Book2看板 Dragon Sword Saga2 〜1〜

ロッド右向きキラキラ100Ⅰ.『青天の霹靂』キラキラ100ロッド左向き

剣月紺ライン  〜 Ⅰ.-3 〜  剣月紺ライン アストーレ礼拝堂

「大昔に存在した神の遣いであるホワイトドラゴンの化石の一部が、今でもパルス トゥール神殿で保管されているのです」  神殿行きの馬車の中で、アイリスが語る。  未習得であった白魔法をクレアから教わり、マスターしたので、神殿へ、洗礼を 受けに行くところであった。  馬車の中には、アイリスと護衛のケイン、侍女兼白魔道教師のクレアがいる。  その他の馬車には女官たちが乗り、外には、ウマに乗った警備の兵がぞろぞろと 付き添っていた。  貴族や神官以外は神殿には入ることが出来ない。  王女とクレア(まだ巫女の証明があったので)、女官たち以外は外で待つのは変わら ずである。  警備兵たちは、ウマに餌をやったり、手入れをしたりして、休んでいた。  以前は、アイリスの誕生パーティーのために警備の人数を増やしていたので、国の 親衛隊までが警備に加わっていたが、誘拐事件の決着が付いてからは、親衛隊は普段 通りの訓練に戻り、警備は元通り警備兵のみになっていた。  正規の騎士たちである親衛隊ならば神殿にも入れたが、彼らは貴族ではなかったの で、傭兵のケインと同じく、外で待たなければならなかった。  パルストゥール神殿は、アストーレ郊外のそのまた山奥にある。  ずっしりとした重みのある、石で出来た支柱が支える円形の建物だ。聖なる青い色 の屋根は、日の光を浴びて輝きながら、天に向かって聳えている。  以前は気に留めていなかったが、建物の奥の方には青や赤、緑、黄色などのステン ドグラスが嵌め込まれていることに、ケインは気が付いた。その辺りが、礼拝堂なの だろうと思った。 「よお、ケイン! 」  いきなり、目の前の何もない空間から、カイルが現れた。 「なっ……! カイル!? 」  彼の肩には、ミュミュが乗っている。 「いやあ、ミュミュが神殿見たいっていうからさー、今日は休みで、俺もヒマだった から、連れてきてもらっちゃったんだよ」 「ミュミュも、ヒトひとりくらいなら、運べるの知ってるでしょー? 」  二人は、ヘラヘラ笑っていた。  ケインは、急いで他の兵士たちを見回したが、幸い誰にも気付かれてはいないよう だった。 「何しに来たんだよ? 見付かったら……」 「そのために、警備の制服で来たんだから、だいじょーぶ、だいじょーぶ」  カイルは、ケインと同じく紺色の制服姿だ。 「ミュミュも、見付かったら大騒ぎになるんだから、おとなしく隠れてろよ」 「うん。ミュミュ、神殿に祀(まつ)ってあるホワイトドラゴンのウロコを見たら、 すぐ帰るから、だいじょーぶだよ~」  そういうと、ミュミュは直ちに神殿の中へと消えていった。  神聖なる神殿に、ミュミュのような異種族が入っていいものかどうか、ケインの頭 をよぎったが、まあ、知ったことではない、と思い直した。 「……で、お前はどうするんだ? 俺たちは入れないんだぞ」  ケインは、まだヘラヘラしているカイルに言った。 「そうだなー、ミュミュの用が済んだら、アトレ・シティーにでも行って、茶でも 飲んで来ようかな~」  またナンパだな、とケインはすぐさま見当が付いた。 「さっき、ちょっと町に寄ったんだけどさ、『ドーラ産水牛のしゃぶしゃぶの店』 ってのがあったから、そっちも行ってみたいしなあ……」  カイルは、湧き出て来たよだれを、ごくんと飲み込んだ。  こいつって、スマートな見かけによらず、よく食うんだよな、などとケインが思っ ていると、カイルが何かを思い出した。 「そう言えば、マリスのヤツはどうしてるんだ?」 「ヴァルの、フェルディナンドでの用が済むまでは、遊んでるって言ってたよ。因縁 の宿敵を倒した後だから、ゆっくり羽伸ばしたいのかもな」 「じゃあ、やっぱ、あれはマリスだったんだな」  カイルが、続けた。 