Book3看板 Dragon Sword Saga3 〜Ⅱ.−2〜
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~ 第3巻『砂漠の謎』 ~

剣月黄ライン  Ⅱ.『刺客』  〜 2 〜  剣月黄ライン

「ひえーっ! 死霊アルよー! 」  ガイドの男チョウが、頭を抱えて伏せている。  空には、無数の白いふわふわしたものが浮かんでいた。  よく見ると、それは、生気のない人間の顔であったり、ウマやダグラ、その他には、 大型動物から小動物まで、いろいろな姿形があった。  噂通り、砂漠で死んでいったものたちの死霊なのだろう。   ケインの手が、マスターソードに伸びるが、マリスもロングブレードに手をかけた まま、まだ抜こうとはしない。  『彼ら』が襲ってくるような気配は、今のところなく、ふわふわと揺れながら、た だ空中を漂っているのであった。 「『この人たち』は、成仏できなかった人たちなんだわ! 」  顔を伏せていたクレアは立ち上がり、空を見上げて、語りかけた。 「どうしたのです? あなたたちは、何を訴えたいのです? 良かったら、私に話し てごらんなさい」  クレアが片方の手を差し延べて、霊たちに問いかける。 「……ええ、……ええ、……まあ! そんなことが! 」  ケインたちには、何が起きているのか、よくわからなかったが、クレアは親身にな って、頷いている。巫女だった経験を生かして、幽霊たちと交信を試みているらしか った。 「大昔、ここで起こった大洪水によって、亡くなったという方が大半だわ。後は、や はり、砂漠の厳しさに付いていけずに……ああ! なんて可哀相! 」  クレアは、両手で顔を覆い、泣き出した。カイルがその横に並び、肩を抱いたが、 それには気が付かないまま、スッと彼女は顔を上げた。 「わかりました。私に任せてください。白魔法の究極奥義で、あなた方を救って差し 上げるわ! 」  祈るように両手を組み合わせ、目を閉じ、呪文を唱え始める。  途端に、白い幽霊たちは、ざわめき、一斉にクレアに襲いかかっていったのだっ た!  「クレア! 」  駆け出そうとするケインとマリスを、ヴァルドリューズが手で制した。 「究極奥義の魔法の時は、呪文を唱えると同時に、術者は結界で守られる」  その言葉通り、クレアの周りには、薄く白い膜のようなものが出来ていて、霊たち は、それ以上、彼女に近寄ることは出来なかった。  ――が 「おーい! 俺はどうなるんだよー! 」  クレアの隣にいたカイルが、魔法剣を抜いて、襲いかかる死霊たちを、ばさばさ切 り裂いていくが、霊たちは、切られても、切られても、すぐに切り口同士がくっつき、 復活していた。  カイルを援護しに、ケインとマリスが向かう。  マスターソードで死霊たちを切り裂くが、やはりすぐにつながってしまう上に、ケ インは、なんとなく、『キレが悪い』気がした。  いつもの魔物とは勝手が違うようで、剣の中のダーク・ドラゴンも食わないように 感じる。 「クレア、まだかよ!? 」  カイルが振り返るが、まだ呪文は唱え終わらない。 「えーい、面倒だ! サイバー・ウェイブ! 」  久々に、カイルが魔法剣の魔法を発した。  剣から吹き出す銀色の霊気が、死霊たちを両断する!   その霊気が通った後だけ、白い霊たちは、きれいに消えていた。 「そうか! カイルの技も『浄化』だから、死霊に効いたんだ! 」  マスターソードで霊たちを切り裂きながら、ケインは言った。 「そっか! じゃあ、もういっちょいくぜ! サイバー・ウェイブ! 」  銀色のうねりは、ぎゅるぎゅると死霊たちを消していく。  それにまかせて、ケインとマリスは、離れて見ていた。  その時、クレアの瞳が、パチッと開いた。  「長らくさまよい、たゆたいしものたちよ。今こそ、永遠の安らぎに、その身を委ね よ! 」  彼女の大きく開かれた両手からは、白い炎が発射された!   ぐぉぉぉおおおおおお!   ごわああぁぁぁああああああ!  