Book2看板 Dragon Sword Saga2 〜Ⅴ〜

ロッド右向きキラキラ100Ⅴ.『或る晴れた日に吟遊詩人が見える』キラキラ100ロッド左向き

剣月紫ライン  〜 Ⅴ.-1 〜  剣月紫ライン

 赤煉瓦の壁は、ぐにゃりと歪む。  不安定な足場で、ケインとマリスは必死に体勢を立て直していた。 「ふははははは! お前達がここに来ることなど、ワシの占いによって、先刻承知だ わい! 連れの魔道士どもが『ここ』へ着く前に、お前達を別々の空間へ飛ばしてや るわ! 」  老魔道士は、両手を掲げる。  赤い部屋の中で、まるで、魔道士の身体全体を青い炎が包んでいるような、そこだ けが青く、ゆらゆらと鈍い光を放っている。


蒼い老魔道士の術

 とっさに、マリスが、ぎゅっと、ケインの手を握る。 (そうか、離れ離れにならないようにだな……! )  と、思っていると、いきなりマリスがそのままで走り出した! ケインも、慌てて それに習う。  ガキィィィンンン!   マリスの振り上げたロング・ブレードを、魔道士が空中から取り出した杖で、受け 止めた。  次々と、突き出す彼女の剣を、魔道士が簡単に防いでいく。  マリスが彼を斬りつけるというよりは、呪文を唱えさせまいと邪魔しているのだと、 ケインにはわかった。 「さすが、噂通りの剣の達人ですな、マリス・アル・ティアナ嬢」  老魔道士が薄笑いを浮かべる。  マリスの目が、キッと光った。 「そうそう、あなたのことも、存じておりますよ。バスター・ブレードとマスター・ ソードを合わせ持つ、ケイン・ランドール殿」  二人は、改めて老魔道士をじっと見つめた。 「……なんで、俺のことまで……!? 」 「あんた、……何者!? 」  質問には応えず、老魔道士は彼を見たまま、続けた。 「バスター・ブレードはどうしたのじゃ? ……ああ、あの若造魔道士がどこかへ隠 したのだな。つくづく油断のならない奴じゃ! ……まあ、よい。人質交換という手 もある」  ケインの老魔道士を見る目が、驚きに変わる。 (こいつは、バスター・ブレードの姿形を知っている……!? )  それは、彼の師匠から受け継いだ、二年前の出来事を思い起こさせた。 (……まさか、……こいつは……! )  記憶を辿り、それが何かと結びついた時、マリスが言い放った。 「もしかして、あんた、……ゴールダヌスと敵対する大魔道士じゃ……? 」  彼女は、老魔道士に、にやりと笑った。 「『蒼い大魔道士』ビシャム・アジズ……! 初めてお目にかかりますわ」  マリスが剣を持った右手を大きく振り、腰を屈め、深々と騎士の礼をしてみせる。 (『蒼い大魔道士』……! こいつが、あの噂に聞く……!? )  ケインですら、その存在は知っていた。魔道士たちの更に上を行く大魔道士の存在 は、魔道士はおろか、それ以外の者たちにとっても、脅威である。一介の剣士などは 太刀打ち出来るはずもない。  世の中に数人しかいないと言われている大魔道士たちは、ほとんどが己の研究に 没頭し、世捨て人のようにひっそりと暮らしており、表には滅多に現れることはない。 ゴールダヌスもそうであったが、アジズだけは、時折ふとどこかに出現していたため、 その姿を目にした者は少なくはなかった。  老魔道士は、かかかと笑った。 「これはこれは、ご丁寧なご挨拶じゃな。さすがは、ベアトリクス王国近衛兵を勤め られていただけある、美しい騎士の礼じゃ。どうじゃの? 主君王太子殿下のご機嫌 は、いかがですかな? 」  実に嫌味っぽく、その声は響く。  マリスの手が、わなわなと震えているのが、ケインの手にも直に伝わっていく。 「あんたたち、まさか、あの人に――セルフィスに、何かしたんじゃないでしょう ね!? 」 (セルフィス……!? この間、マリスが寝言で呟いてた奴のことか? )  そのことで、ちらっと彼女をからかったら、なんだかただ事ではなさそうであった のを、ケインは思い出す。  