「あいつ、珍しく黒いドレスなんか着て、めかしこんじゃってて、やっぱりイイ女だ ったんだなー、なんて思ってたら、……驚くなよ、男と一緒だったんだよ」 「……マリスが……? 」  ケインは、にわかには信じられずに、カイルの顔を不審そうに覗き込んだ。 「それさあ、ほんとにマリスだったのか? お前の見間違いじゃないのか? 」 「いいや、俺が一度見た女を、間違えるわけないだろう? 」  ちょっと怪しい気もしたが、ケインは黙って聞くことにした。 「あれは、普通の間柄じゃないと見た! すっげーカッコいい男で、マリスのヤツ、 腕なんか組んじゃってさ。何だか、親し気だったぜ」 「……それ、ちゃんと正面から見たのか? 女はマリスと同じ、紫色の瞳だったのか? 」 「いや、後ろ姿だけだからな、そこまでは確認してねぇけど、あれは、絶対マリスだ ったぜ」  ケインは、安堵したような溜め息を吐(つ)いた。 「なんだよ、それじゃあ、マリスかどうかわかんないじゃないか」  カイルは、ケインの真横に並んだ。その眉間には皺が出来ている。 「お前、マリスが男連れてたら変か? 」 「えっ? ……いや、……ただ、ヴァルと一緒にいるのが自然に思えて……」 「ケイン、お前って、つくづく恋愛には疎いヤツだなぁ! 俺にはわかる! あいつ が操れるのは、何もロング・ブレードや召喚神だけじゃない。女ならではの武器だっ て、使いこなせるんだと……! 」  ケインは、呆れてものが言えなかった。  アストーレに着いたばかりの時には、マリスのことを『お子ちゃま』発言してた くせに、と思い出す。 「あの男、この国の人間じゃないような感じだった。あのガタイや身なりからすると、 俺たちのような傭兵とは違う、どこかの将校の路線が強い気がするぜ」 「じゃあ、もしかして、ベアトリクスとか、どこか外国の情報でも掴むために、わざ とそう振る舞ってるんじゃ……」  情報のためとはいえ、マリスの操る武道の『愛技』を使っているのだとすると、 居ても立ってもいられない思いがした。  だが、その将校のような男は、必要な情報を聞き出されたら、マリスの言っていた ように殴られ、気絶させられるのかも知れない、などとケインは想像すると、クスッ と笑いが漏れてしまうのだった。 「お前、まだ信じてねえな!? 」  勘違いしたカイルが、ぶすっとする。 「いやいや、違うんだ。それで、お前は声をかけなかったのか? 」  カイルは、腕を組んで、ふてくされたように、そっぽを向いた。 「俺よりイケメンかも知れない男となんか、話したくもねえからな」  ケインは、感心した。ただのナルシストではなく、一応、美的感覚はあったんだな、 と。 「ケイン、カイル、大変だよー! 」  血相を抱えたミュミュが、現れた。 「ドラゴンのウロコは見つかんないし、礼拝堂には、なんだかヘンな格好の大きな男 たちがいっぱいいて、お姫様もクレアも捕まっちゃってるよー! 」 「なんだって!? 」 「まさか、賊が入り込んだのか!? 」  貴族しか入ってはいけない掟だが、思わずケインもカイルも駆け出していた!  「ドアからは入れないように、かんぬきがしてあるよ。だから、ミュミュが 運んであげる」  そう彼女の声がケインの頭に響いたと同時に、彼の身体はふわっと浮き、次の瞬間、 目の前には、たくさんの野盗の集団と、取り押さえられている祭司長らしき法衣を まとった老人や、神官、巫女などが現れたのだった! 「うわっ! なんだ、こいつ!? どっから入ってきやがった!? 」  ケインの側にいたモヒカン男が声を上げた。  どうやら、ケインは、今、礼拝堂の入り口にいるらしかった。  ミュミュが、空間を移動して運んだことなど、皆は知る由もない。 「ケイン! 」 「ケイン様! 」  祭壇の奥では、クレアとアイリス王女が、賊にロープで縛り上げられているところ だった。  賊たちは、以前、王女を誘拐しようとした者たちではなく、全員が上半身に太い バンドを巻き付けた、典型的山賊コスチュームだった。  誘拐事件は、もう片付いたはずだった。  なのに、なぜまた……?   ケインの思いは、そこにいる誰もの思いも同じであった。 