Book2看板 Dragon Sword Saga2 〜Ⅲ〜

ロッド右向きキラキラ100Ⅲ.『紅通りの魔道士』キラキラ100ロッド左向き

剣月紫ライン  〜 Ⅲ.-1 〜  剣月紫ライン

 ケインとクレアが、マリスとヴァルドリューズの旅の目的を知ってから数日後、 一行は、アストーレ国王アトレキアに呼ばれていた。  謁見の間には、王と警備隊長、警備兵の数人と、フェルディナンド皇国に行ってい た魔道士参謀のダミアスが現れた。  先頭にケインと白い騎士マリユス(マリス)が、そして、カイルとクレアが並ぶ。  ケイン、マリユス、カイルは肩膝を付き、クレアは両膝を付いて、頭を下げている。 「実は、ダミアスが、そなたたちに頼み事があるそうなのじゃ。私が聞いてもよくわ からなかったので、直接話してもらおうと思ったのだ」  そう言って、王は、椅子の背にもたれかかった。ダミアスが進み出る。 「失礼ながら、あいさつは省かせて頂く。ご存知の通り、私はヴァルドリューズ殿と 一緒に、フェルディナンド皇国へ訪問していたのだが、思ったよりも時間がかかりそ うなので、誠に申し訳ないが、もう少し、彼を貸して頂けないだろうか? 」  ダミアスの静かな、あまり抑揚のない声が響いた。  ケインは、隣のマリユスを、ちらっと見る。  『彼』も、ケインを見て、静かに頷いた。 「こちらは構いませんが、……どのくらい、かかりそうなのですか? 」 「それは、解り兼ねる」  ケインの質問に、にべもなく返すダミアス。 「私とヴァルドリューズ殿は、フェルディナンド皇国に頼まれ、寄り集まってきた魔 道士たちの縄張りなどを始め、いろいろな決まりごとを作ることになっていた。  だが、思ったよりも、その魔道士たちの個性が強く、平等に行き渡らせるには、 もう少し、考慮しなくてはならない。そして、そこで偶然見付けた『あるもの』を、 あなたがたにもお知らせするよう、ヴァルドリューズ殿に頼まれ、私だけがこちらに 一時的に戻ってきたのだ」  ダミアスは、一旦言葉を区切ってから、再び口を開いた。 「ヴァルドリューズ殿から、伝言を預かって参った。……『或る晴れた日に吟遊詩 人が見える』……だそうだ……」  ケインたちは、顔を見合わせた。  ダミアスも、心なしか、自信がなさそうである。  ケインが、どうしたものかとマリユスに指示を仰ごうとした途端、 「いけない! ケイン、みんな! 今すぐフェルディナンド皇国へ向かおう!  ヴァルドリューズが危ない! 」 「ええっ!? 」  一同が驚き、どよめいていると、マリユスは進み出てから、王に向かって跪いた。 「お願いです! 私たち四人が行けば、なんとか彼を助けることが出来ましょう!  どのくらいの期間が必要か、今は見当も付きませんが、必ずこちらに戻って参りま す! 勝手を承知でお願い致しますが、すぐに私たちを、彼のもとへ行かせては頂け えないでしょうか? 」  マリユスの口調から、事態が尋常でないことを知った国王は、直ちに許可を出す。 (……しかし、あのヴァルが危ないなんて……俺たちが行って、本当に助けられるん だろうか!? )  ケインは心配になりながらも、カイルと一緒に一度宿舎に戻り、支度をした。  マリユスを除いて全員が、もとの旅の服に着替え終えると、今度はダミアスの書斎 に集合する。 「では、参りましょう」  ダミアスが、一行の周りに結界を張り始めた。 「悪いけど、ちょっと待ってくれ」  ケインの声で、ダミアスが、ふっと出来かけていた結界を解いた。 「ミュミュ、早くおいで! 」  ケインが宙に向かって呼びかけると、しばらくして、「うわ~ん! 」と泣き声が 遠くから聞こえ、だんだん近付いてきたと思うと、ケインの差し出したてのひらの上 に、小さな妖精が現れたのだった!  「ひどいよー! ミュミュを置いて行こうとしたなー! 」 「だから、その前に、ちゃんと思い出しただろ? 」  ミュミュがケインのてのひらの上で、背中の羽をぱたつかせ、暴れている間に、 マリスは真面目な表情で、ダミアスに目で合図した。  途端に、薄い膜が再び現れ始め、すーっと全員を包んでいく。 