勢いよく天に伸びていく白い炎に巻かれた霊たちは、恐ろしい、まるで断末魔の叫 び声のような音を発して、消滅していく。 「良かった! ちゃんと成仏していってるわ! 」  クレアは、涙にぬれた頬も乾き切らずに、微笑む。 「さあ、あなたたちも成仏よ! 」  また別の方向に向かって両手を翳す。  ぐぎゃああぁぁぁああぉぉおおお!   やはり、悲鳴のような、叫び声のような音が発せられている。 「はい、成仏! 」  があああぁぁぁぁあああ!   ごほおおおぉぉぉぉおおお!  「ああ、皆さん、喜んでらっしゃる! 良かった! 」  クレアが、美しい笑顔で空を見上げる。  霊たちは苦しそうな声を上げ、『成仏』というより、『消滅』していってるように、 クレア以外には思えた。  死霊は、続々と消えていった。  カイルも、いつの間にか引き下がり、ケインたちと並び、ぽかんと口を開けて、そ の様子に見入っている。  シャーッ! と数匹の霊たちが、クレアの後ろに回った! 「はいはい、慌てないで。順番よ」  彼女の放った白い炎が、その霊たちを包み込む――というより、当てられた。  そして、やはり、『彼ら』は、悲惨な絶叫を残して消えてゆく。  今や、死霊たちは、残すところ、僅かになってしまった。 「アイヤー! お嬢さん、巫女さんだったアルか!? 」  すべての霊がやられ――もとい、成仏した後、案内人チョウが、ビックリして目を パチクリしていた。 「これで、砂漠に現れる死霊はいなくなりましたわ。これからは、皆さん、ご安心し てここを通られると思います」  クレアが、にこやかに笑顔で言った。 「これなら、安心して眠れるアルな! いやあ、良かったアル! 」  チョウは、何度もクレアに頭を下げた後、寝袋を取り出し、砂地に敷いて、さっそ く中に包まった。  一行も、いつもの寝袋に、それぞれ入り込んだ。 「ケイン」  強くゆさぶられ、ケインがうっすら目を開くと、カイルであった。 「どうした? 」 「シッ。妙な感じがする。ここから離れた方がいい……! 」  押し殺した声でカイルが言い、魔法剣を見せた。  彼の魔法剣には、災いを予知する能力がある。その魔法剣の知らせによるものであ った!  「みんなは? マリスたちは……」  もぞもぞと、寝袋の中で、簡単に身支度をしながら、ケインが小声で聞く。 「ヴァルとミュミュはいない。あのガイドのおっちゃんもいなくなってる。俺は、 マリスとクレアを起こしてくる」  カイルは、すぐ後ろで寝ている二人の方へ行く。  ケインは身体を起こし、真っ暗な周りの様子に気を配る。  なんとなく、空気が生暖かいような、変な感じがした。  その時!  闇の中には、いくつもの光るもの――目のようなものが一斉に浮かび上がったのだ った!  「魔物だ! 」  後ろにいるカイルたちに向かい、ケインが叫んだ。  飛んで来たカイル、クレア、マリスとケインは、背中合わせに固まった。 「ひゃひゃひゃひゃひゃ! 」  声のする方を見上げると、黒いフード付きマントを被った、茶褐色の肌の太った男 が、空から舞い降りてきた!  「……やっぱり、てめえだったか! 」  カイルが舌打ちした。  下りて来たのは、案内人のチョウだった!  「ワタシ、タイラ国の魔道士チョウだったアルよ! 」 チョウは、ふわふわ飛びながら言った。 「ラータン・マオのあの魔道士、偵察に行ったネ。彼は手強い。ラータンでも有名な 宮廷魔道士だったアルよ。ワタシ、ベアトリクスから聞いた。お前の首、賞金かかっ てる。だから、彼のいない間、お前、捕えて、ベアトリクスに引き渡すアルよ! 」  ふぉっふぉっと、チョウが笑う。 「ふん、バレてちゃあ、しょうがないわね。わざわざ下手な芝居なんか、するんじゃ なかったわ」  マリスが、不適な笑いを向ける。 「できるもんなら、やってみなさい! 」  マリスが、ずいっと進み出て、ロングブレードを引き抜いた。  チョウは、空中から、一本の杖(ロッド)を取り出すと、それを彼らの方へ傾けると 同時に、そこにいた光る眼のモンスターたちが、一斉に姿を現し、彼らに向かって、 飛びかかって来たのだった。  