「ミュミュ、かんぬきを外してくれ」  彼は、辺りをさっと見回し、背に隠れているミュミュに、小声で伝えた。 「見たところ警備兵のようだな、小僧。どうやって入ったのかは知らないが、ひとり でどうするつもりだ? こっちには、人質だっているんだぜ? 」  入口近くにいた賊の数人が、ケインに近寄って行く。  その時、後ろからやって来る足音が聞こえると、ドアが勢いよく開き、カイルが 警備兵たちとなだれ込んで来た。  捕まっているクレアや王女の姿を認め、カイルが小さく舌打ちするのが、ケイン にもわかる。 「貴様たち、何者だ! 」  警備兵の隊長が問いただす。 「王女殿下と祭司長殿方を直ちにお放ししろ! 」 「シッ! 」  ケインが隊長を遮ったのは既に遅く、賊たちの顔つきが変わっていった。 「ほう、この小娘は、アストーレの姫さんだったのかい? いいこと聞いたぜ、なあ、 みんな! 」  賊たちは、「おう! 」と意気込んだ。 「伝説のドラゴンのウロコとやらを盗んでトンズラするつもりだったが、王女がいる とわかれば、計画変更だ! アストーレ王に、多額の身の代金を請求してやれるぜ! 」 「そうなりゃ、俺たちもしばらくリッチな生活が出来るぜー! 」  野盗たちは、勝手に盛り上がっていた。 「おーっと、警備のおっちゃんたち、そこを動くなよ。ちょっとでも動いたら、あん たらの大事な王女殿下サマとやらに傷がつくぜ」 「へっへっへっ、さあ、武器をこっちに渡してもらおうか」  賊どもは、でかい段平を手に、にじり寄って来る。  警備兵たちは、なすすべなく、固まっているしかない。 「おお! まさしく、青天の霹靂(へきれき)じゃあ! 」祭司長が叫んだ。 「うるせー! じじい! 」野盗のひとりが祭司長を蹴り倒した。 「貴様ぁ! 祭司長殿になにをする! 」 「やめぬか! 無礼者ども! 」  警備兵たちが、わあわあ叫んでいたが、それ以上、何が出来るわけでもなかった。 「親分、どっちがお姫様なんですかね? 」  ケインたちが武器を取り上げられている間、アイリスとクレアを指差し、小太りの 間の抜けた顔をした禿げ頭の男が、体格のいい、首領らしい、特に人相の悪い腕組み をした男に尋ねる。  男は、ギロッと小男を見下した。 「バカ野郎! 豪華なドレスを着ている方に決まってるじゃねえか!……いや、待て よ……」  首領はクレアに近付き、彼女の顎に手をかけると、無理矢理顔を自分の方に向かせ た。 「こっちの女官も、よく見るとなかなかの上玉だな。……よーし、こっちは後で高く 売るとするかぁ! 」 「なんだと!? てめえ、クレアから手を放せ! 」  カイルが叫ぶが、野盗たちはゲラゲラ笑うばかりで相手にしない。 「親分、この巫女さんたちも売ってはどうですかね? 」  ネズミのような、逆三角形の顔をした出っ歯の小男が、首領に提案した。 「おお、そうだな。巫女っつったら生娘のはずだ。こりゃあ、高く売れるぞ! 」  どうやら、野盗たちはたいした計画性もなく、その場の思いつきで何事も決めてい るようだった。  当初の予定は、化石を盗むことだったようなので、それも仕方がなかったのか。 「そういうことで、警備サンたち、ごくろーさん。アストーレ王によろしく」  首領と、王女たち人質を連れた者と、取り上げた武器を持った連中は、奥の出口か ら撤退していった。  それ以外の賊たちは、大きな段平を手に、殺気立った笑いを浮かべ、礼拝堂の中央 に追いやられた警備兵たちに、じりじりと歩み寄っていく。  まさしく、ケインは、この時を待っていた!  「ミュミュ、剣を! 」  ケインが叫んだと同時に、彼の目の前に剣が、ぼたっと落ちた。  礼拝堂に残った賊たちは一瞬驚き、引き退いた。  彼は、すぐさま足元に落ちてきた剣を拾う。が、それが自分のマスター・ソードで ないことに気付く。 「ミュミュ、これ、俺のじゃないぞ」 「だ~って、すぐに見付からなかったんだもん! 」  彼女は、ケインの髪の中から、ひょいっと逆さに顔を覗かせた。  まあ、いいかと、ケインは、正面から一気に、野盗たちの剣を弾いていった!    