Book3看板 Dragon Sword Saga3 〜Ⅳ.−1〜
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~ 第3巻『砂漠の謎』 ~

剣月黄ライン  Ⅳ.『ヒトの道』  〜 1 〜  剣月黄ライン

「……何か見えるわ! 」  マリスが、前方を見据えた。  彼女の言う通り、地平線の彼方には、白い建物のようなものが、ずらっと横に並ん でいるのがわかる。日は昇っており、暑さのため、景色は、ゆらゆらとぼやけていた。 「なんだ? 町でもあるのか!? 」  カイルが、ダグラから身を乗り出す。  『白い騎士団』一行は、その先にあるというオアシスを、単に次元の穴への目印と いうことではなしに、捜していた。  日除けの白い布は砂色に染まり、マリスの甲冑の、金色の凹凸にも、砂が積もって いる。  ヴァルドリューズの黒いマントも、砂で灰色になっており、ミュミュも、動物が全 身の毛を振るうようにして、時々身体を振って砂を払っていた。  厄介なことに、風が地面の砂を荒らして行くことは、しょっちゅうであった。  砂が入らないように、常に目を細めているので、皆の人相も悪くなっている。  そして、何よりも、水と食料が尽きてしまったのが、身体だけではなく、精神にも ひどくダメージを与えているのだった。  トカゲの肉で飢えを凌いだのも、ほんの一時的なことに過ぎず、新たな飢えと乾き は、直ちにやってきていた。  そんな時であった。地平線の彼方に浮かぶ町を発見したのは。 「なんだか、全然近付けないような……? 」と、カイル。  近いと踏み、日中でも進み続けたが、見つけてからかなりの時間が経つにもかかわ らず、一向に近付いているという気がしない。 「……もしかして……」  マリスが躊躇(ためら)いがちに言いかけるが、その続きをなかなか言おうとしない。 「もしかして……なんだ? 」  同じダグラに跨がるケインが、後ろから催促してみるが。 「……あれが、噂に聞く――蜃気楼(しんきろう)ってやつなんじゃ……」  ――蜃気楼――!?   一行のダグラの足は、一遍に止まる。 「……おい、ミュミュ、見て来いよ」  カイルが、後ろのヴァルドリューズを振り返り、その肩に止まっているミュミュに 向かって、目付きの悪い顔のままで言った。 「えーっ! ……もう、しょうがないな」  ミュミュは、ぶつぶつ言いながら、その場から姿を消した。 「……『本物』を見たのは初めてだわ。ベアトリクスにも辺境があって、ちょっとし た砂丘なんかもあったんだけど、ここまでの規模じゃなかったし、そこまで深入りは しなかったから。……やっぱり自然界は、ナメらんないわね」  首だけ後ろに向けて、マリスが言った。 「……そうか、ベアトリクスに辺境が……だから、マリスは、砂漠の生き物に詳しかった のか」 「じいちゃんのところで見たものと辺境で見たものが、こんなところでも見られると は思わなかったけどね」  ミュミュが戻るまでの間は、たあいもない話でもしていないことには、精神を正常 に保つことなど出来そうもなかった。  すると、そこから、少し離れたところにある岩だと思っていたものが、のっそりと 動き出した。  クレアが小さく悲鳴を上げる。 「ガンダルだ……! 」と、ケイン。 「へえ、よく知ってるじゃない」マリスが感心した。  ケインが、その動物を知っていたのは、マスターソードを手に入れる時に、見た覚 えがあったからであった。  ガンダルは、全身が鉱物のように固く、石や岩にそっくりで、砂や石などを食べる 生き物だった。  その横を、てのひらほどの大きさの灰色をした小動物——ネズミが、ちょろちょろっ と通る。目を凝らすと、その後ろを、長い紐状の物がうねり、砂地に出来ていた波の 模様と似た、うねった紐状の跡を残し、密かにおいかけているのもわかる。 「砂ヘビだわ」  再び、マリスが言った。ヘビは、見た目も砂と同じ色をしていて、見分けがつきに くい。マリスの目が、きらっと光ったように、ケインには思えた。 