラバンたちの露店を、プラプラと見物しながら、マリ スとクレアを待つことにした。  女性用水浴場は、始めに見た大きな湖を挟んで向こう側である。男性用同様、やは り、背の高い岩場に覆われていて、浴場の中は見えない。 「しかし、こんなところじゃ、なかなか出会いなんかないだろうなー。別に、期待し ちゃいないけどな」  カイルが、露店で買った、果物の干したものをかじりながら笑う。  彼が普段の元気を取り戻してきたのを嬉しく思ったケインも、くすっと笑った。  しばらくして、カイルの足がピタッと止まり、そのまま茫然と立ち尽くす。 「どうしたんだよ、カイル? 」  怪訝そうに、ケインがカイルの顔を覗き込み、その視線を辿ってみると、二人の、 まだ若い女性の後ろ姿があった。  ひとりは、長い艶やかでストレートな黒髪。肩を包む程度の膨らんだ短い袖、ハイ ・ウェストを紐で結んでいる、淡いピンク色をした膝丈のワンピース姿だった。  東方の踊り子が着ると言われている服に、似ているとケインは思った。  もうひとりは、オレンジ色に輝く長いカールがかった髪で、赤い民族衣装に身を包 んでいた。  背中が広く開いていて、中で赤い布を巻き、その上から、赤い、透ける素材の服を まとい、腕のところは膨らんで、手首で締まっている。  腰にサッシュを巻き、同じ色の膨らんだパンツの足首のところは、キュッと窄まっ ていて、隣のピンクの衣装に比べ、彼らの着ている服装と近かった。 「後ろ姿を見る限りでは、お二人とも美人だよな。まさか、こんなところで、こんな 女の子たちがいようとは……! 」  ウキウキしているカイルの横では、ケインも思わず頷いていた。 「そもそも、このオアシスに着いてから、食堂だろうとなんだろうと、女性客なんか 見かけたのは、初めてだな」  ケインがきょろきょろしながらそう言うと、いきなりカイルが走り出したので、 慌てて追いかけた。 「ねえねえ、彼女たち、どこから来たの? 」  カイルは、赤い方の女の子に声をかけた直後、ピシッと強張(こわば)り、動かなく なった。 「すいません、こいつが何か変なことを……! 」  カイルの首根っこを後ろから捕まえたケインが、ペコペコする。 「カイルにケインじゃない。何してるの? 」  聞き覚えのある声に、ケインが顔を上げると、紫の瞳と目が合った。 「……マリス? ……クレア? 」  砂だらけだった時とは打って変わった美しい姿に、しばらく言葉が告げられず、 二人の男は、茫然としていた。 「あー、わかった。あなたたち、あたしたちだと思わなくて、ナンパしようとしたん でしょう? 」  マリスが、からかうように瞳をくるくる輝かせて、カイルをつんつん突(つつ)いた。 「まっ! こんなところに来てまで……! なんて人たちなの!? 」  クレアが、横目でカイルとケインを交互に見る。 「俺は違うよ! こいつを止めてただけだよ。一緒にするなよ! 」  固まったままのカイルの首を抱え、ケインは、自分名誉を守るのに必死だ。 「いやあ、あんまりかわいいから、思わず声をかけちゃったぜ。ホント、無意識のう ちだったんだよ。かわいいってのは罪だよなー」  カイルが、にっこり笑って、クレアとマリスに愛想を振りまく。 (な、何言ってんだ、こいつ? )  取り繕っているカイルを見て、ケインは横で、背中がかゆくなるような思いがし、 思わず彼から手を引いた。 「あら、かわいいだなんて……」  二人の少女たちは、まんざらでもなさそうに微笑む。  東方の文化も手伝って、二人は、どこか神秘的な、不思議な雰囲気であった。 「こんなに短い服、着たことないわ。……変じゃないかしら? 」  つい先程まで、目を吊り上げていたクレアが、膝上のスカートの裾を気にする。 「そんなことないっ! よく似合うぜ! 髪も、そうやって降ろしてるのも、かわい いっ! 」  カイルが大袈裟に絶賛する。  ケインも同感であった。ただ、彼のように、ペラペラ言ってあげることが出来ない でいた。それをもどかしくも思う。 「私には、こういう可愛らしいのは似合わないんだけど、やっぱり、クレアには似合 うわね。羨ましいわ」  マリスは、クレアを眩しそうに見ていた。  以前、カイルが指摘していたように、マリスは、中性的な雰囲気であることをうま く利用する時もあれば、それを気に病むこともあるのかも知れないと、ケインはふと 思った。 「食料だ! 食料をよこせ! 」 「水もだ! もっと持ってこい! 」  一行が、夕飯でも食べようと、宿に戻る途中、十数人の男たちが、キャラバンを脅 し、露店の前に群がっているのが見える。  関係のない露店のキャラバンたちは、そそくさと荷造りを始めている。  その場から逃げて来た商人を捕まえて聞くところによると、彼らは砂漠を旅するう ちに、資金が底をつき、ろくに金も払わず、水や食料を強奪しようとしているのだと いう。 「だからって、野盗に変貌するとは……」  ケインは、彼らの前に進み出ようとすると、 「お待ちなさい! 」  いつの間にか、赤いパンツスタイルと、ピンクのワンピース姿の女たち――マリスと クレアが、彼らの前に立ちはだかっていた。 「水や食料が貴重なものであるのは、皆にとっても同じこと。それを、お金も払わな いで持ち去ろうとは、不届き千万! 自分たちだけは特別だと思う、その驕(おご)り 高ぶりを、今すぐ悔い改めなさい! 」  クレアが、彼らに向かって、指を突きつけた。 「天に代わって、成敗するわ! 」  マリスも片方の手を腰に当て、もう片方は彼らに突きつけ、クレアとポーズを揃え た。  ケインたちの知らない間に、二人の息はピッタリであった。ケインとカイルは、 そのまま様子を見ることにした。 「なんでぇ、てめえらは!? 」 「小娘どもが! おかしなこと言ってると、てめえらも、かっ攫(さら)って、売り飛 ばしてやるぞ! 」  人相の悪い、茶褐色の皮膚をした男たちは、本物の野盗ではなさそうであるが、 随分と乱暴な口をきいた。  だが、飢えが人をここまでにさせている、とばかりは言い切れなかっただろう。  ケインやカイルが思うに、彼らは、もしかすると、ヤミ商人か、もしくは、それら と取引をしている者たちかも知れなかった。 「人を売るという行為は、それだけで犯罪です! あなたたち、それ以上、罪を重ね ていくつもりですか!? 」  クレアが、大真面目に発言していた。  言っていることは間違ってはいなくとも、彼女の言うことは、どこかズレていると、 ケインとカイルは思った。 「かっ攫(さら)えるもんなら、かっ攫ってごらん! 」  マリスの先制攻撃だった。向かいの男に蹴りを喰らわせると、男は、どたっと倒れた。  クレアも、呪文を唱え始める。 「このアマ! やっちまえ! 」  野盗まがいの男たちは、一斉に、マリスとクレアに襲いかかっていった。  待ってました! とばかりに、マリスが、男たちを次々と投げ飛ばしていく。剣は なくとも、素手で充分であった。

