Book2看板 Dragon Sword Saga2 〜Ⅳ〜

ロッド右向きキラキラ100Ⅳ.『紅通りの魔道対決』キラキラ100ロッド左向き

剣月紫ライン  〜 Ⅳ.-2 〜  剣月紫ライン

「じゃ、行ってくるわね」  マリスの声に、カイルが毛布から手だけを振って、答えてみせた。  マリス、ケイン、クレア、ダミアスは朝早く、木の魔道士バヤジッドの家を後にし た。  ヴァルドリューズと手分けをして、魔道士達の縄張りを整理することになっていた。 何かあれば、助け合えるよう、お互い同じ地区にいるよう申し合わせておく。  魔道士の最も集中している地区である南と西は、制圧した(?)ということなので、 この日は東地区を回る予定であった。 「クレアを援護するんだったら、あなたが先手を打つことね。常に、彼女に呪文を 唱える時間を作ってあげるのよ」  マリスがケインの隣に行き、言った。昨夜の話は、彼女にも聞こえていたようだ。 「クレアは、呪文を唱えている間も、相手の動きをよく見て、スキを見つけて魔法を 放つのよ。ただやみくもに撃(う)つのは魔力の無駄だからね」 「はい」  クレアは真剣な表情でマリスに頷く。 「チャンスは、なるべくクレアに作ってあげる。でも、無理そうだって思ったら、 すぐに引くのよ。あなたは練習のつもりでいいんだから。後は、あたしとケインが なんとかする。本当にヤバい時は、ダミアスさんに結界張ってもらえばいいのよ。 ま、キラクにやりましょ、キラクに」  マリスは、にっこり微笑んでみせた。  一軒目に訪ねたところは、話の解る魔道士で、ダミアスが説明しただけで、快く 結界を解いた。外見も、ヴァルドリューズやダミアスのように、ただ黒いフード付き のマントを羽織っただけの、ごく普通の老人であった。  彼は、昨日の木の魔道士バヤジッドのように、茶までご馳走してくれ、親切であっ た。  朝から気合いを入れて来た彼らは、なんとなく拍子抜けした感もあったが、穏やか に勧められるに越したことはなかった。  二軒目も、あっさり片付いてしまった。  なんだか、怪し気な動物たちを飼っていた中年の魔道士であったが、ただ召喚して 楽しんでいるだけのようだったので、あまり世間には害はなさそうである。  アオトカゲの大きいのを呼び出して、「ペットにどうだい?」と、クレアにプレゼ ントしようとして、例のごとく、彼女が大騒ぎしていたが、そのような程度だった。 「ダミアスさんが、話して回れば、済むんじゃないか? ヴァルがわざわざ荒っぽい ことしなくても」 「これで済む方が珍しいのだ」  ダミアスが微笑する。  ケインは、なんだか、アストーレにいる時より、彼がよく微笑むようになったよう な気がした。  よく言えばクールだが、悪く言えば陰気くさく見えてしまうところは、ヴァルド リューズ同様であったので、それは上級の魔道士特有のものだと思っていたのが、 ここのところ、ダミアスはヴァルドリューズよりも、ずっと人間らしい表情をする ように、ケインには思えていた。  三軒目の家の前まで来た時であった。 「こちらから、何かとても邪悪な波動が伝わってくる。皆、私の周りに集まってくれ」  ダミアスの静かな瞳には、真剣な色が浮かんでいた。  彼らがダミアスの周りに集まると、見慣れた薄い膜が出来ていき――! 「誰じゃあ!? 貴様らは! 」  瞬時に、その家の中に入ると、ドゥグの部屋のように、強い違和感を感じる空間の 中に、彼らは飛び込んでいた!  もわーっとした空気の淀み。部屋の中全体が、はっきりとしないおかしな感覚に 包まれている。  表向きは赤煉瓦の家であるのが、中は、薄汚れた灰色の石造りであった。  そして、彼らが現れたのは、凝視するのもおぞましい、巨大なムシの前であった! 「きゃああ! 」  クレアが悲鳴を上げて、ケインにしがみついた。  身体全体が黒光りしており、いくつものでこぼこが背中に出来ている。赤く丸い 大きな目を持ち、これまた丸い頭には、長い触角が二本生えている。  長い胴体の両脇からは、何十本もの足が、せかせかと動き回り、その一本一本に、 気味の悪い黄色い毛が密集し、足の先は赤くなっている。  それだけでも、充分に不気味であるのだが、より一層不気味に見せているのは、 なんといっても腹だった!   そこには、ウジのように白い小さな――とはいっても、本体が一部屋分もあるので、 それ自体はヒトの腕くらいもあり――いくつもの節目のある幼虫が、何百匹と蠢いて いるのだった!   