「マリス、ヴァルのヤツ、どうかしたのか? 本当に、俺たちが行って助かるのか? 」  ケインが尋ねると、クレアも不安そうにマリスを見る。  マリスがダミアスに視線を移したので、ケインもクレアもダミアスを見つめると、 なんと、彼は微笑んでいたのだった!   その時、ケインたちは一瞬ぐらっと揺れたような気がしたが、揺れたのは彼らでは なく、周りの景色であることが、すぐにわかった!   辺りは、目まぐるしく流れていた。 「あまり『外』を見ていない方がいい。フェルディナンドまでは数分で着く」  彼らにそう告げると、ダミアスはマリスを振り返り、微笑んだのだった。 「聞きしに勝る策士ぶりですな」 「頭の回転は速いし、演技力だってあるんだって、ヴァルのヤツ、言ってなかった? 」  マリスが、にっこり答えた。 「なに!? ……ってことは、ヴァルが危険にさらされてるってのは……! 」  マリスは、ケインを見た。 「『或る晴れた日に吟遊詩人が見える』っていうのは、あたしの決めた暗号で、 『ある手掛かりを見つけた』ってことなの。ヴァルったら、ちゃんと言うこと 聞くじゃないの。よしよし。さて、次は、どんな暗号を覚えさせようかしら。もっと ヘンなこと言わせてやりたいわね」  マリスが満足そうに、うんうん頷いている。 「ヴァルはイヌかっ!? 」  ケインは呆れ、クレアはマリスを睨むようにして見ていた。 「だって、王様にはああでも言わないと、私用なんだから、あたしたちみんなを行か せてはくれないかも知れないし、急いでくれないかも知れないじゃないの。ダミアス さんがポーカーフェイスでいてくれて、助かったわ! 」  マリスが、ダミアスに片目を瞑ってみせた。ダミアスが会釈する。  カイルが笑い声を立てた。 「俺はなんとなくわかってたぜ、マリスの作戦だってことはな。だって、あのヴァル が、簡単に危機に陥るわけないもん」  ケインもクレアも、カイルがのほほんとしていた理由が、今わかった。 「お前らも、いい加減、マリスのやり方に慣れろよ。そんなことじゃ、途中で置いて いかれちまうぞ。はっはっはっ」  ――と、真っ先に置いていかれそうな人物に言われてしまったと、ケインもクレア も思ったのだった。 紫ロッド紫キラキラ  フェルディナンド皇国——  小高いいくつもの山が連なったうちのひとつから、一行は、その下にある町並みを 見下ろしていた。  ごく普通の町のようだが、広範囲に渡って同じような造りの家が多く、伝統的なも のが感じられる。  その中で、赤い地帯があった。  それは、赤煉瓦で建てられた家がやたらと目立つ箇所であった。家々の合間に見え る道も、赤茶色をしている。 「あそこが、魔道士たちの住んでいる辺りだ。ヴァルドリューズ殿は、今あちらにお られる」  ダミアスが、淡々と告げた。 「この先は、魔道士たちの結界が張り巡らされている。飛んでいったり、空間を渡る とすぐに彼らの結界に触れてしまい、ヴァルドリューズ殿のところまで侵入するのは 難しい。悪いが、歩いて行った方がいいだろう」  ダミアスに、マリスたちは頷いた。  一行は、山を下って行った。  フェルディナンドは、アストーレから北西に位置していて、馬車などで、貴族のよ うに休み休みの旅ならば、二〇日はかかると言われていたが、ダミアスが『光速』の 術で運んだため、数分で来られたのだった。  何かと歴史の古い国であり、アストーレよりも魔道が盛んで、いろいろな国から魔 道士たちが移り住んでいる。  例の赤い地帯は、『紅通り——くれないどおり——』と呼ばれ、魔道士たちによる占い の店や、魔法道具(マジックアイテム)などの店があった。  紅通りに向かう途中で、一行は食堂に寄った。山から歩いていて、とうに昼を回っ ていた。 「はー、さんざん歩いた後のメシは、特にうまいぜー! 」  カイルが、骨付き肉にばくばく食らいついている。もう片方の手にはパンを握って いて、そちらもかじることを忘れない。 「お前、ホントよく食うな」  ケインは呆れるのを通り越して、感心していた。  対照的に、クレアは巫女の名残か、肉はあまり食べず、刻み野菜の入っている白い スープを、静かにスプーンで啜っていた。  