「……おい、……まさか……? 」  クレアが聞けば悲鳴を上げそうなことを思い付いたのではないか、と心配した彼は、 口には出さずにマリスに確かめようとしたつもりであったが。 「ふっふっふっ、すぐには捕まえないわ。あのヘビが、ネズミを食べて、太ったとこ ろを――! 」 「いやーっ! 」  マリスの呟きが聞こえたクレアは、ケインの予想通り、泣きそうな声を上げる。 「あのなあ、ヘビは歯がないんだぞ? ネズミを食っても、丸ごと飲み込んでるだけ なんだから、それを捕まえて食ったりしたら、俺たちも、中のネズミまで、そのまま 食うことになるんだぞ」  ヘビも、前回のオオトカゲのように焼けば食べられそうなことは、皆にも見当は付 いたが、ネズミは、動物はおろか、ヒトの死体まで食べる動物だった。そんなものを 食べるのは、皆、さすがにごめんであった。 「あたしもネズミは初めてだわ。どんな味がするのかしら? 」  だが、マリスの答えは、やはり『そんな』だった。 「いやよ! 今度こそ、絶対イヤッ! 」  クレアが首を横に振る。カイルも、明らかに嫌そうな表情だ。  それに構わず、マリスはそろそろとダグラから降りていく。ヘビであれば、トカゲ と違い、動きがおそいと踏んでか、甲冑は着たままだった。  ガンダルは、いつの間にか、じっと動かず、『岩』になってしまい、その先をネズ ミが、ちょろちょろと進んでいき、その後を一定の距離を置いてヘビが追い、更に マリスが追う……。 「この際だ。ネズミは、マリスに食ってもらうとして、ヘビに、トカゲと同じ期待を しようぜ」  カイルがケイン、クレアに囁く。  そこで、ヘビがネズミに襲いかかった! 頭をぐっと持ち上げたかと思うと、一気 にネズミの首に食いついたのだった!  「チーッ! 」  ネズミは一鳴きし、その場で飛び跳ねて抗った。ヘビも、地面に身体を打ち付けら れる。二つの生き物は弾みながら、または、転がりながら、格闘していた。  それを、じっと見守り、タイミングを計っている『ヒト』がいる。  ズザザザザーッ!  突然、二匹の足元が崩れ出した。砂がみるみる沈んで行き、凹んでいく。 「食い物っ! 」  二体の生き物目掛けて駆け出したマリスも、ズボッと砂に足を取られ、鎧を着た重 い身体は、砂にめり込んでいった!  「マリス! 」  ケインが慌ててダグラを駆り立てた!   砂は、ますます深く沈み、底が無いかのように、どこまでも、さらさらと崩れてい く。砂地に出来た突然の大きな『お椀』の底へと、ネズミに食いついたままのヘビと、 その後ろのマリスとが、もがけばもがくほど砂に運ばれていった!  「掴まれ! 」  辿り着いたケインが、ダグラの上から手を伸ばす。マリスも砂まみれになりながら、 手を上に伸ばす。その時だった!   ザバアァァァアアア……!   砂の椀の底から黒い物が現れた!   体長がヒトひとり分はありそうな、緑色の大きな筒のような形のムシであった。  長い、折れ曲がった足が数本、身体の横から生えていて、先端はラッパ形の丸い輪 のように赤くなった口が、パクパクと、開いたり閉じたりしている。緑色の蔓か触角 のような長いものも数本、うねうねと、まるで手をこまねいているようだ。  それは、巨大な食虫植物ならぬ、食肉植物であった!   ごろごろと転がって行ったネズミとヘビを、その口が、今か今かと待ち構えてい る。 「きゃあっ! 」  マリスが珍しく女の子のような悲鳴を上げて、それから顔を反らし、目をつぶった。 そのせいで、彼女がもがきながら夢中で掴んだのは、ケインの差し出した手ではなく、 ダグラの足だった。 「ぐげるるるっ! 」  バランスを崩し、悲鳴を上げるダグラごと、ケインは砂の椀に突っ込んだ!   砂からなんとか顔を出すと、目の前では、巨大な赤い口の輪の中へ、ネズミとヘビ が転がり込んだところであった。 「うわああああ! 」 「きゃああああ! 」  巨大ムシの赤い輪は、真一文字に閉じると、首にあたる細くなっていた管の部分が 急激に膨らみ、吟味しているように、もこもこ動いている。