Book2看板 Dragon Sword Saga2 〜Ⅲ〜

ロッド右向きキラキラ100Ⅲ.『紅通りの魔道士』キラキラ100ロッド左向き

剣月紫ライン  〜 Ⅲ.-2 〜  剣月紫ライン

「ここからは、今までと少し様子が違う。魔道士の結界が、特に厳重なところだ。 はぐれれば、再び合流するのは難しい。心してついてくるのだ」  大通りの脇にあるいくつ目かの路地を曲がったところで、ダミアスが一行に言い 聞かせた。  ダミアスのすぐ後ろにはクレアが、次にケイン、カイル、マリスと続く。  カイルがまたふらふらどこかに行ってしまわないように、ケインとマリスとで挟ん だのだった。  いくつか角を曲がり、煉瓦作りの建物の階段を上ったところで、ダミアスが足を 止めた。 「おっ? ここか? ヴァルのいるところってのは」  それまでおとなしく付いて来たカイルが、嬉しそうに顔を上げた。 「……ダミアスさん……? 」  クレアが、ダミアスの様子を伺う。 「……おかしい。……彼の結界が、解かれている……」 「えっ!? どういうことだよ? 」  カイルが皆を見回し、皆も、顔を見合わせる。 「とにかく、中へ……」  ダミアスが、少し錆び付いた扉の把手(とって)をゆっくりと引く……。  ギイィィィ……!   扉は、重々しい音を立てて開く。  部屋の中は、特に大きな家具らしいものはなく、薄汚れた赤い絨毯が敷き詰められ た何の変哲もない部屋だ。 「つい先程まで、おられたようなのだが……」  ダミアスが辺りをゆっくりと見回す。 「ここで待っていれば、お会い出来るのでは……? 」 「……だといいが……」  クレアに応えるダミアスの、予想外な真剣な面持ちを見て、カイルがぶるっと身震 いした。 「おいおい、まさか、ヴァルのヤツ、ほんとに危険にさらされてるんじゃ……」 「縁起でもないこと言わないで! 」  クレアが、キッと睨む。 「今日は、西地区の様子を見るとおっしゃっていたが……何か、気になることでも あったのだろうか……」  ダミアスが、考えながら言う。 「日が完全に暮れていない今のうちならば、まだ間に合う。万が一、彼に何か起きた のだとしても、助けることは出来るだろう」  クレアもカイルも、心配そうな顔になった。 「その西地区って、ここから結構あるの? 」  それまで黙っていたマリスが、口を開く。 「歩いて十数分のところだ」  皆は、マリスを見つめ、言葉を待った。 「あいつに限っては大丈夫だと思うけど……。ここは、魔道士だからって安全とは限 らないみたいね。ダミアスさんだけ行かせるのも、誰かをここに残すのも危険な気が するわ。だから、みんなで行きましょう」  一行はお互いの顔を見合い、頷いた。 赤ロッド魔法赤ライン  西地区に着くが、あまり見映えは変わっておらず、相変わらず、赤煉瓦の建物が 並んでいた。 「……む……! 」  ダミアスが、ぴたりと足を止めた。 「どうしたんだ? ヴァルか!? 」 「いや……」  カイルの問いに、ダミアスは首を振る。 「何かの声が聞こえる……」  一行は、顔を見合わせた。 「この感覚は……どこかで……」  気配を探っているダミアスの横で、カイルが「けっ」と言った。 「おい、ヴァルが危ないかも知れないってのに、呑気に、昔の友達にでも会いに行こ うってんじゃねーだろーなー? 寄り道なんかしてる時間は、俺たちにはないんだ ぜ? 」 「今まで散々道草食ってたヤツが、よく言うよ」例のごとく、ケインがカイルに呆れる。  クレアも耳を澄ませた。 「……これは、……ミュミュだわ! 」  一行は、ダミアスを先頭に、声のする方へ向かった。 「この中からだ」  そこから幾許(いくばく)もなく、赤煉瓦の小さな小屋の前に辿り着くが、扉は錆び 付いていて開きそうもない。 「仕方がない。一刻も無駄には出来ない。危険だが、結界の中に入るぞ」  ケインたちは、ダミアスに身体を寄せた。途端に、空間を移動する際の、身体に 絡み付く違和感が訪れ、次の瞬間、目の前の景色は一変した。 