それらは、既に見慣れた獣人タイプのモンスターだ。  剣を持った三人は、ばさばさと切り裂いて行き、クレアも得意の炎の術を発射させ ようと、両手を翳すが――  ポッ  彼女のてのひらからは、小さな炎しか出ず、すぐに消えてしまった。 「ひゃひゃひゃひゃ! そのお嬢ちゃんは、さっきの究極奥義で、魔力を使い果たし てしまったアルよ! 」  クレアは、はっとして魔道士を見上げた。 「もしかして、あの死霊は、あなたが集めてきたのでは……!? 」 「その通りアル! 本当は、あのラータンの魔道士の魔力を削り取ろうと思ったアル が、巫女のお嬢ちゃんが一緒だったとは、ワタシも計算違いだったアルよ!   だけど、こうやって、いかにも計算通りのように、コトが運んでいるアル! 良か ったアルよ! 」  チョウは、手を叩いて、おどけてみせた。 「尊い霊たちを思いのままに操り、踏み躙(にじ)るなんて、許せないわ! あなた、 覚悟なさい! 」  クレアが怒りを露に、人差し指をチョウに差し向けた。 「魔力のほとんどないあんたが、どうやってワタシと戦うね? ひょひょひょひょ! 」  チョウが片手で腹を押さえて、笑う。  クレアは、実戦ではあまり抜いたことのない、マリスにもらった剣を、ゆっくりと 鞘から引き抜き、構えた。 「ベアトリクスの名前が出たからには、あんたの好きにはさせないわ! 」  マリスが、ダッシュし、チョウに剣を振り下ろす。チョウの杖が、それを受け止め た。 「ケイン、カイル! クレアを援護して! 」  マリスが剣を魔道士に打ち下ろし、振り返らずに叫ぶ。  ケインは、クレアの盾代わりにと、バスターブレードを地面に突き刺した。クレア は、なんとか戦う。その両脇を、ケインとカイルで固め、モンスターたちに応戦して いった。 「いい長剣(ロングブレード)アルね。ラータンの魔道士が魔力を吹き込んだアルか? 」  チョウは、ひゃっひゃっと笑い声を上げる。 「ベアトリクスでは、今、血眼になってお前を探しているそうアルよ。他にも、お前 を捜しているものは多いと聞くアル。一体、何をしでかしたアルか? 」  チョウは、てのひらから電光を、マリスに向かい発射した!   それを、彼女のロングブレードが防ぐ。  チョウの電光術は素早く、威力もあるようで、マリスの剣に弾き返された後も、勢 いよく飛び散って行ったのだった。  その様子からは、チョウは、意外にも、腕が立つらしいことが伺える。  ふいに、マリスが、飛び退(の)き、キッと睨んだ。 「あんた、わざと、あたしの剣狙ってるでしょう? 」  チョウは笑った。 「ふぉっふぉっ、わかってしまったアルか! だが、もう一息ネ! 」  そう言って彼が放ったのは、両手で抱えるほどの大きな岩の塊だった。  はっと、マリスが剣で防御したが、剣に接触したところから緑色の電光が走り、マ リスの剣は軋みを立てて、割れたのだった!  その衝撃で、彼女の身体が吹き飛ぶ。 「マリス! 」  ケインたちが、一斉に、マリスを振り返る。 「ひゃひゃひゃひゃひゃ! 」  ゆっくりと、太った魔道士の姿が、地面に降り立った。それを、片膝をついたマリ スが、睨みつけた。 「あんた、『メテオ』の術を――! 」  それは、彼らも今まで目にしたことのない技であった。 「いかにもアル。そこらへんの魔道士たちには、ちょっとできない技アルよ」  チョウは得意そうに笑い、マリスに近付いていく。 「あれは、この地上の、どの石とも違う物質でできてる石アル。それを、別次元から 取り出したアル。多少の魔力は効かないアルよ! 」  ケインは、ちらっと思った。 (別次元の石というと、……マスターソードの魔石と同じように、魔力を封じ込める ような……? )  チョウは、両手を上に向け、呪文を唱え始めた。  すると、先程の『メテオ』と同じような、だが透明の岩が現れたのだった。 「お嬢さんは、魔力が強過ぎるアルからな。この中に入れて運ぶアル。