ミュミュは、テーブルの上をちょろちょろ歩き回り、皆の皿から少しずつつまんで いて、楽しそうであった。  マリスはフェルディナンドの国の話をダミアスとしながら、時には皆の様子を見て、 微笑みながら食べていた。 「なあ、ダミアス、ヴァルのところまでは、まだあるのか? 」  食事を終えて再び町を歩いていた一行は、紅通りを目指していた。その辺りは出店 が多く、ちょっとした食べ歩きができるようなところだった。  石造りの道がところどころすり減っているところを見ると、かなりの人通りがあっ たのだろう。彼らの他にも旅人や、商人たちが行き交い、活気づいていた。  きょろきょろしていたカイルが、再び、ダミアスに尋ねた。 「なあ、急がなくちゃダメなのか? ちょっとくらい、遊んでっちゃダメ? 」  ミュミュも同じ気持ちであるのか、カイルの肩の上で嬉しそうに羽をぱたぱたっと 羽ばたかせた。 「日が暮れると厄介なのでな。すまないが、もう少し我慢してくれ」 「ちぇーっ。……あ、ちょっと待っててくれよ」  そう言い終わらないうちに、カイルは何かを見つけ、パーッと駆け出していった。 「ちょっと、カイル! 戻りなさいよ! 」  クレアの声が届いているにもかかわらず、彼は少し離れた店の前で立ち止まり、肉 と野菜を詰め込んだ饅頭を、いくつか抱えて戻ってきた。 「わりい、わりい! こうずっと歩いてるとさ、な~んか間がもたなくてさー。 ……おっ、これは、なかなかうまいじゃん! みんなも食うか? 」 「さっき食べたばかりだってのに、まだ食うか? 」  ケインが仕方なさそうに見ていると、ミュミュが両手を伸ばす。 「わーい! ちょーだい、ちょーだい! 」 「……お前も、ちっちゃいくせに、よく食うなぁ」  呆れているケインの肩から、カイルの前へとミュミュが飛んでいく。 「ミュミュには、ちょっとでかいからなー、ちぎってやるよ、……ほら」 「わーい、わーい! 」  ミュミュは、飛びながら大きく口を開け、両手で持った饅頭のかけらにかぶりつい た。  顔中、肉汁でべたべたにしていたが、彼女は一向にかまわないようだった。 「あっ! 」  ミュミュの手から饅頭がすべり落ち、地面にぼたっと落ちた。 「落としたー! 」  ミュミュがぎゃあぎゃあ喚く。 「えー? なんだよ、しょうがねえなー。……ほら、もうひとかけやるよ」  カイルからまたかけらを受け取ると、喜んで飛びつく。まるで、人間のコドモの ようであった。  カイルとミュミュの他は、無言でダミアスの後に続いていた。 「ミュミュ、口の周りがべたべたよ」  両手についた肉汁をぺろぺろなめながら飛んでいる彼女に、クレアが注意した。  言われて、ミュミュは、きょろきょろ何かを探し始めたが……  彼女は、カイルの後ろに回ると、彼のサラサラした金髪の裾で、顔を拭いたのだっ た。 (げっ!! なんてことを……! 悪気はないんだろうが、間違いなく、恩を仇で返 している! )  ケイン同様、クレアも、ぎょっとしてそれを見ていたが、二人は何も言わなかった。  何も知らないカイルは、ひとり楽しそうに饅頭を食べながら歩いている。  ミュミュは、特に悪びれた様子もなく、彼の肩に止まっていた――。 「あそこが、『紅通り』の入口だ」  ダミアスが指差す前方には、大きな赤い支柱が離れて二本立ち、その手前から赤茶 けた石でできた道が現れていた。辺りは、もうすぐ夕方になろうとしていた。 「わー、面白そう! 一足お先に行ってるよー! 」 「あ、ミュミュ! 」  クレアが止めかけたが、ミュミュは、さっさと空間に消えてしまった。 「俺たちも、早く行こうぜー! 」  カイルが喜んで駆け出していく。 「完璧、目的を忘れてるな、あいつら……」  ケインとクレアは、やれやれと、後を追った。  門をくぐると、大通りの両脇に、ずらっと露店が並んでいる。聞いていた通り、 占いやマジックアイテムの店ばかりだ。  それにたかっている人々の中に、カイルの姿があった。  彼は、『まじない棒』という、ただの木で出来た短いスティックにしか見えないも のを、買おうとしていた。  