そして、やはり、それは、ただ事ではなかったのだろう。  マリスは、今にも魔道士に食いつきそうな、それをかろうじて抑えているように、 ケインには見えた。 「ご安心くだされ、マリス姫。我々が、どうしてあのお方に、何か出来るとお思いな のです? 出来るわけなど、ありはしませぬよ。あのお方は、大国ベアトリクス唯一 の王太子殿下なのですからの。お側付きの宮廷魔道士も、なかなか優秀な者のようで すし、あの方ご自身も、結構な魔力をお持ちですからな。だいいち、ワシは、まだ、 ベアトリクスに行ってもしておらんのでな」  老魔道士は、「まだ」というところを強調して言い、かかかと再び笑う。 「……それは、そのうち、行くつもりでいるってこと? 」 「それが、希望ではあるがの」 「……そんなこと……! 」  マリスの鼓動が速くなるのが、まるでケインにまで伝わってくるようだった。 「マリス……! 」  ケインは、静かに、だが強く、マリスの手を握り返した。  マリスは、痛そうに顔を歪め、はっとしたように彼を映す紫の瞳は、説明がつかな いように、まだかすかに動揺していた。  ケインは、黙っていろ、というように、首を横に振ってから、老魔道士を睨み据え た。 「二年前に、俺のマスター・ソードを奪おうとした魔道士がいた。そいつをよこした のは、お前か? 一体何を企んでいる!? 」  今度は、マリスが驚いたようにケインの横顔を見つめた。 「ケイン、あなたも、こいつのことを知って……? 」  老魔道士は笑うのをやめ、視線をゆっくりとケインに移した。 「貴公は、魔力もない傭兵の分際で、今まで『魔の世界』に関わってき過ぎたのじゃ よ。しかも、厄介な武器を二つも手に入れた。普通の人間の身で、同時期にあの二つ を揃えるなど、有り得ないと我々は思っておった。  ……が、そうでないのがわかった以上、放っておくわけには行かぬのだ。  知っておろう? 『伝説の剣は、魔道士の野望を打ち砕く』と――! 」  蒼い大魔道士ビシャム・アジズの目が鋭く光ると同時に、彼らの周りが揺れ出し た! 「別々の空間になんか、飛ばされてたまるか……! 」  ケインは、マリスを庇うようにしっかりと抱きしめた! マリスも彼に回した腕を、 きつく締める。  その時――!   ぽんっ!    妖精ちらちら  現れたのは、なんとミュミュだった!  「……!? 」 「……!? 」  ケインもマリスも、目が点になった。 「なんじゃ、このニンフは! 一体、どこから入ってきおったのじゃ!? 」  アジズの間の抜けた声が、その場に響く。  ミュミュがマリスの腕を引っ張ると、ケインが今まで抱きしめていた感触は、 すかっとなくなったと同時に、マリスの身体が一瞬消え、またすぐ現れた時には、 宙に浮かんでいたのだった。 「えっ……!? 」  マリスが、困惑した顔でケインを見下ろす。 「ごめ~ん、ケイン。ひとりずつしか運べないって、知ってるでしょ? 」  ミュミュが、ベッと舌を出してみせた。 「ケイン……! 」  心配そうなマリスの顔に向かって、ケインは頷いてみせた。 「マリス、安全なところへ」 「ダメよ! あなただけここに残るなんて! あいつは、じいちゃんの能力(ちから) と匹敵する能力を持ってるのよ! 」 「ミュミュ! マリスを連れて行け! 急ぐんだ! 」  マリスがケインを掴もうと手を伸ばすが、その姿は一瞬で消えた。 「なんということじゃ! あんなニンフがいようとは……! どういうわけか、妖精 には、魔道士の結界なぞは関係ないのじゃあ! 」  大魔道士が頭を抱えて、悔しがる。 (ミュミュは、結界の中も関係なく行き来は出来る。途中で迷わなければ……)  となると、自分のすべきことは、時間稼ぎ——と覚悟していたケインは、マスター・ ソード構える。  