 
風の魔法

「うぎゃーっ! 」  クレアに、手を伸ばした数人の者たちも、彼女の放つ風の魔法によって、露店と共 に吹き飛ばされ、舞い上がった。  大勢を一遍にやっつけるという点では、効果的ではあったが、関係のない人々まで 巻き込んでいた。  実戦経験の少ないクレアには、まだ状況判断は難しいようだ。  数十人の賊たちは、二人の少女により、みるみる『人山』となって、築かれていっ た。 「これっぽっちじゃ、足りねえよ」  男たちの持ち合わせでは、せいぜい三人分の食料と、水を買うので精一杯のようだ った。 「おなかが空いたら、祈りなさい」  クレアが、手を合わせた。 「祈って満腹になるか! 」 「そうだ、そうだ! 」  男たちは、跪いたまま、ぶーぶー文句を言う。 「だからって、人様から食べ物を奪っていいの!? 」  マリスが仁王立ちになり、腕を組んで、彼らを見下ろす。 (あのー、そんなこと、きみに言えた義理だろうか? )  ケインは、ちょっと思った。 「金が足りないんだったら、真面目に、ここで働いて稼いだらどう? それでこそ、 初めて人並みの食事が出来るってものよ。地道にやりなさいよ、地道に」  マリスが、手前にいる禿げ頭を、ポンポン叩いて言った。 「あなたたちの荒(すさ)んだ心に、よく効くお話をして差し上げますわ。  昔々、あるところに、有り難い老修道士様が……」  言いかけたクレアを、マリスが引っ張って連れ去った。 (一体、何を言おうとしていたんだろうか? )  ケイン、カイルは、目を点にしながら、見守っていた。 「おっちゃん、あと、そいつとそいつも! 」  機嫌のいいカイルの声が響く。  一晩を、固い石のベッドで過ごし、完全復活した一行は、ダグラを二頭と食料、 水を買い、準備万端で、オアシスを後にしようとしていた。 「それよりも、お客さんたち、この砂漠の中を、ガイドなしに行くってのは、あまり にも無謀なんじゃないのかい? いくら、そっちのお方が魔道士だと言っても」  商人たちが、皆心配そうに一行を見ていたが、構わず出発する。  いよいよ、次元の穴を捜す彼らとしては、どのような化け物が出るともわからなか ったため、一般人を巻き込むことは出来なかったのだ。  ぱたたたた……  オアシスを出発して間もなく、何か白いものが飛んできて、一行の頭上で旋回して いる。 「バヤジッドのハトだ」  そう言って、ヴァルドリューズは、腕にハトを止まらせた。  ハトの足に括(くく)り付けられた小さな袋を開けてみせると、そこには、あの赤い 飴玉が入っていたのだった。 「……いまさら……」  呟いたのは、ヴァルドリューズ以外、全員だ。 「また砂漠の熱で溶けちゃうんじゃないか? 」  呆れたように、カイルが言った。 「ま、そうなったらそうなったで、仕方ないでしょう」  マリスは、それを、無造作に布袋の中にしまった。  やっとのことで、本来の目的である、魔物の通り道『次元の穴』を、目指せる『白 い騎士団』一行であった。  クレアとマリスが同じダグラに、男性陣は、ひとりずつダグラに跨がり、再び砂漠 へと向かう。


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