突然の反撃に面食らった賊たちは、一瞬怯(ひる)むが、すぐに応戦する。  ミュミュが空間から一本ずつ剣を放り投げ、それに疑問を持つでもなく、警備兵た ちも、即座に野盗に対抗していく。  だが、兵士の数は、それほど多くはない。賊の方が二〇人ほど上回っている。  ケインとカイルが兵士たちの2~3倍の人数を受け持ったとしても、負傷する兵士 も出て来ていて、ますます形勢不利になっていった。  賊というのは、本来情け容赦のない連中である。  前回の賊は、クリミアム王子の雇ったニセモノであり、彼がいいカッコしたかった だけなので、幸いケガ人はでなかったが、今回は本物の賊なので、怪我をした警備兵 を数人がかりでいたぶり始めるなど、残忍な行為もあった。 (早く、なんとかしなくちゃ! )  ケインもカイルも、被害を最小限に抑えようと、奮闘する。 「てめえら、どうやって剣を……!? 」  見ると、出口には、首領が戻ってきていた。取り上げた武器がなくなっていたので、 引き返してきたのだ。  それでも、だんだんと出口に近付いていたケインは、相手をしていた賊どもを振り 切り、首領の後ろを取ると、首領の太い腕をぐいっと背に回し、剣を喉元に当てた。 「抵抗をやめろ! さもないと、首領の命はないぞ! 」 「ああっ! 親分! 」  騒いでいる賊たちに向かって、ケインはもう一度言う。 「抵抗をやめ、武器を捨てろ! 」  彼に腕を締め付けられ、首領が苦しそうに呻き声を上げた。今まで戦っていた野盗 たちが手にしていた武器を、放り投げ始める。 「図に乗るな。武器を捨てるのは、貴様の方だ! 」  そうケインの後ろで声がしたと同時に、彼は、首領の肩に掴まり、飛び越え、とっ さに首領を盾にした。  ばちばちばち……!  「あちぃーっ!! 」  皮膚のやける嫌な匂いがし、首領が背を掻きむしりながら飛び上がった。 「くおら、ギュース! 何すんだ! 俺様に当ててどうする!? 」  首領は、後ろを振り返った。 「すいやせん、まさか、あの野郎がよけるとは……」  出っ歯の男が、黒い小袋をいくつか手にしながら、ぺこぺこ頭を下げる。 「小僧、親分を放しやがれ! これが見えないか! 」  途端に、ぞろぞろと、王女やクレア、祭司長らを連れた賊たちが再び現れる。 「ケイン、気を付けて! 小袋には魔法の粉が入っているわ! 『炎』や『雷』の術 が、呪文を唱えなくても使えるのよ! 」  クレアが叫んだ。 「そういうことだ。親分を放さなければ、この中の誰かに、こいつを浴びせてやって もいいんだぜ? 王女サマや、上玉のこのねーちゃんはおいといて、そうだな……、 巫女のうちの誰かにでも浴びせてやるか! 」  ネズミ男は、ひっひっひっと笑いながら、巫女たちを見回した。人質たちが、悲鳴 を上げる。 「……わかったよ。お前たちのかしらは、返してやる。だから、人質には何もするな」  ケインは持っていた剣を放り投げ、かしらの背中を押した。  首領は、くるっとケインを振り向くと、にやっと笑い、手を組み合わせてボキボキ 鳴らした。 「ありがとうは言わないぜ、ぼうず」  そう言い終わらないうちに、首領の拳がケインに向かって振り下ろされた。それを、 彼は飛んで回避したが、 「よけやがったな。だが、今度よけたら、人質に傷がつくことになるぜ」  首領の合図で、賊が巫女の一人の頬に、短剣をぴたりと当てる。再び悲鳴が上がる。 「わかったら、観念しろ! へっへっへっ……」  首領は、また手をボキボキと鳴らす。 「てめえだけは許しちゃおかねえ。よりにもよって、俺様を人質にしようとするなん ざ、ガキの分際でいい度胸してるじゃねえか。しかも、さっきは、てめえのせいで炎 の粉を浴びせられたんだからな。  ……おお、そうだ! ギュース! 炎の粉を持って来い! 俺様と同じ思いを、こい つにも味わわせてやる! 」  首領は、またしても思いつきで決めた。  ネズミ小男が、黒い小袋を持って、ヘラヘラ笑いながらやってくる。 