彼女でなくとも、普通の女性であれば、まず直視は無理であっただろう。  ケインは、ちらっとマリスを見てみたが、彼女は、ちっとも驚いてはいないようだ った。 (やっぱりな……)  心の中で微笑みながら、ケインは標的に視線を戻す。 「私はフェルディナンド宮廷魔道士の遣いの者です。失礼ですが、あなたのお名前な どを教えて頂きたいのですが」  平然とした口振りで、ダミアスは尋ねる。 「ふん! おぬしらなんぞに名乗る名前はないわい! 」  声の様子からすると、相当な頑固爺だと、皆には想像がついた。 「あっそう。じゃあ、勝手に呼ばせていただくわ。『ムシじじい』でいいわね? 」  マリスが言った。 (……そのまんまだが、ケンカ売ってんのか、お前は! )  隣で、ケインはちらっと再びマリスを見た。 「なんじゃと!? 小娘が! ワシはれっきとした魔道士じゃぞ! このムシは仮の 姿じゃ! 」  ムシは、何十本もの足を、一斉にバタバタと上下する。  まるで、地団駄を踏んでいるようであった。 「じゃあ、もとの姿に戻れば? 」  マリスの声に、ピタッと、ムシの足は止まった。 「……」 「……」  そこには、し~んと、妙な『』が出来ていた。 「まさか、こいつ……?」  ケインがマリスを見ると、マリスは視線をムシから反らさずに言った。 「ダミアスさん、こいつの結界を解いて」  ズウゥン……!  ダミアスが掌を部屋の中に向かって翳すと、ちょっとした振動が伝わり、部屋の中 の違和感はなくなり、普通の煉瓦造りの部屋が、皆の目の前に広がった。  だが、ムシは相変わらず巨大ムシのままだった。  狭そうに、何十本もの足をバタつかせている。 「あんた、戻れないんじゃないの!? 」  マリスの声を聞いて、余計にムシは激しく足を上下する。 「やっぱり……」  ケインが呟く。 「もしかしたら、もとに戻れる魔法が、この中に書いてあるかも知れないわ」  クレアが、ムシに背を向けたまま、震えの止まらない手で、ヴァルドリューズから もらった魔道書を取り出し、パラパラとめくった。 「ムシ男、もし、あたしたちが、あんたの姿を元通りに戻せたら、あたしたちの言う ことをおとなしく聞いてもらうわよ」  マリスが手を腰に当て、勝ち気な笑みを浮かべる。 「誰が、お前たちの言うことなんぞ――! 」  ムシ男は、また足をバタバタさせ、地団駄を踏む。 「そう。じゃあ、あんたは一生そのままムシでいることね。もっとも、魔力を根こそ ぎ抜き取ってやれば、本当のムシになっちゃうかも知れないけどね」 「なんじゃと!? 魔力を抜き取る!? お前らごときに、そんなことが――! 」 「出来るわよ。あたしたちにとっちゃあ、あんたをもとに戻すよりも、その方が簡単 なんだけどね。さあ、どっちにするの!? 」  ケインには、それがマリスのハッタリであることはわかっていた。  クレアが呪文を見つけるまでの間、ムシを元に戻すことを恩に着せておこうという つもりなのだろう、と。 「あ、あったわ……! 」  クレアが、嬉しそうな声を上げた。 「なんじゃと!? 本当か!? 」  ムシ男は驚いていたが、それは、恐怖でも嫌悪でもなく、歓喜に近い声だった。 「えーと……」  クレアは、呪文を繰り返し口の中で練習してから、顔を上げた。 「クレア、出来そうか? 」  ケインの目を見て、彼女は頷く。 「やってみるわ……! 」  ダミアスが結界を解く。  クレアは、ゆっくりと、ひとりで、ムシ男の前に進み出た。  巨大なムシの前に立ち、今こそ呪文を唱えようとした時―― 「きゃあああ! 」  突然、両手で顔を押さえて、へたへたと座り込んでしまった。  ケインが、クレアへ駆け寄った。 「どうしたんだ、クレア!? 何かされたか!? 」 「……こわい……! 」  クレアは震えながら、ケインの胸に顔をうずめた。 (……確かに、こうして近くで見ると、不気味ではあるな) 「こりゃ、小娘! 早くなんとかせんかあ! 」  ムシは、再び足を一斉に動かす。 「きゃあああ! 」  余計に怖がったクレアは、ますます深くケインの懐に埋まる。 「小娘が! 元に戻せないのなら、貴様を食ってしまうぞ! 」  ムシの足が、一斉に動き出す。 「来るか!? 」  ケインが、マスター・ソードを抜きかけた、その時―― 「来ないでー! 」  クレアが、片方の掌をムシに向け、無意識のうちに短い呪文を唱えた!   ボッ! 「うぎゃああああああああ! 