そのうち、留まっていた 塊は、管の奥の筒のような身体の中へと送られていき、赤い口からは、ぷっと砂を吐 き出した。  空になった口が、次なる獲物を求め、捕えようと、二人に向かい、大きく開かれた 時――  ぼほわぁっ!   突然の風圧が、彼らを砂ごと巻き上げた。  マリスとケイン、ダグラは、一気に砂地獄から抜け、そこからは離れたところへ落 下した。  ダグラは、恐怖心からか、狂ったように嘶(いなな)き、今までにないスピードで 駆けていってしまった。  ケインが後を追おうか迷ったが、もし、本当に狂ってしまったのだとしたら、乗る ことは無理なので、やめた。 「スナジゴクオオクイだ。気を付けろ」  ヴァルドリューズがダグラに乗ったままの状態で、片手を降ろしたところだった。  二人を巻き上げた風を起こしたのは、彼であったのは一目瞭然だ。 「噂には聞いてたけど……なんて不気味な……! 」  マリスが、ごほごほ噎(む)せながら、起き上がる。 「何!? お前も、知ってたんなら、気を付けろよ」  砂が目に入ったケインは、涙を流しながら言うが、それは、目が砂を追い出すため だけではなかっただろう。  そして、偵察に行っていたミュミュが、いつの間にか、ヴァルドリューズの肩に乗 っている。とうに戻っていたようだ。 「あれは、やっぱり『しんきろう』だったみたい。あっちの方角には、なんにもなか ったよ」  そのミュミュのセリフは、一向にとって、極めつけだった。 「……なあ、水と食い物がなくなってから、今日で何日経つ? 」  繰り返されるカイルの質問には、誰も答えることが出来なくなっていた。  ヘビを食べ損ねた上、ケインとマリスの乗っていたダグラには去られ、ヴァルドリ ューズのダグラに、無理矢理三人乗って進む。  あれから、ガンダル以外の生き物たちに出会うことなく、相変わらず容赦なく照り つける日差しの中で、彼らは、砂の中に埋(うず)もれていた。  砂は表面は熱く、直に触れれば火傷するが、深く掘ってみると、多少温度は下がる。  ヴァルドリューズがてのひらから風を起こし、削ったところへ、皆は俯せになり、 火照(ほて)った身体を癒していた。 「……水……食い物はともかく、水だ……! 」  その言葉は、カイルが呻く。  生き物さえいれば、焼いて食べられることは立証されたが、水だけは、どうしよう もなかった。こうしている間にも、体中の水分が抜けていくのが感じられる。  もう水を口にしなくなってから大分経つというのに、汗だけは出ていた。服の上か らでも、じりじり照りつける日差しに、服を素通りして、まだ残っているのかと思わ れるほど、水滴が身体から逃げていく。  身体に必要な水分であり、このままでは脱水症状で本当に危険な状態になるであろ うことは、皆、身体で感じていた。  例え、今、生き物が現れ、焼くことが出来てたとしても、口の中は粘膜のようなも ので粘ついているだけで、舌も喉もこう乾き切ってしまっては、食べ物を飲み込むこ とさえ困難だっただろう。  一行、二度目の、生死をさまよう大ピンチであった。 「クレア、魔法で水は出せないのか? 」  カイルが、力のない声で言った。 「出しても、本物の飲料水というわけではないから。水の特性を生かした、似たよう な物質の……」  呟くようなクレアの説明は、途中で終わってしまった。  そのまま、砂の中で時間は過ぎていく。  もはや、呼吸でさえも、苦しくなってきた時――  ぱたぱたぱた……  ケインは、耳元で、何かが羽ばたくような音がしたのを感じた。 (とうとう、耳までイカレてきたか)  うっすら目を開けてみると、灰色のトリの雛が、すぐそこで飛んでいた。  ケインの目は、カッと見開かれた!   雛は、まだ未発達な、小さな翼で、懸命に飛んでいる。  ケインは、むくっと起き上がり、夢中で雛を掴んだ。 「ピーッ! 」  雛が鳴き声を上げてもがくが、ケインの両手は、しっかりと握り締めている。  枯れていたと思っていた唾液が、舌に甦る。 (生でもいい! 食ってやる! )  と、思ったその時――!  