大魔道士は気を持ち直し、薄笑いを浮かべ始めた。 「ほほう、このワシに刃向かおうというのか? ワシが何者かわかっていての行動とは。 その心意気は、たいしたものじゃ。だがな、貴様の剣、そのままでは、ワシは倒 せぬぞ」 「……やっぱり、マスター・ソードのことも、ちゃんと知ってたか」 「なにしろ、その剣を手に入れろと、貴様も知っている魔道士に命じたのは、この ワシなのだからな。ワシの野望に邪魔なものは、排除しなくてはのう。それには、 不完全な今が――二年前とは違い、その能力を失ってしまった今が、最も適して おるのじゃ……! 」  アジズが掌を向けた。  蒼い稲光が発せられる!   ケインは、マスター・ソードで遮った。  びりびりと、衝撃が剣を伝って走る!  (くっ……! なんて威力だ! )  大魔道士にとっては、ほんの小手調べなのだろう。  薄笑いを浮かべたまま、もう片方の掌からも、稲妻がやってくる!   剣を通して、全身に受けているしびれが、ケインを苦しめる中で、剣に力を込める。 『剣に棲(す)まいしダーク・ドラゴンよ!   今こそ目覚め、  偉大なるその力を、  貸し与えよ! 』  マスター・ソードは、黒い影に覆われた!   黒い影は、いつかのように、剣全体を包み、巨大化していくと、黒い炎のように、 吹き荒れた。 「ほほう! 見事な黒き竜じゃ! 来るか!? ワシと勝負してみるか!? 黒魔法 の王者黒竜『ダーク・ドラゴン』よ! 」  アジズの蒼い稲妻は放電しながら、西洋竜の姿をした黒い炎に向かっていった!  蒼雷VS黒竜  黒い炎の竜と、蒼い雷は、お互いを喰らおうとするかのように噛み付き、絡み合い、 衝突するたびに、地響きと、強い光を発する。  だが、雷はますます太く勢いを増し、竜の全身を駆け抜ける!   爆発と爆風が起こり、やがて、竜の姿は煙と化し、消えていった。 「はあっ……! はあっ……! くっ……! 」  がくっと、ケインが、不安定な空間に、片膝を着いた。  蒼い稲光が、バチバチッと、彼の身体に巻き付き、蝕んでいく。  剣を包み込んでいた黒い影は、まるでどこかへ吹き飛んでいってしまったように、 剣は、元通りのロング・ソードのまま、左手にあった。 「やっぱ……、こ、これが、限界か……」  途切れ途切れに、ケインは呟いた。  相手が加減していたとわかっていても、受けたダメージは相当大きい。  鍛えられていた彼の身体でも、まだ立ち上がれずにいた。しびれが全身に残り、 思うように動かない。 「不完全とはいえ、そこまでの威力があるとは……。じゃが、今ので、貴様は、自分 の持つ精神力と、剣の魔力を使い果たしてしまったであろう? 無謀にも、このワシ と勝負しただけ、褒めてやろう」  不気味な笑いを浮かべながら、老魔道士がゆっくりと近付く。  ケインは、荒く、肩で息をしながら、なんとか剣を鞘に収めた。 「ほほう、どうやら、貴様もワシの言った意味がわかり、抵抗しても無駄だと悟った か。ならば、遠慮なく、貴様と共に、その剣を……! 」  魔道士の、皺だらけの手が、ケインの頭のすぐ側まで伸びていく。 「そう……じゃない……! お、お前は、もうひとつの、剣……のことを、……忘れている ……! 」  苦しそうに片目をやっと開き、だが、ケインは笑ってみせた。 「なっ……、なんじゃと!? 」  動揺した老魔道士は、何かを感じたのか、後退った。  ケインと大魔道士の間の空間が、僅かに歪む!   そして、彼の言う『もうひとつの剣』は、そこから産み落とされるようにして、 彼の頭上から徐々に降りて来たのだった!  「な、なんということじゃ! ……おお、あの若造魔道士め! ついに、ワシの結界 にまで……! 」  老魔道士の言葉を最後まで聞くこともなく、ケインは、声に導かれるままに、 その空間を切り裂いた!  