ドゥグの家

「な、なんだここは……!? 」  その小屋の中とは見当も付かないくらい、そこは異様だった!  薄暗い空間の中を、あちこちに見えるいくつかの蝋燭(ろうそく)の灯りに、ぼうっ と照らされた辺りが赤黒いことで、壁や床が赤い色をしていることがわかる。  だが、どこまでが壁で、どこからが床なのか、部屋は四角いのか丸いのか、おかし なことに、全然わからないのである。  一行は、ダミアスの作った結界の中にいることで、なんとか平衡感覚を保っていた。 「……うわ~ん! ……! ……! うわ~ん!……!」  遠くなったり、近くなったりしているが、それは間違いなくミュミュの声だった。 「ミュミュ! どこだ! 」  ケインが呼びかけ、皆も見回す。  すると、少し離れた下の方に、小さめの丸いテーブルが浮かび上がった。  その上には、薄汚れた銀色の食器、燭台、白いナプキンやナイフとフォークまでが、 ぽんぽんと現れた。 「今日は、いろんなもの、やってくる」  潰れた声が突然聞こえたかと思うと、緑色の人の形をしたものが、そこに出現し た!  正確には、人といっても身の丈は子供くらいしかなく、横は子供にしてはがっしり としていて、頭が不釣り合いに大きく丸い。  といって、小人とも違っていた。  まるで、もともとは人間だったのが、手や足が退化して短くなってしまったのか、 途中まで溶けてしまい、そこから指が生えてきたのか――というような、人の形を してはいても、とても人間離れしているものだった!  全身が緑色で、髪の毛のようなものは生えておらず、ボロ布に穴を開けただけのも のに袖を通して、突っ立っている。更に、両手両足の指が四本ずつしかなく、指先は、 丸くなっていた。  大きな目は、どろ~んとして生気がなく、鼻は潰れ、大きく裂けた割れ目のような 口からは、平たく赤い生き物のような舌が、ベロベロと口の周りを舐め回していた! 「なんだ、ありゃあ!? カエルじゃねーか!? 」  正直なカイルは、『彼』が気を悪くし、下手したら怒り出し兼ねないことを、思わ ず口走っていた。 「わたし、ここに住む魔道士ドゥグ。お前たち、わたしの食事、待つ」  『カエル』は、また潰れた声を発した。 「ああ? 何言ってんだ? お前」 「シッ! ヤツを刺激するな! 」ケインは、怪訝そうなカイルの首を抱え込む。  魔道士だというカエルのようなものは、浮かんでいるテーブルに着くと、白いナプ キンを首に巻き、ナイフとフォークを手にした。  すると、銀の器の中に、何かがボーッと浮かぶ。  それと同時に、泣き声もはっきり聞こえて来たのだった。 「うぎゃーっ! 何すんのよー! バケモノー! 」  器の上に暴れながら現れたのは、ミュミュであった。 「ミュミュ! 」 「ミュミュ! 」  口々に、ミュミュを呼ぶ。 「あっ、みんな、助けてー! このカエル野郎、ミュミュのこと、食べようとすんの よー! 早くやっつけてー! 」  ミュミュは、草のツルのようなもので縛られていて、飛ぶことも出来なかった。 本来であれば、妖精ならば難なくすり抜けられるはずが、いくらもがいても捕われた ままということは、特殊な魔法のかけられたツルだというのがわかる。 「魔道士ドゥグ殿、勝手にお邪魔しておいて申し訳ないが、その妖精は、私どもの 仲間なのだ。どうか、我々に返してはもらえないだろうか」  ダミアスが、丁寧な口調で語りかけた。 「ここ縄張り。お前、わたしの食事、取る、だめ! 」  魔道士は、言いながら、首を振る。 「誰がそんなもん食うかー! 」 「そんなもんとは、なにさー! 