「親分、炎の他にも、雷や、凍りつかせる術なんかもあるらしいでっせ」 「ふ~ん、どれどれ」  盗んだものであるのは、一目瞭然だった。彼らも、あまりよくわかってはいないよ うで、袋の中身を開けて、中に入っている小瓶を取り出し、瓶に書いてある文字を 一生懸命読んでいる。  ケインは、こんなマヌケなやつらにやられるのは、まっぴらごめんだった。 (ミュミュ……! まだか、マスター・ソードは……! )  今、頼りになるのは、彼女だけなのだ。  だが、まだ彼女が現れる様子もないまま、首領がにんまり笑った。 「決まったぜ。貴様は、炎の刑に処す! 」 「結局それかい!? 」  さんざん考慮していた割には、当初の予定でいくことにしたらしい。 「へっへっへっ、よけるなよ! 」  首領の小瓶を掴んだ手が、振り下ろされようとした時だった。 「どわわわーっ!! 」 「うぎゃあああーっ!! 」  出口付近にいた賊たちが叫び声を上げ、次々と、噴水のように吹き上がっていく!  「な、なんだ!? 」  ケインもカイルも、警備兵も、残りの夜盗も、呆気に取られて、その光景を見てい た。 「ど、どうしたんだ!? てめえら! 」  首領も思わずビクビクしながら、声を上げた。  波が押し寄せるようにして、後ろの者から前の者へと飛び上がっているのは賊のみ で、人質である王女やクレア、祭司長、神官、巫女たちは、すべて無事だった。  その時——   何かが高く、野盗の噴水の中から飛び上がったと思うと、空中でくるっと 回転し、室内の前方にある祭壇の上に、ひらりと舞い降りた。  それは、真っ白な甲冑に覆われていた。  鎧の胴の部分には、金色の豪華な細工が巡らされており、きらきらと輝いている。 剣は腰に下げてはいるが、抜いていない。  逆光のため、顔はよく見えないが、オレンジ色に輝く巻き毛をなびかせ、腕を組ん で立っているその者は、ケインよりも小柄な戦士だった!  「て、てめえ……! 何モンだ!? 」  呆然と見つめていた首領は、我に返って喚いた。 「極悪非道を常とする愚かな悪党ども。私は、正義の神が遣わした白い騎士。天に 代わって、貴様らを成敗する! 」  そして、人差し指を、ビシッと首領の頭上に向けた。 「白い騎士!? ……あいつは、何でも、最近、アトレ・シティーを襲う賊どもを やっつけているという、あの『白い騎士』なんじゃ……!? 」  ネズミ小男が、怯えた声を出す。 「なにい!? ふざけやがって! そんなヤツ、この俺様が……! おお、そうだ! 」  首領は、また何か思い付き、いきなり走り出すと、王女を抱え、短剣を突きつけた。  何度目かの、女たちの悲鳴が上がる。 「動くんじゃねえ! これが見えねえか! 」  首領が、王女の頬に短剣を、ぴたぴた当てる。 「いやあ! ケイン様ぁー! 」  王女が、ナイフから顔を背け、固く閉じられた瞼からは、ぽろぽろと涙がこぼれた。 「姫! 」ケインが叫ぶ。  白い騎士を名乗る戦士が現れても、不利な状況は変わりなかった。 「はーっはっはっはっ! いくら貴様らが強くとも、こうして姫を人質に取られては、 なすすべあるまい! 賊の天敵であるという白い騎士とて、アストーレの王女を見殺 しには出来まい! 」  白い騎士は、祭壇から床に舞い降りると、つかつかと首領に近付いていった。 「こ、こら、寄るな! 寄ると姫の命はないと言っておるのに! 」 「それがどうした? お前が姫を殺せば、その後私がお前を斬る。それだけのことだ」  白い騎士の冷淡な口調に、首領の顔色が変わった。 「ハッタリだ! そんなのはハッタリだ! お前だって、アストーレの騎士だろう!?  王女が死んで、いいわけねえじゃねえか! 」 「私がアストーレの騎士だなんて、誰が決めたんだ? 」  白い騎士は、くすっと笑いをもらした。  途端に、首領の顔に、はっきりと困惑の色が浮かぶ。それを逃さず、白い騎士は、 一気に首領の懐(ふところ)へ飛び込むと、瞬時に抜き放った剣で、首領の短剣を持つ 腕を斬りつけた!  首領は、剣を落とし、腕を抱えて絶叫した。   