異次元紺ライン  妙な感覚に包まれる――  自由はきかない。どんなにもがいても、まるで、水の中にでもいるような、緩慢な 動きにしかならず、彼を素通りしていく空気は、暖かいのか冷たいのかもわからない。  目は閉じられている。  彼が、ただ最後に見たものは――  ヴァルドリューズから受け取ったバスター・ブレードで空間を裂くと、ヴァルド リューズが彼を引き上げた。  ケインの足の先までが完全に裂け目の中に入ると、空間は塞がって、既に、例の 部屋の赤煉瓦は見えなくなっていたのだった。 「ここまで来れば、もう大丈夫だろう」  ヴァルドリューズの声が、近くで聞こえる。だが、まだ止まる気配はない。  ミュミュが、あんな危険な結界の中にひとりで入るわけはない、ヴァルドリューズ が近くにいるからだと踏んでいたケインは、無謀は承知で、アジズの気を引き付けて いたのだった。 「……マリスは……? 」  横になった姿勢でいるらしいと感じながら、ケインは、一番の気がかりを、目を 閉じたままで確認した。 「ミュミュが、ダミアス殿のところへ連れていった。皆には、しばらくアストーレに 戻っていてもらう」 「それなら、良かった……! それだけ、あの大魔道士は、……危険だからな」  「うっ! 」と、身体を屈め、あちこちが痛むのを抑える。 「あそこでは、条件が不利だ」  ヴァルドリューズは相変わらず表情のない声で返す。 「マリスが……、『ゴールダヌスと敵対してる蒼い大魔道士』とか、なんとか……言 っていたけど……」 「『ビシャム・アジズ』――『黒の大魔道士ゴールダヌス』殿に匹敵する力を持つと言わ れている」 「……だよな。ゴールダヌス自体が、とんでもない魔道士だって言われてるんだろ?  そんなもんに匹敵するって言ったら……! 」 「あくまでも、『自称』だ。気にするな」 「……気にするなって、……大魔道士つかまえて、お前も結構言うよな」  ケインは、痛む身体を庇いながら、苦笑いをした。 「ここだ」  唐突に強い風圧が起こった後は、ケインの背が地面に着いた。    キシール国 「……!? 」  うっすら目を開けてみると、そこは、緑の木々に囲まれた、ある森の中のようであ った。  知らない植物、草花、空の青さまでが、どこか違う。気候は、暖かだ。  なんとなく、彼が今まで見て来た国とは違うような、なんというか、少々現実離れ しているようなところに思える。  その景色の中でアクセントとなっている、黒いフード付きマントに身を包んだヴァ ルドリューズが、屈んで、ケインの身体に手を近付け、回復魔法をかけた。  ケインは、ヴァルドリューズの顔を見て、やっと安心した。  身体の痛みも、徐々に薄れて行く。 「ここは……? アストーレじゃないのか?」 「キシール国だ」  ケインの耳にしたことのない国名であった。 「キシールの民の国。我々の住む人間界の、裏側だ」 「裏側……? 」  ケインには、マスター・ソードを手に入れた時のことを、彷彿とさせる。人間界で はない、別の世界の存在を――!   ヴァルドリューズが『治療』を終えると、ケインは、身体を起こした。 「サンキュー、ヴァル。助かったよ! 」  もうどこにも痛みはなかった。腕をぐるぐる回してみてから、ヴァルドリューズの 碧い瞳を見る。彼には、ヴァルドリューズの真意は、全く見えて来なかった。  そして、またしても、予想外の言葉が、ヴァルドリューズの口から発せられた。 「『或る晴れた日に吟遊詩人が見える』」 「? 」 「マリスの暗号を使ったのは、まんざらウソではない」 「……ああ、何かの手掛かりを見つけたっていう、あの暗号のことか」 「ここに、『黒の魔石――ダーク・メテオ』がある」 「なんだって!? 」  ケインは、しばらく彼をまじまじと見つめていた。それから、左手で、マスター・ ソードの柄を触る。 「……そうだよな。