Book2看板 Dragon Sword Saga2 〜Ⅱ〜

ロッド右向きキラキラ100Ⅱ.『ヒーローと王女』キラキラ100ロッド左向き

剣月紺ライン  〜 Ⅱ.-1 〜  剣月紺ライン

「最近、野盗の集団が多くなったなあ」 「この間なんて、ベンの店が襲われたらしいぜ」 「サドルんとこも、被害に遭ったんだってさ」 「立て続けに? おお、物騒なこった!」 「国交が盛んになって、国が大きくなったのはいいが、流れ者どもにも目をつけられ るのはごめんだよなあ」 「ほんと、ほんと」 「だけど、いいやつも現れたらしいじゃないか」 「ああ、『白い騎士』だろ? 噂では、白い甲冑を着たまだ若い青年ということらし いが……ほんとにそんなやつ、いるのか? 」 「トールのやつが、アリア通りで、野次馬の人垣が出来てたんで覗いてみると、野盗 の集団が骨董品屋を襲っていたらしいんだ。そこに、現れたんだってさ」 「白い騎士がか? 」 「そう。白地に金色の模様の入った甲冑姿で、すごい美少年だったらしい。軽い身の こなしで、一気に二、三〇人の野盗どもをやっつけてしまったんだそうだ」 「へえ、すごいんだなあ! そんなやつがこのアトレ・シティーにいたとはなあ! 」 「まさに、神が遣わした正義の騎士だって、トールは言ってたぜ」  街の食堂兼酒場の、後ろのテーブルからは、噂話が聞こえていた。  ケインは骨付き肉をたいらげ、木の実酒を一口飲んだ。 (マリスのヤツ、結構有名になっているらしいな)  町外れの鍛冶屋で作り直した甲冑を着て、予告通り、思いっきり暴れているのだろ う。  ハデに遊んでいるせいか、すぐに噂になったらしいことも見当が付く。  銀色の甲冑のままだった時は、目立たないよう抑えてきたようだったが、その うっぷんを今ここではらしているのか。  食事が終わったケインは、宿屋へ向かい、マリスが一人で宿泊している部屋を訪ね るが、戻っている様子はない。  部屋のドアに寄りかかって、彼女の現れるのを待つ。  どのくらいの時間が経ったのか。剣を抱えて座り込むと、いつしかうたた寝して いた。  しばらくして、階段を上る足音に気付き、顔を上げると―― 「……ケイン? 」  身体にぴったりとした黒いドレスの女が、そこに現れた。「どうしたの? 」  思わず目をこすりながら、ケインが慌てて立ち上がる。 「ああ、ちょっと伝言があってな……。すぐ済ませて帰るから」  夜に女性の部屋に上がりこむことを気遣ったケインに反して、マリスは好意的な 笑みを浮かべる。 「ね、さっき、これ買ったの。一緒に飲まない? 」  マリスは、紅茶の入った袋を見せた。 (そっか。武遊浮術を極めた彼女に、怖いものなどないか)  マリスとヴァルドリューズの宿敵グスタフを倒してからというもの、彼らが話を するのは初めてだった。  ケインは、マリスの部屋で、マラスキーノ・ティーをご馳走になっていた。  マリスは、露出した肩の上に、白い絹をはおり、黒い薄布を口にくわえると、長い 髪を横に持っていき、一本の三つ編みに編んでいった。  その様子を見ていた彼は、ふと不思議に思った。彼女は、こんなに髪が長かったの か、と。  いつも、頭の上の方でとめていて、降りた部分が、ちょうど肩につくくらいの長さ だったのだ。本当は、背中を覆うほどもあったのかと、初めて気が付いた。 「今日はよく働いたわ。野盗の集団を三つもやっつけたんだもの。ああ、お茶がおい しいわ! 」  くわえていた黒い布で髪を結わいてから、マリスは嬉しそうにマラスキーノ・ティ ーに口をつけた。 「とても、そんな後には見えないけどな」ケインが笑う。 「白い騎士は、青年だと思われてるから……って、あたしがそう振る舞ってるんだけ どね。少年服だと、すぐに正体バレそうだから、こうやって全然違うカッコしてるの よ。おかげで、まだ誰にも気付かれてないわ」  見た目は美しく、近付き難い外見の彼女であったが、砕けた口調と、口ほどに喋る 瞳が、人好きのする印象を与える。  これまでの短い付き合いの間でも、少年、ドレス、甲冑姿……と様々な変装を目に してきたが、どれもまったく違う雰囲気であるのに、不思議と、彼女の魅力を損なう ことはなかった。  いろいろな表情を持つ彼女の、またひとつ違うタイプの変身に、ケインは脱帽し、 感心してもいた。 「それで、伝言て、何なの? 」 「ああ。アイリス王女が、『白い騎士』に会いたがってるんだが……どうだ? 」  マリスは、紅茶の入った器を手にしたまま、まじまじとケインの顔を覗き込んだ。 