」  カイルの返答に、ミュミュが腹を立てる。 「私たちは妖精は食べない。そのニンフは、こちらでのしきたりがまだ充分わかって いなかったのだ。悪意があってそちらの結界に現れたのではない。だから、見逃して くれないだろうか? 」  ダミアスがもう一度交渉を試みる。  通じているのかいないのか、緑の魔道士は、ナイフとフォークを持つ手をピタッと 止め、どうしたものかというように首をかしげて、器の中のミュミュを眺めた。  ミュミュの方も、うんうん頷きながら、虫も殺さぬ顔を作って、ドゥグを見上げて いる。  『彼』は、思い直したようにナイフとフォークを器の横に置くと、空中から小瓶を 取り出し、その中身をミュミュに向かって振りかけた。  「妖精食うの、五〇年ぶり。楽しみ」 「うぎゃーっ! このバカー! ヒトデナシーッ! 」  どうやら振りかけたのはスパイスだったらしく、ミュミュは目からボロボロ涙を流 し、くしゃみもしていたが、そうなりながらも魔道士に罵り言葉を浴びせることを忘 れてはいなかった。そんなところは、なかなか根性があると言ってよかった。 「ダミアスさん、俺を結界から降ろしてくれ」  高い位置からその光景を見下ろしていたため、ケインはそのような言い方で、結界 から出して欲しいことを頼む。 「あたしのことも、お願い」  マリスが、静かに言った。 「なんで、マリスまで……? 」  ケインが、眉をひそめると、 「決まってんじゃない。あいつをぶった斬るためよ! 」  例のごとく、そんな答えだった。  ケインとクレアが慌てる。 「何も、いきなり斬らなくたって……! 」 「そうよ、マリス! それに、二人とも、今ここから出るのは危険よ!  あの魔道士の結界の中じゃ、こっちの分が悪いのは明らかだわ! 」 「ダミアスさんは、魔道士の誓約があって、あいつと戦うわけにはいかないんだろう し、……かと言って、魔道士でもない俺たちが結界から出るのは自殺行為に等しいの かも知れない。  だけど、早く、なんとかしないと、ミュミュが……! 」  そうケインが言っているうちにも……、 「きゃーっ! さわんないでーっ! 」  はっと皆見下ろすと、ドゥグが器具を使うのをやめたのか、わしっと片手でミュ ミュを掴んだのだった!   その先にある『彼』の大きく開いた口が、彼女を待ち受ける!  「頼む! 」  ケインの必死の頼みで、ダミアスが結界の外に押し出そうと両手を構えて、はっと した!  魔道士ドゥグの後ろの空間に罅(ひび)が入ったように見えたかと思うと――  どぐあっ!!  「げこーっ!! 」 「きゃああああっ!! 」  ドゥグの後ろの空間が、まるで壁が爆発したように砕け散り、ドゥグとミュミュは 悲鳴を上げて、食器と共に舞い上がり、ドゥグの身体だけが、勢いよく床に叩き付け られた。 「な、なんだ……!? 」 「いったい、なにが起こって……? 」  皆は、目を凝らした。  石の壁を砕いたかのように砂塵がもくもくと巻き上げられ、そこへ現れたひとつ の黒い人影が、一同の目に映った。 「けほっ、けほっ……」  黒い影の掌は、噎(む)せている妖精を乗せ、縛っていたツルは、ひとりでに、 プチッと切れた。  ミュミュが目を擦りながら、見上げる。  黒いマントに包まれた、長身の男の、浅黒く整った顔が、そこにあった。 「あ、あ……! ヴァルのお兄ちゃん! 」 「ヴァル!」  ミュミュと、皆の叫びは、ほとんど同時だった。


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