」  彼女の掌からは、赤い炎が飛び出し、物凄い勢いでムシの腹に飛んでいったのだっ た!  (げっ! 攻撃してる!? )  ケインは、クレアを抱えたそのままの体勢で、硬直していた。  見事に腹に炎の球を受けてしまったムシ男は、その場でのたうちまわり、ひっくり 返って足をバタバタさせていた。  その様子も、あまり気味のいいものではない。 「おのれ……! 元に戻すと見せかけて攻撃してくるとは、なんという極悪非道!  それが、お前達を一瞬でも信頼したこの誠実な年寄りに対する仕打ちか!? これだ から、若いモンは信用できんのじゃ! 」  ムシ男は、白い腹をウジ虫ごと焼け焦げさせ、体勢を立て直すと、二本の触角を ピクピク上下させ、人の頭以上に大きな丸く赤い目で、彼らを睨むように見下ろした。 「あんたの魔物化したその身体は、どうも治らないみたいだから、いっそのこと安ら かに葬ってあげるってことよ」  開き直ったマリスが、ケインとクレアの前に、ずいっと立ち、ロング・ブレードを 手にした。  不適な笑みを浮かべて、剣を構える。 「『魔物はヒトにあらず』よ。ムシじじい、覚悟! 」 (絶対、最初からそのつもりだったな!? )  ケインは、マリスの背を見上げる。 「キエーッ! 」ムシ男は、雄叫びなのか、奇妙な声を発した。  ケインも立ち上がり、剣を抜き、構える!  「クレア、下がってろ」  クレアはダミアスの方へ走っていった。 「ケインは右へ! あたしは、左をやるわ! 」 「わかった! 」  ケインとマリスは離れると、まずは気色の悪い足を斬り落とす。  ズバッ! ずしゃあっ!  「うおぎゃああああああああ! 」  ムシ男の叫び声が絶え間なく続く。  二人は、切り口から緑色の体液をまき散らすムシの足を避けながら、本体にも徐々 に斬りつけていく!  「もとに戻す呪文を思い出したわ! 今度こそ大丈夫よ! 」  クレアが、進み出る。 「えっ!? でも、今もとに戻したら……こんなにズバズバ切っちゃってるのに? 」  そのままヒトの姿に戻ったら、一体どんなことに――ケインは、想像するのもおそ ろしかった。 「おーい、マリス、クレアが、こいつをもとに戻すって! 」  ムシを挟んで反対側にいるマリスに、ケインが呼びかけるが……  ずばっ! ざしゃあっ!  「聞こえないのか? おーい、マリス! 」  彼女は、ひたすらムシと格闘していた。 「……ぜったい聞こえてるはずなのに」  ケインは、左手の剣を降ろした。  今や、殆ど、ムシVSマリスの戦いとなってしまっていた。  それには構わず、クレアも呪文を唱え始める。 「ああ、もうどうなっても、俺は知らないからな! 」  そのクレアの呪文が唱え終わる時だった。  今まで、マリスとケインが斬ってきたムシの数十本もの足が、切り口から一斉に、 にょきっと再生したのだった!  「きゃあああ! 」  クレアが、またその場にへたりこんで、両手で顔を覆ってしまった。 「小娘がー! また失敗しおってからにー! 」  ムシ男は、怒って赤い目を点滅させ、クレアに方向転換し、襲いかかる。  ケインとマリスが援護に向かうが、 「いやあっ! 来ないでー! 」  ボッ! ボッ!   彼女の両掌から、炎の球が次々と発射された!  「うわっ! 」  ケインは、とっさに剣で回避したが、クレアは、目を瞑ったまま攻撃していたので、 以前の無差別攻撃と同じであった!  「あぢゃああああああああ! 」  全身に火が回ったムシ男が、跳ね上がる。  その姿を見て、クレアが一層怯える。 「小娘……! もう許さんぞ! 」  黒焦げになっても、もともと黒かったので代わり映えはしないが、ムシ男は、クレ アに向かって、ぶすぶす燻(くすぶ)りながら這って行った。  クレアの瞳が、恐怖のため大きく見開かれる!   どど~ん!!   一瞬、何が起きたのか、ケインにはわからなかった。  爆発音がしたと同時に、彼の身体は、妙な感覚に包まれた。  そして、宙に浮いていた!   ヴゥン……!   途端に彼は結界に包まれると、そこには、マリスとダミアスがいたのだった。 「クレアは!? 」  ケインは、浮かび上がっている結界の中から、下を覗き込む。  今までいた家と思われるものは、もう存在しておらず、代わりに赤い瓦礫(がれき) の山が築かれていた。  それは、ムシ男の家だったものであった。 「クレアが放ったのは大技だったみたい。ダミアスさんが、あたしたちを宙に浮かせ て、結界で守ってくれたのよ」  マリスが解説する。  