これなら、あ んたの発する魔力を辿って、あの魔道士がワタシ追ってくるの、ちょっと難しくなる アルよ。さあ、くるアル! 」  チョウが、マリスの腕を掴む前に、ケインが駆け出していたが、それを待つまでも なく、マリスがチョウをぶん投げ、素早く馬乗りになったのだった!  「このあたしを捕まえようなんて、百年早いのよ! 」  マリスは、チョウの腕を背中に回し、締め付け、後ろから首を脚で固めて、押さえ つけていた。 「アイヤー! 痛いアルよ! 」  苦しそうに、チョウは悲鳴を上げる。  駆け出したケインは、すべって転んでいた。それを、カイルが目を点にして見てい た。 「よくも、あたしの大事な剣を折ってくれたわね!? このちびブタ! 覚悟しなさ い! 首をへし折ってやるから! 」 (ひゃーっ! )ケイン、カイル、クレアが、心の悲鳴を上げた。 「痛い、痛い! やめるアルよー! 」チョウが泣きそうな声を上げた。 「なによ、こんな岩! 」  マリスは、宙に浮かんでいる透明の岩に、右拳をくらわせ、ぶち壊した。  岩は、ガラス玉のように、こなごなに砕け散ってしまった。  それを間近で見たチョウは、驚きと恐怖の悲鳴を上げていた。 「どうやら、あたしの魔力は、あんな岩ごときじゃあ吸収出来ないみたいね。お生憎 (あいにく)さま! 」 「アイヤーッ! 」  マリスの高らかな笑い声に、チョウは再び悲鳴を上げる。 「あんた、ベアトリクスのなんなの? タイラとあの国は国交なんてなかったはずよ。 ああ、その前に、あそこの獣人モンスタたち、引っ込めてちょうだい」  マリスに首と腕を押さえつけられ、苦しそうな呻き声を上げながら、チョウは短い 呪文を唱える。すると、今までカイルたちが切っていた獣人モンスターたちは、忽然 (こつぜん)といなくなってしまった。 「それでいいわ。さあ、吐いてもらうわよ。あんたが、なんでベアトリクスと関係あ んのか」  首を押さえつけていた脚を余計に絡み付けて、マリスは言った。 「アイヤッ、アイヤーッ! ワタシ、ベアトリクスの宮廷魔道士のひとりと、トモダ チ、アルよー! 」  チョウは、ほとんど泣き叫んでいた。 「ベアトリクスは魔道士団と騎士団に分けて、本格的にお前を捜すことにしたアル よ! ワタシ、トモダチに頼まれただけアルよ! 」  ぎりぎりとマリスに腕を締め付けられ、なおも悲鳴を上げる。 「それだけじゃあ、納得のいかないことがあるのよ。あんた、あたしとヴァルが、邪 神を呼び出してどうのこうのって、言ってたわね? ベアトリクスが、そんなこと言 うわけないのは、わかってるんだからね! あれは、どういうことなのよ! 」 「ひゃあっ! 痛いアル! あ、あれは、ある時、ワタシのトモダチに妙な触れ込み があったと聞いたアルよ! お前が、あの魔道士と組んで、邪神を召喚してるって!  ワタシ、それをそのまま言っただけよ! ほんとは、よく知らなかったアルよ! 」  マリスの目が、ぎらっと光る。 「その、タレ込んだヤツって、誰? 」 「知らないアル! そこまでは、知らないアルよ! ほんとアルよー! 」  マリスが、チョウを突き放して転がした。チョウは、呻き声を上げながら、腕をさ すり、上半身を起こした。 「情報を流したのは、多分、『蒼い大魔道士』の一派だわ。あたしを追っているベア トリクスの魔道士団の中には、ヤツの息のかかった者も、紛れ込んでいるでしょうね」  マリスが、冷静な表情で呟く。 「『蒼い大魔道士』! またあいつか!? 」  マリスは、そう言ったケインに頷いてみせた。 「あいつは、ベアトリクスを付け狙っている。あの国に、協力するよう見せかけて、 いずれ自分のものにしようと企んでるに違いないわ。なんとなく、以前、じいちゃん から聞いた気がする」 「じゃあ、ベアトリクスの魔道士団て……結構、手強いんじゃ……? あそこは、騎 士たちだって、凄腕が集まってるって聞くし……」  ケインの言ったことに、クレアが心配そうに、両手を組み合わせる。カイルも、い つになく真面目な顔になっている。  