「ちょっと、カイル! 何してるのよ! 」  クレアに続いて、ケインたちも人混みをすり抜けて、彼のところへ辿り着く。 「いやあ、このおじさんの話だとな、これを毎日立て掛けて拝んでいれば、いずれ 魔力が宿り、魔法の杖になるっていう有り難い棒なんだってさ。ついでに、俺にも 魔力が備わるらしい。そうなりゃ、俺だっていろんな魔法が使えて——」 「そんなわけないでしょう!? 」  クレアは、彼の言葉を打ち切った。 「そんなことで魔力がつくものなら、みんなやってます! 厳しい修行によってでし か、魔力を増やすことなんて出来はしないのよ! 」 「まったくだぜ。だいたい、そんなウソくさい話に乗るなんて。しかも、杖を振り回 して、お前は魔物と戦うのか? 魔法使いのじいさんじゃあるまいし、傭兵のお前が そんなことしてるのは、どう考えても、絶対おかしいって、思わないか? 」  ほとほと呆れ果てて、ケインが腰に手を当てて言っている側では、 「そこのあなた! 」  クレアが、キッと露店の男を睨む。 「この道具は、あなたが作ったものなのですか? 見たところ、魔道士には見えない けれど」  『魔道一番!』と左右に書かれた赤い法被(はっぴ)を着た、誰がどう見ても町民に しか見えない男は、もぞもぞしだした。 「そ、それは……ある魔道士の方が作られたものでありまして……その方がお作りに なるものを、私はただ売っているだけであります」  クレアは、カイルから棒を奪って、じろじろ眺めた。 「その方って、ちゃんと正規の魔道士協会に籍を置いている方なんでしょうね?  このお店の看板にも、このまじない棒にもどこにも、魔道士協会の印は見当たりませ んけど……? 」 「そ、それは……」  クレアに問いつめられて、法被(はっぴ)の男は尻込みし出した。 「もし、魔道士協会に認可されていないものだとしたら、知らなかったとしても、 あなたのやっていることは犯罪です! 今すぐ悔い改め、自主なさい! 」  クレアが、男に詰め寄り、人差し指を突きつけた。 「ひぃーっ! 」  彼女の迫力から逃げ切れなくなった男は、悲鳴を上げた。 「ちょっと、クレア、あたしたちは魔道士協会の回し者でも何でもないのよ。さ、 そんなのほっといて行きましょう。……てことで、おじさん、これ返すわよ」  マリスがクレアからまじない棒をもぎ取り、法被(はっぴ)男に放った。  とんだ道草を食ったとばかりに、一行は、再び大通りを早足で歩く。 「そこのお嬢さん、占いはどうかね? 」 「お兄さんたちも、安くしとくよ」  これ見よがしに、頭に大きな赤い三角帽を被った老人、黒いフードを被っただけの 男など、見るからにニセモノのような易者たちが声をかける。 「もし、そこのお方、女難の相が出ておるぞ」  『人相学』と書かれた旗をはためかせている露店の老人が、ケインに呼びかけた。  余計なお世話だと、ケインは思った。 「へー、じゃあ、俺は? 」カイルが面白そうに、老人に尋ねる。 「オマエ、また! 」 「だってさー、人相学ってことは、学問だろ? 魔道士協会とは関係ねーし」 「アホか! そーじゃないだろー!? 」  クレアが、ちらっと振り返ったが、呆れたのか放っておいた。  老人は、カイルの顔を、大きな拡大鏡で覗き込んだ。 「おぬしには、金欠の相が出ておる」  カイルは、目を見開いた。 「実は、そーなんだよ! 食う寝ることと女には困ってないんだけどさ、カネばっか りはなー。じいさん、よくわかってるじゃないか! 」  彼は、ケインを振り返った。 「な? ケイン、当たっただろ? お前は女難の相なんだって? 大変だなー。あー、 良かった、俺はただの金欠で」 「はあ……、それは、よかったな」  ケインは、どっと肩に疲れを感じた。 「お二人合わせて、二〇リブになります」 「えっ? 二〇リブ?……二リブの間違いじゃないの? しかも、俺なんか、頼みも しないのに、そっちが勝手に占っておきながら、金を取るのか? 」  老人は、断固として譲る気はないようで、いくらケインが交渉してみても聞く耳を 持たなかった。 「どうしたら女難が追い払えるとか、そういうアドバイスさえなしに、二〇リブは高 過ぎるだろ? 