「たーっ! 」 「のわあああっ! 」  彼の右肩に、突然、何かが強くぶつかってきて、彼の身体は弾き飛ばされ、砂煙を 上げ、転がった!   思わず、雛を手放す。  一体、何が起こったのかわからず、ケインは、衝撃を受けた肩を押さえながら、身 体を起こすと、雛を片手に勝ち誇ったように笑うマリスの姿が、ぼうっと見えた。 「……うっ、マリス! ……なんて卑怯な……! 」  どうやら、彼女に飛び蹴りされたらしいと、ケインは理解した。 「俺が見つけたんだぞ! 」  よろよろと立ち上がり、マリスを睨みつける。 「なによ! あたしが見つけてきたトカゲを、あんただって食ったじゃないの! 」 「いつの話してんだ!? だったら、そいつをみんなで分けて食おう! 独り占めな んかすんなよ! 」  ケインがそう言うと、いつの間にか、彼女の後ろにいたカイルが、引ったくるよう にして、雛を奪う。 「やったあ! 食いモンだぜーっ! 」  カイルは、雛を掴んだまま小躍りしていた。 「こら、カイル! 今、みんなで分けようって言ってたとこなのに……! 人の話聞 けー! 」 「こんな小さいモン、山分けなんかしたら、腹の足しにもなんねえよ! 俺は、お前 らと違って、か弱いんだから、お先に頂かせてもらうぜ! 」 「あたしだって、もう限界なんだからー! 」  マリスが、パシッと雛をはたき落とす。それを、ケインがタイミングよくキャッチ した。  間髪入れずに、ひゅっとマリスの蹴りが飛んでくるが、彼は、とっさに腕で防御し た。 「ちっちっ、同じ手は食わないぜ! 」  マリスに向かい、人差し指を振っている間に、雛は、ピーピー鳴きながら、よろよ ろと飛び立った。  はっと、ケインとマリスが振り向くと、カイルが両手で、バシッと挟んで捕まえた。 「ピィーッ! 」 「はっはっはーっ! 俺のもんだぜー! 」  野盗のごときカイルが、トリを持って、よろよろと走り出すが―― 「返せー! 」 「たーっ! 」 「うわあーっ! 」  ケイン、マリス、カイルは、必死に雛を奪おうと、取っ組み合っていた。 「みんな、いい加減にしてっ! 」  クレアの声と同時に、三人の身体は、突風に見舞われ、吹き飛ばされた。その上、 砂や小石がバチバチと当たって痛い。 「目を覚ますのよ! 『それ』は、ミュミュよ! 」 「へっ!? 」  三人は、クレアのセリフに、思わず目を思い切り見開き、彼女のてのひらにあるも のを見直した。 「ひどいよ、みんな! ミュミュのこと、食べようとしたなーっ! 」  ピーピー言っていた灰色のトリの雛は、よく見ると、体中を砂だらけにして泣いて いるミュミュに、移り変わっていったのだった!  「ご、ごめん! ミュミュだったのか!? てっきり、トリの雛だと……」と、ケイン。 「そうそう。悪気はなかったんだよ」カイルも弁解する。 「ごめん。あたしも、てっきり、モグモグだと……」 「……おい、なんだそりゃ? 」マリスに向かい、ケイン、カイルが眉をひそめる。 「うわーん! ひどーい! 」  ミュミュが飛び回りながら、泣き叫んだ。 「俺としたことが……! 飢えのあまり、幻覚症状まで……! 」  ケインは、がっくり肩を落とし、溜め息をついた。 「我ながら、ショックだ。自分に、あんなあさましいところがあったなんて……! 」 「やれやれ、こういう時に、人間の本性って、出るモンなんだよなあ。あはははは! 」  落ち込むケインと対照的に、カイルが明るく笑っている。 「あたしじゃないの。サンダガーが欲しがってたのよ」 「都合のいいこと言うな! 」  マリスの言い訳に、即座にケイン、カイルが言い返すと、クレアが両手を組み合わせ、 天を仰いだ。 「ああ! 人間て、なんてみにくい! 」 「あんただって人間でしょ! 」 「ひどいよー! ひどいよー! 」  ――飢えが最高値に達し、皆、神経が尖って、ぴりぴりしていた。  ふと、ある考えが、ケインの頭をよぎった。 (腹も減り、体力、精神力ともに衰えているこんな中、もし敵にでも遭遇したら?  クレアやヴァルだって、ベストの状態からすれば、魔力は減っているはずだ。