白い騎士は、素早く王女を抱き寄せると、縄を切り、自分の首に王女の腕を巻き付 かせて、片腕で抱え、飛び上がると、蹲(うずくま)っている首領の首に、着地と同時 に蹴りを入れた。  首領は悲鳴も上げずに、失神した。 「お、親分が……! 」 「そんな……!? 親分が、やられた……! 」  賊どもは、逃げ腰になり、礼拝堂の中を逃げ回り始めるが、警備兵たちが追いかけ、 縛り上げていく。  白い騎士も、王女を抱いたまま、飛び回り、次々と賊を蹴散らしていく。  ケインとカイル、警備の隊長たちは祭司長たちの救出に急ぐが、そこは、白い騎士 登場の際に賊は倒されていたので、人質の縄をほどくだけでよかった。 「クレア、大丈夫だったか? 」  縄を解きながら、ケインが言った。カイルも、巫女たちの縄を解きながら、ホッと した表情でクレアを見る。 「ええ。……ごめんなさい、ケイン。私、せっかく剣を教えてもらってるのに、全然 役に立たなくて」 「何言ってるんだ、まだ始めたばかりなんだし、実戦を積んでるわけじゃないんだか ら、そうすぐには使えるようにはならないよ。ましてや、相手は加減を知らない賊だ ったんだから。クレアはよく頑張ったよ」  ケインが微笑んで、クレアの肩に手を置くと、安心し、緊張が解けたクレアの目が、 涙ぐむ。 「それにしても、ハデにやらかしたな、白い騎士(あいつ)」  カイルが顎で指した方には、白目をむいた野盗たちが、様々な格好で倒れている。  死んではいないが、その様は、不気味であり、滑稽でもあった。 「……なあ、これと似たような光景、なんだか見覚えないか? 」 「え、ええ……なんとなく……」  ケインとクレアが、礼拝堂の惨事(?)を見つめていた目の前に、白い甲冑の戦士が、 アイリス王女を抱いて、舞い降りた。 「殿下! 」  ケインとクレアが駆け寄り、白い騎士を見て、ハッと息を飲んだ。  風になびいたオレンジ色に輝く巻き毛。  白い面(おもて)には、キリッとした眉に、バイオレットの瞳、高く筋の通った鼻、 微笑んだ口元。  戦士は、姫を降ろすと、ケインに押し付けるようにして引き渡し、踵を返し、出口へ と向かっていった。 「あ、あの……あなたは? あなたのお名前は……? 」  王女は、その軽い身体をケインに預けたまま、栗色の大きな瞳は、白い姿に釘付けと なっていた。  戦士は、足を止めた。 「正義の白い騎士、マリユス・ミラー」  振り返りもせずにそう告げると、は、ひらりと白いマントを翻して、出て 行った。 「殿下、お怪我はございませんでしたか? 」  気を取り直して、ケインは、腕の中の王女を覗き込んだ。  アイリスは、白い騎士が去った後でも、ボーッとしたように、ずっと出口を見つめて いた。 「……なんて素敵な方……」  その言葉は、ほとんど無意識のうちに、アイリスの唇から漏れていた。  ケインとクレアは、唖然となった。  王女の視線が、いつまでも白い騎士を追い求めているのを、ただ見守っているしか なかった。 「ありゃりゃ?? まさか、まさか……?? 」  「ひえー、こりゃあ、ケインの立場ねえじゃん!? 」  ミュミュとカイルのコソコソ話が、ケインの後ろから聞こえてくる。 (スマートで、ハンサムで頼もしい――確かに、白い騎士は、それに当てはまっている。 だけど……)  ケインは、がくっと肩を落として、カイルを恨めし気に見る。 「お前ー、何が『町で見掛けた』だよ。ここにいたじゃないか」 「あ、ああ、そうみたいだな」  カイルが、えへへと笑ってごまかす。 (何が、マリユス・ミラーだ。こんなことってあるか? ……あいつは、……あいつは、 マリスじゃないか……! )  ケインの頭の中では、ゴールドランドがどんどん遠のいていく……。  傭兵上がりの、未来のアストーレ王は誕生にはならずか!?   ましてや、ヒーローの座を奪われた。このような形で……??  祭司長の叫んだ『青天の霹靂』――ケインにとって、まさしく、それは、それ以外の なにものでもなかった――。 


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