結界ごと、彼らは、ゆるゆると下降していく。 「クレアは……!? 」  ケインは、ダミアスを振り返る。ダミアスは、下を指差した。  下降していくうちに、瓦礫の中で、一部、円形に、そこだけは瓦礫に埋もれていな い箇所があり、そして、そこには――   両手を突き出した、攻撃したままの格好で立ち尽くし、肩で大きく息をしている クレアの姿があったのだった。 「クレア! 」  地上に降り立ち、結界が解かれると、ケインとマリスは、クレアのところへ駆け寄 った。  クレアは、円形に張った防御結界を解き、声に気付いて振り返った。 「ケイン! マリス! 」  クレアは泣きながら、ケインの腕の中に飛び込んだ。 「こわかったの! あのムシおじさん、『お前を食ってやる! 』って、口から、 しゅ~しゅ~白い糸を吐いて……! 私、とてもこわくなって――ああ! 思い出し ただけでも、なんておそろしい! 」 「わかった、わかった。もう、大丈夫だから」  ケインは、ぎこちなく笑うと、啜り泣いている彼女の背を軽く叩いて、安心させよ うとした。  彼には、怯えながら、そんなことをしでかしてしまう彼女の方が、よっぽどこわか った。 「……生命反応はない。どうやら、あの魔道士は、完全に消滅したらしい」  瓦礫の山に手を翳して、ダミアスが、ぼそっと言った。 「クレアの最後の地割れ攻撃が効いたみたいね。やるじゃないの! 」  クレアは、そう言ったマリスを振り返った。 「えっ? 地割れ……? じゃあ、私、『地』の魔法を身に着けられたのかしら!? 」  ダミアスもマリスも、微笑みながら頷いた。  クレアは、二人を見上げると、嬉しそうに飛び跳ねていた。 (これって、喜んでいいことなのか……?? )  ケインは、無意識に地割れの呪文を唱えたことに、恐ろしさを覚えていたのだった。  四軒目の魔道士も、先のムシほどではないが、ヒト離れしていた。  今度は、獣人タイプのモンスターが登場したかと思うくらい、それは、上半身が ウルフのミドル・モンスターにそっくりであった。  ダミアスの話に耳を傾けるどころか、いきなり槍を持ち、攻撃をしかけたのだっ た。   がしっ!  クレアに向かってきた槍を、ケインの剣が受け止める。  その背後では、彼女の呪文を唱える声がする。 (よし、もう少し時間を稼いで……)  と、ケインが思っていると、 「あっ! いけない! 」  クレアの叫ぶ声と同時に起こったのは、巨大なストーム――竜巻だった!   ごおおおおおおおおお――!  「うわーっ! 」  ぐるるるるるるるるる!   ストームは家の屋根をぶち抜き、ケインと獣人とを巻き上げていった!   目を回したケインと獣人は交わることなく、ぐるぐると竜巻の中で回っていた!   ヒュン――!   巨大ストームのに巻かれていたケインを、空間移動したダミアスが抱えて、戻る。 地面に横たわっていたケインが、うっすら目を開けた。 (し、死ぬかと思った……) 「ああ、ケイン、ごめんなさい! ごめんなさい! 」  わあっと、クレアが泣きながら、彼に両手を翳し、回復魔法をかける。  マリスも、上から彼の顔を覗き込んでいたが、心配しているというよりも、珍しい ものでも見るような目で、見下ろしていた。 「……あのモンスター……じゃないや、魔道士は? 」  まだボーッとしている頭で、ケインは半身起こし、誰にともなく尋ねた。 「どうやら、別の空間へ飛ばされていってしまったようだ」  ダミアスが、静かな声で言う。 (……てことは、ダミアスさんが俺を救い出すタイミングを間違えてたら、……俺も、 変な空間へ飛ばされてたのか……?? 魔道士や魔物ならまだしも、普通の人間が 迷い込んだりしたら、一体どんなことに……!? 時空酔いはおろか、『外』への 出方だってわかんないのに……! )  ケインは、ぶるっと、思わず身震いした。 「ごめんなさい! 私が呪文を間違えたばっかりに、ケインを危険な目に……!  ごめんなさい! 」  クレアは、ケインの伸ばした足の上に突っ伏して、わあわあ泣いていた。 「だ、大丈夫だってば」  引き攣りながら、彼女の背に手を置くケインであった。 (もう、頼むよ、クレアちゃん……) 「魔法って、本当に恐ろしい……! 」  マリスが呟く。  それには、ケインは何か言いた気だったが、横目で見ただけであった。


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