」 「アドバイスが欲しければ、四〇リブを先払いじゃ」 「なんだって!? 」  カイルが、ケインの肩をぽんと叩く。 「とにかく、もう占ってもらっちゃった分は、仕方ないよなー。……てことで、ケイ ン、俺の分もよろしく頼むわ」 「なんだとー! お前、陛下からもらった賞金はどうしたんだ? もう使っちゃった のか? 」 「そんなの宿舎に置いてきちまったよ。ここまでダミアスが運んでくれるってことだ ったから、旅費もいらねーだろーし、なんかあってもみんながいるし、って思ったか らさー、あんまり持って来なかったんだよ」  ケインは、あんぐり口を開けて、その場に立ち尽くしていた。 「……それなのに、饅頭買ったり、無駄遣いを……? 」 「わりい、わりい、いやあ、まさしく金欠の相だなー。はっはっはっ」 「人相のせいにするな! そんなこと認めたら、俺の女難の相ってのもホントになっ ちゃうじゃないか! ……まあ、一理あるかも知れないが……」  アドバイスは当然断ったが、結局、ケインは二〇リブを払わされたのだった。  しばらく行っても、まだ占い屋は続いていた。先頭を歩くマリスとダミアスが通り 過ぎ、ケイン、カイル、クレアが通りかかったところで、声がかかる。 「よっ、そこの兄ちゃん、運勢占いはどうだねっ? 一人分の料金で相性占いもでき るよっ」  叩き売りのように、扇子でバシバシ台を叩いている、威勢のいい中年男がいた。 (これは、絶対ないだろー!? )  と、ケインが目を丸くしているにもかかわらず、カイルが目を輝かせた。 「へー、おっちゃん、じゃあ、俺とこの娘の相性って、どんななのかなー? 」  といって、クレアの肩を引き寄せる。 「お前、まだやるか! 」 「そうよ、放してよ、カイル。私、そんな占いなんて……! 」 「まあまあ、いいじゃないか。こんなのただの遊びなんだからさ」  カイルは、ケインを無視してクレアに笑いかけるが、彼女にしてみれば、例えウソ でも、彼と相性が良いなんて出ようものなら、そんな不名誉なことはないと、言いた げな顔であった。  さっそく男は、いかにもガラス玉のような大きな水晶球に向かって、なにやらぶつ ぶつ唱え始めた。 「ふむふむ……見えてきたぞ! ……ああ、悪いが、君たちは、もうすぐ破局するら しい」  占いにしては、ひどいことを平然と告げるものである。 「えーっ! そ、そんなー……! 」  カイルだけが、悲鳴を上げ、がっくりしていた。 「あの……、もうすぐもなにも、私たち、最初から付き合ってなどいませんけど」  クレアが、憮然と呟く。 「ちなみに、このねーちゃんと一番相性がいいのは……」  クレアのいうことなど聞いてもいないのか、うなだれて背中を向けているカイルに は構わず、中年男の人差し指は、ケインの前でピタッと止まった!  ――かに思えたがまた動き出し、少し離れたところで、腕組みをして待っている、 白い甲冑姿のマリスの前で、完全に止まった!  「あの兄ちゃんや! 」 「ええーっ!? 」  カイルが叫ぶが、ケインとクレアは、しーんと静まり返っていた。 「……さ、行くか……」  ケインは料金を払うと、カイルの首根っこを掴んで、歩き始める。 「なあ、さっきの聞いたか? クレアとマリスが一番相性がいいなんて、ウソに決ま ってるよな? な? な? 」  カイルは、情けない声を出した。いちいち答えるのもバカらしく思ったケインであ ったが、彼があんまり元気がないので、思わず口を開く。 「だから、アテになんないって、みんな言ってただろ? あんなニセ易者の言うこと なんか、いちいち耳を貸すなよ。金払うだけ損だぞ」  だが、実際に、代金を払ってきたのはケインなので、カイルはちっとも痛い思い などしていないのだった。 (俺には、男難の相も出てるんじゃないのか?? )  そのように思わずにはいられなかった。 「……そうかあ、クレアのヤツ、マリスと……」  カイルは、まだぶつぶつ言っていた。 「だ・か・ら、人の話を聞けって! 」


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