しかも、 マリスは、剣を持っていない……! もしかして、俺たちは、最も危険な状態なんじゃ ……!? )  この世に二人といない『獣神サンダガー』を操ることのできる、特異な少女戦士と、 上級魔道士、魔法剣の男、魔道士見習いの巫女、役に立つんだかなんだかよくわから ない妖精に加えて、伝説の剣を二つも持っているケイン――という最強(?)のメンバー は、こんなところで、敵または自然の掟によって、息絶えてしまうのだろうか!?   ケインは、ヴァルドリューズに目をやる。 (もしかして、ヴァルが結界でも張ってくれてるんだろうか? だけど、ずっとなん て無理だろうし、よくはわからないけど、なんとなく、今は結界は張られていない気 がする……)  周りは、まだ騒いでいる中、ケインはヴァルドリューズに歩み寄った。 「……今、敵に出てこられたら……絶対絶命かもな」  彼の無表情な碧眼が、ゆっくりとケインを見下ろす。 「今のところ、その気配はないが、用心に越したことはないだろう」  ケインは、黙って彼の目を見つめた。  極限状態の中、それでも彼は、常に敵を意識していたのだった。  高い魔力を身につけるには、相当な精神力をも必要とする。  この砂漠では、どんなに鍛えられた精神の持ち主でさえ、正常に保つのは困難だっ ただろう。  いくらか魔力を消耗していたとしても、上級魔道士とは、皆がヴァルドリューズの ように、こんな時でも冷静に物事が判断できるものなのだろうか。  だとすれば、ベアトリクスの魔道士団や、他の魔道士たちを敵に回すということは、 非常に恐ろしいこととなる。  ケインは、「できれば、ヴァルだけが特別であって欲しい」と願うのだった。 「……というのも、あまり断言できないのだが」  大分経ってから、ヴァルドリューズが付け加えた。 「どういうことだ? 」  ケインが聞き返すと、ヴァルドリューズは躊躇(ためら)いがちに口を開く。 「マリスの甲冑は、彼女の発する魔力を、外に漏らさないよう細工してある。私の魔 力も、極力抑えているので、遠くの者たちには嗅ぎ付けるのは困難なはずだ。だが、 それに加えて、どうもこの砂漠は……『魔力を読み取るのが困難』なのだ」  それがどのような意味なのかは、ケインには憶測で感じ取るしかない。 「俺は、魔道には疎いから、よくわかんないんだけど、アストーレからフェルディナ ンドへ行った時みたいに、高速で飛ぶか、空間を通って行くことは出来ないのか? 」 「そのつもりであったが、様子を伺っているうちに、次元の穴の場所が、はっきりと わからないこともあるが、時空を移動するよりも、足で進んで行った方が、まだ安全 だという気がして来たのだ。内部に入れば入るほど、そのようだ。バヤジッドのペン ダントを開けてみろ」  言われて、ケインは、ポケットから木のペンダントを取り出し、開ける。  彼の肖像画は、絵のままだ。時々、ぼやっと揺れるが、実写になるまではいかない。  顔を上げてヴァルドリューズを見ると、彼も頷いた。 「やはりな。通信が出来なくなっている。何か、魔力を妨げるものが、この砂漠には あるのだ」 「魔力を妨げるなにか――? 次元の穴と関係あるのか? 」 「それはわからない。が、今まで見て来たものより、規模の大きいものなのかも知れ ぬ」  それを、ケインは、サンダガーでなければ、倒せない魔物が潜んでいるということ、 と受け取る。 「そのおかげで、敵の魔道士たちには、今のところ、遭わずに済むのだろうが、逆に、 こちらも彼らを察知しにくいということだ。ただし、ミュミュの特殊能力は、あまり 関係ないらしいが」 「……ってことは、今のところ、一番頼りになるのは、あいつってことか。……非常~ ~~に、頼りないけど」  ケインが、力なく笑う。 「どんな敵が潜んでいようが、下手したら、俺たちの命は、ミュミュ(あいつ)に握ら れている――俺には、そっちの方が怖いな」


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