チョウが、こそこそと逃げ出す体勢になっていたが、 「アイヤーッ! 」  マリスが彼の胸ぐらを引っ掴んだ。  彼女の面は、いつもの自信に満ちた、あの不適な笑顔だった!  「ベアトリクスの騎士団に魔道士団――上等じゃないの! あのクソ女王陛下に伝え るがいいわ! 『捕まえられるもんなら、捕まえてみろ! 』って。あたしは、いつ でも、受けて立ってやるってね! 」  そう言ってチョウを放り出すと、マリスは、両手を腰に当てて、高笑いした。  その様子は、出会ったばかりの女剣士スーというよりも、それこそマリスの操る 『獣神サンダガー』に、そっくりであった。 「アホかーっ! 宣戦布告してどうする!? なんで、お前は、わざわざ自分から厄 介事を招き寄せるんだ!? 」  喚いているケインに、彼女は、けろっとした視線を向ける。 「あら、敵が多ければ、それだけ暴れられるじゃない? 敵なら手加減することもな く、やっつけられるもの。それなら、あたしの暴れたい衝動も解決するし、ケインに ばかり負担かけないで済むじゃない? 」 「こ、この減らず口……! 」と、呆れるケイン。  いつの間にか、魔道士チョウが消えていたが、一行にはそれどころではなかった。 「ヴァルドリューズさん! 」  そのクレアの声で、カイル、ケイン、マリスは振り向いた。  そこには、ミュミュを肩に乗せて、ヴァルドリューズが静かに立っていた。  皆を見回してから、ヴァルドリューズが口を開く。 「次元の穴の場所は、だいたいわかった。そして、この砂漠を越えたところに、村が あった」 「村だって!? やったー! これで、やっと人間らしい生活ができるぜーっ! 」  カイルが大喜びして、小躍りする。  辺りは、もう明け方に近く、薄明るい。  一行は、このまま出発することになった。 「お前、チョウの正体に気付いてたんじゃないのか? 」  ウマに乗る前に、ケインはヴァルドリューズに、こっそり尋ねる。 「私が姿を消せば、奴は本性を現すと思っていた」  普段通りの、抑揚のない口調で、ヴァルドリューズは答えた。 「俺たちが戦っていたのも、見てたのか? 」  ヴァルドリューズは、頷いた。 「マリスが危なくなったら、出ていこうと思っていた。私にも、彼女の『素の力』 ――『サンダガー』を召喚していない時の普段の力――を知る必要があるのだ。だが、 彼女は、以前よりも力を増しているような気がする」 「そうなのか……」  ケインは、少し考えてから、彼を見上げた。 「……あのさあ、マリス見てて、ちょっと気になったんだけど、……『サンダガー』 を召喚するようになってから、伝説のゴールド・メタル・ビーストみたいに、食欲が 旺盛にはなるし、暴れてないと気が済まなくなったって聞いたけど、サンダガーは別 次元から呼び出して、彼女に乗り移らせてるだけなんだろ? だったら、普段の彼女 は、なんともないはずじゃないのかな? 」  ヴァルドリューズの瞳が僅かに光った。確認するように、ケインは、もう一度、見 つめ直した。  しばらくしてから、ヴァルドリューズが、重々しく口を開く。 「お前もそう思ったか……。私も、以前から、そのことは、不審に思っていたのだが、 『サンダガー』の召喚に関することを探ろうとすると、なぜか、魔神『グルーヌ・ ルー』が拒んでしまうのだ。だが、いずれ調べてみるつもりだ。もしかすると……」  ヴァルドリューズは、その続きを口にするのさえも、躊躇(ためら)っているようだ った。  その代わりに、彼が口にした言葉は―― 「お前は、彼女の教育係に向いているのかも知れんな」  彼は珍しく、ちょっとだけ微笑むと、ケインの肩に、ぽんと手を置いたのだった。  「これからも頼む」とでもいうように。 「……ヴァル、お前も、きっと、マリスには手を焼いてきたんだろうな。同情するよ」  ヴァルドリューズに同情しながらも、なんだか、厄介事を押し付けられたような気 もしたケインであった。


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