「お姫様が……? なんで? 」  神殿で野盗を捕えてからその後、王女は白い騎士の話ばかりしていた。  『あのような方が、このアストーレにいらしたなんて……しかも、わたくし、あんな に美しい男の方は、生まれて初めてですわ! 』 『わたくしは、武道のことはよくはわかりませんが、おそらく、相当訓練なさったの でしょうね。あの方とケイン様では、どちらがお強いのかしら? ケイン様は、どう 思われまして? 』 『今どちらにいらっしゃるのかしら……。こんなことが頼めるのは、あなたしかいな いの。お願い、もう一度、あのお方に会わせてくださらない? 』  などと、こんな調子であることを伝える。  マリスは、マラスキーノの香草を、箱の中から取り出し、熱い湯の入ったツボを傾 ける。充分に色と香りを出してから、ケインの器に注ぎ足し、自分にも注いだ。 「なんだか面倒ねぇ~。さっさと『白い騎士』の正体をバラしちゃえば? 」 「あんなにウキウキしてるのに、そんなこと、俺に出来るわけないだろ? 」 「どうして? 『白い騎士は、殿下の思い描いておられるような者とは違います。 ヒマつぶしに正義の味方ごっこをしている、ただの女戦士なんですよ』って、教えて あげれば、もう白い騎士(あたし)には何の興味に抱かなくなるでしょう? それとも、 姫の夢を壊したくはないとでもいうの? それって、なんか違うんじゃないの? 」  マリスは、椅子の背にもたれかかり、紅茶を口に含んだ。  しばらく考えていたケインだったが、次第に頷いた。 「……そうだよな。こういうのって、やさしさとは違うよな。ああ、だけど、本当の こと話したら、王女様、ショックを受けるだろうなぁ」  じっと見ていたマリスが、いたずらっ子のように瞳をきらめかせ、ガラッと口調を 変える。 「ケインて、ああいう子がシュミだったの? へー、意外だわ~。でも、なかなかお 似合いじゃない? 」 「ちっ、違うよ! もー、なんでみんな、俺と王女をくっつけようとするんだか」  頬に赤みが差しているケインを見て、マリスは、ふふふと笑うと、棚から酒のツボ を取り出し、二つの杯に注ぐと、一つをケインに渡し、もう一つを手に取った。 「ま、考えとくわ。それも、ケインの仕事なんだったら」 「お前に雇われてるのに、……悪いな」 「あら、いいのよ。適当に稼いでてくれていいって言ったの、あたしなんだから」  マリスは気にも留めていないようで、けろっと言った。 「今度、カイルもクレアも呼んで、飲みたいわね。皆といると、士官学校の仲間と、 いろいろ暴れた時のことを思い出すわ。ケインみたいに、剣が得意で強かったダンや、 クレアみたいな巫女見習いの――今は、もう巫女になったと思うけど、マーガレット って女の子もいたのよ」 「そう言えば、グスタフが、お前のこと『隊長』とかって言ってたよな? 士官学校 にまで行ってたのか。ベアトリクスの騎士になるために? 」  マリスは、苦笑混じりに笑った。 「貴族も平民も入り混じっていた学校でね。ベアトリクスは、知っての通り、軍隊に 力を入れているからね。小さいうちから、その手の学校に行くのが当たり前なのよ。 優秀な人材は、貴族だろうと平民だろうと、平等に扱っていたわ。少なくとも、学校 内ではね。もっとも、女の子で通う子は少ないけど、兄達も行っていたから、あたし はそれが当たり前だとも思っていて」  それで、巫女と貴族を両親に持つ、お上品な生まれである彼女が、『イン◯ン野 郎! 』や『ケツの穴』などという、下品な言葉を知っていたわけだと、ケインは 勝手に納得した。 「よく暴れたわー。ダンと一緒に他の子たちを仕切って悪さもしたし……そうそう!  野盗狩りもその時に味占めちゃって、未だに続いてるくらいだし」  マリスは、単純にころころと笑っていた。 (きっと、そのダンてヤツが、彼女に悪い影響をもたらしたんだな。責任取れよな、 ダン! )  罪悪感の微塵も現れていないその笑顔を前にして、ケインは、そんなことを考えた。 「その、野盗狩りしてたのって、いくつくらいの話? 」 「そうねえ、士官学校は一三歳で卒業しちゃったから……十歳前後だったかしら」 「そ、そんなときから、賊を相手にしてたのか!? 」 「やあね~、集団だから勝てたのよ。あたしひとりじゃとてもとても……」  彼女は、ころころ笑いながら、手をぴらぴら振ってみせた。 「そんな小さい頃から、賊を苛めて快感を覚えていたとは……恐ろしいヤツだな! 