あの大魔道士だって知ってたんだもんな。……ヴァルも知ってた のか、マスター・ソードの秘密を」  ヴァルドリューズは、ゆっくりと頷いた。 「マスター・ソード――お前の持つドラゴン・マスター・ソードは、伝説の剣のうち のひとつだと言われてるが、具体的にどのような能力を持つのかは、はっきりとは 知られていない。その剣を手にした者にしか伝承されないからだ。  剣を手にする者は、純粋に正義を貫き、悪を倒すことを目的とする以外は認められ ない――私が知り得ることは、そのくらいだ。おそらく、他の魔道士たちも」  ケインは、立ち上がった。 「確かに、そう聞くよな。だから、この剣を手に入れた時、俺は本当に正義の使者な んだと、さすがに誇らしかった。  だけど、今は、このままでは、あまりに魔力の高いものには通用しない……」  ケインは、マスター・ソードを手に入れた後のことを、思い起こす。彼としては、 ちょっとせつない想い出もまつわるため、普段はバスター・ブレードを使い、マスター ・ソードは予備として使うようになっていた。  最近では、アストーレで護衛の仕事をしていたのもあり、城の中では物騒に見られる ため、バスター・ブレードはヴァルドリューズに預け、マスター・ソードの方を主に 使うようにはなったが、それは、実は、二年振りのことなのであった。 「それにしても、剣の本当の力を引き出す三つの魔石のうちのひとつ、黒の魔石 『ダーク・メテオ』が、こんなところに……!? もしかして、あの暗号を使って、 ヴァルが呼び寄せたかったのは、マリスというよりも、……むしろ、俺の方だったの か……? 俺のために……? 」  ヴァルドリューズは、それには応えず、すっと、前に進み出た。 「こちらだ」  その肩に、ぽっとミュミュが現れ、後ろ向きに座り、ケインと目が合った。 「ミュミュ、無事だったか……! 」  ほっとした笑顔のケインに、ミュミュも笑ってみせた。 「マリスは無事だよ。ミュミュがダミアスのおじちゃんのところへ連れてって、アス トーレでひなんしてるようにって、お兄ちゃんからの伝言伝えといたから」  ミュミュは、にっこり笑った。 「それにしても、マスター・ソードと魔石が合わさるところを見られるなんて、ミュ ミュ、ツイてる~! ミュミュがケインと出会った時は、ケインが力を使い切っちゃ ってからだったんだもん」 「……あーっ、ミュミュだろ? 魔石のことヴァルに教えたの」  ミュミュは、ぱたたっと飛んで、ヴァルドリューズの反対側の肩に移った。 「いーじゃん! ヴァルのお兄ちゃんはいい人なんだから! 」 「なんだよ、それ? 」 「心配するな。他言はしない。例え、マリスにも」  ケインは、意外な顔で、ヴァルドリューズの背を見つめた。 「むしろ、魔石の力を取り入れるところは、マリスに知られてはいけない――厳密に 言えば、『マリスの守護神』には——」  またしても、意外なことを耳にしたケインは、尋ねずにはいられなかった。 「……なんで、あの獣神に……? 」 「奴だけではない。他の誰にも、その秘密を知られてはいけないのだろう?  知っているのは、自然界の生き物と、それと渡り合える妖精……くらいであろう」 「……」  ケインは、黙って付いていった。  ヴァルドリューズのことは、初めて見た時から、黒魔法の使い手だとわかったが、 どうも他の魔道士とは違う波動のようなものも感じられる。 (ミュミュが、これだけ懐いているのも珍しい。黒魔法は、怖がってあまり近付か ないのに……)  魔道士との戦闘で見せた冷酷な面とは打って変わり、もしかすると、自然の中に いてこそ、本来の彼の素の部分が滲み出ているのではないかと、ケインは、そんな 気がしてならなかった。


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