」  ケインが、冗談めかして言った。 「そっかあ、あたし、ケインのことは、なんだか初めて会った気がしないと思って いたけど、それって、ダンに感じが似てたからだわ。見た目は全然違うのに」  マリスが、懐かしそうな顔をした。 「元気で、わんぱく坊主で……ダンとあたしは、手に負えないって、いつも教官を困 らせていたわ。野盗だって、軍隊だって、ダンとあたしがいれば、負け知らずだった んだから。ケインも小さい頃は、暴れん坊だったんじゃないの? だからこそ、今は、 落ち着いちゃってるとか? 」 「お前と一緒にするなよ。俺は、わざわざ賊にケンカふっかけたりはしなかったし、 そんな風に気楽に学校なんか通ってたわけじゃないんだからな。いきなり実戦だった んだ。快感なんか、感じるどころじゃなかったんだぜ? 」  わざとしかめっ面をして見せるが、彼女は面白そうに彼を見ているだけだった。  マリスは、アイリス王女と違って、彼のことは全然怖がる様子はない。  王女の前では、いかに、嫌われないよう、話す時は笑顔で、言葉遣いも気遣い、 ガサツにならないよう、物腰は丁寧に……などと努めていて、それが今まで窮屈であっ たことを、ケインは改めて感じさせられた。  戦士であるマリスの前では、例え彼女が貴族の出であったとしても、対等である ――それが、雇われる時の条件でもあったのだから、雇い主と雇われ人という関係で あっても、気兼ねはしなかった。  唯一、『武遊浮術』の『愛技』さえ、使わないでくれれば――彼は、そう願ってい たし、マリスも、初級編を披露してみせて以来は、少なくとも、彼にはそのような 素振りは見せなかった。  野盗を退治した時の話や、士官学校の話、友達の話などで話が弾み、話の尽きる ことはないかに思われた時、マリスが、ふいに眠気に襲われ、欠伸(あくび)をした。 「あら、もう寝酒がないわ。や~ね、いつの間に、そんなに飲んじゃったのかしら?  ……そうだ、ケイン、悪いけど、片付けておいてくれない? あたし、もう眠くて眠 くて……。はー、さすがに、野盗団三つ撃退の後は疲れたのか、酒の回りが速いみた い。じゃ……」  欠伸混じりにそう言うと、マリスは、床にバタンと、俯(うつぶ)せに倒れ込んでし まった。  なんてマイペースなヤツ、と呆れながらも、一応、声をかける。 「そんなところで寝てると、風邪引くぞ」  反応がないので、ケインは、彼女のことはそのまま転がしておき、酒などのツボや 杯を元通り、壁際の低い棚の上に戻す。  そして、すぐに部屋を去ろうとして、ふと思い留まった。 (そういえば、寝る時は、インカの香を炊いてるんだっけ? )  ヴァルドリューズと離れている今、魔道士の使うインカの香を炊いて、結界として いるのだと聞いた覚えがある。 「おーい、マリス、インカの香は、どこだ? 」  なんとも返事がない。  実は寝た振りをしていて、いきなり襲いかかられ、『愛技』を使われたら……と、 一瞬、その考えがよぎると、近付くのは怖かったのだが、そのうち規則正しい寝息が 聞こえてきて、どうやら完全に彼女は眠ってしまったらしいことがわかった。 「せめて、ベッドで寝ろよな。しかも、靴くらい脱げよ」  肩を揺さぶってみても、起きる気配はない。マリスのブーツを脱がせてから、そう っと抱きかかえ、アイリス王女よりも多少の重さを感じながら、マリスをベッドまで 運ぶ。 「……セルフィス……」  ふと、マリスの唇から、小さい呟きがこぼれた。 「マリス、起きたのか? インカの香はどこに……? 」  顔を覗き込むが、何の反応もない。 (寝言か……。誰のことだろう? 俺に似てるヤツってのは、確かダンって言ってたけ ど)  『セルフィス』とは、男にも女にも取れる名前だった。  窓の近くの棚を探すと、香炉はすぐに見付かり、引き出しには、香の袋がいくつか あった。  香りも、それぞれ違っていて、インカの香なのか、普通の香なのかもわからない。  炊いたところで、結界にならなければ意味がなかった。  ヴァルドリューズと彼女は、いつも同じ部屋だった。  夜の間も、彼女を魔の力から守るために。  ケインは、どうしたものか迷ったが、完全に寝入っている彼女の、まったく大人な んだか子供なんだかわからないあどけない寝顔を見ているうちに、決心がついた。  彼は、マスター・ソードを抱えると、ベッドの下に座り込んだのだった。


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