Book1看板 Dragon Sword Saga1 〜7〜

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~ 第1巻『旅の仲間:前編』 ~

剣月緑ライン Ⅶ.『アストーレ城の陰謀3』 ~ 闇の魔道士 ~  妖精ライトグリーン2 剣月緑ライン

 モンスターから身を守る結界ーー薄い緑色の膜が、クレアと、かごに閉じ込められ たミュミュの周りを囲んでいた。  それを見たケインは、安心して、モンスターたちを薙(な)いでいった。  だが、合成モンスターたちは、これまでと勝手が違い、切っても切っても復活し、 すぐに無数の牙を剥いて、向かってくる。  もともと一体だったもの同士ではなく、近くに落ちていたもの同士が、引き合い、 断面など構わずくっつき合わさっていたため、その形はますますおぞましく、不気味 でイビツになる一方だった。  それでも、勢いが衰えることはない。  そうなると、ヒトの体力の方が、先に尽きてしまうことは、明らかだった。 『そのモンスターどもは、切っても倒すことは出来ん! 火だ。火を使え』  どこからともなく響いたその声は、クレアにだけ聞こえた。  クレアが、はっとして、呪文を唱えた。  途端に、彼女の手のひらから、人の顔ほどもある大きな火の塊が生まれ、黒い モンスター目がけて、火の粉をまき散らしながら、吹き飛んでいった。  マスカーナやデロスの魔道士が見せたものよりも、明らかに大きく、スピードも ある! 「マリス、ケイン、よけてー! まだコントロールが……!」 「えっ!?」  おぞましい標的から顔をそむけているせいで、クレアは、あちこちに炎を振りまい ていた。  ケインもマリスも慌てて逃げ出し、地面に伏せるはめになった。  それは、まったくの、無差別攻撃であった!  だが、数撃つうちに当たったらしく、モンスターたちは、声にならない叫びを上げ て、炎に巻かれたものから、次々と消滅していったのだった。  ひととおり焼き払うと、クレアは、ふうっと一息つき、辺りを見渡して「あら」と 言って、口に手を当てた。  辺り一帯が、焼け焦げ、ぶすぶす言っていた。 「す、すごいじゃないか、クレア!」 「いつの間に覚えたの!?」  そう褒めながらも、顔をこわばらせたケインとマリスは、クレアに駆け寄った。 「まだ加減がよくわからなくて、必死だったから、つい……。炎の術だけ、たまたま 覚えたところだったの。『水が効く』って言われたら、どうしようかと思っちゃった わ」  クレアは、嬉しいような、恥ずかしいような、はたまた困ったような笑顔になって、 両手を頬に当てた。  その美しい面(おもて)と、炎の無差別攻撃とは、まったく結びつかない。 「貴様、よくもここに……!」  三人の頭上では、グスタフの憎々し気な声が響き渡るが、空には、彼以外の何も 映ってはいなかった。 「この城は、私の庭のようなもの。異分子の存在など、すぐにわかる」  『火が効く』と教えた声だと、クレアは気が付いた。 「くっ……! ここでは、場所が悪い。一旦、引き上げさせてもらうぞ!」  そうグスタフの声がすると、辺りの景色が、ぐらっと揺れ、彼の姿も、焼け焦げた モンスターの残骸も消えていった。  そして、通常に戻った空から、舞い降りて来た一人の魔道士の姿があった。 「ダミアスさん!?」  ケインが、目を丸くした。  それは、先に牢で会ったばかりの参謀ダミアスに違いなかった。 「彼グスタフは、クリストフ王子の部屋の手前にいた。彼の結界に入るには、少々 時間がかかるので、直接、本人の居場所へ行ったのだ」 「それで、ヤツが逃げていったというわけか」  参謀ダミアスは、クレアの方を向いた。 「よくやった。見事だった。見習いとは思えないほどの腕前だった」 「そ、そんな……ありがとうございます」  クレアが恥ずかしそうに、ペコッと頭を下げた。 「ダミアスさん、初めまして。さっそくで悪いんだけど、あいつを追ってくれない かしら? 今、逃げられると厄介なのよ」  マリスが、初対面にもかかわらず、遠慮のない口調で、ダミアスに言った。  ダミアスは、じっとマリスを見た。 「先程から、どうも得体の知れない魔力の波動が感じられると思ったが……、あなた は、魔道士ではないのですか? それほどの魔力を持ちながら、なぜ、魔法を使わな かったのです?」  ダミアスは、なぜかマリスには敬語で話しかけている。  クレアにはそうではなかったため、魔道士というものは、魔力基準で階級が決まる のだろうか? と、ケインは不思議に思っていた。 「あなたは……」  ダミアスが言葉を続けるのを遮(さえぎ)るように、マリスは、口早に話した。 「あたしはマリス。今は、魔法は使えないの。ところで、知り合ったばかりで悪いん だけど、急いでるの。あたしを、あの北の森まで運んでくれないかしら?」  ダミアスの顔色が、少し変わった。 「彼が、あそこへ逃げたと……?」 「ええ、間違いないわ、あいつは、あそこにモンスターを呼び出した張本人なのよ。 きっと、あたしを迎え撃つ戦闘体勢に入ってるわ」  マリスが、森の方を見上げて言った。 「彼が、モンスターを……」ダミアスが呟く。 「魔道士の間では、誓約ごとがいくつかあることは知ってるわ。だから、一緒に 戦ってくれとは言わない。送ってくれるだけでいいの。お願い!」  マリスが、両手を組み合わせ、今までにないほど緊迫した様子で、ダミアスに頼み 込んだ。 「マリス、一度、ヴァルを連れに戻ったら……」 「いいえ!」  彼女は、はっきりと、ケインの言葉を打ち消した。 「そしたら、あいつは、また逃げるわ! やっと、見付けたんだもの。ここで倒して おかなくちゃ!」  ケインもクレアも、ダミアスも、どうやら、グスタフとマリスには、深い因縁でも あるらしいことを察した。 「そんなことより、早くミュミュを出してよーっ!」  クレアの抱いているかごの中では、ミュミュが喚(わめ)き、暴れていた。  ダミアスが手をかざすと、ミュミュの身体が一瞬消え、かごの外に現れた。 「このかごには、物理的な力を加えると、中の生き物にもダメージが与えられるよう、 厄介な魔法がかけられていたようだ」  ダミアスが、淡々と言った。 「ありがとうございます!」 「ありがとう! おじちゃん!」  ケインが、ダミアスに頭を下げ、ミュミュは、ダミアスの周りを、嬉しそうに、 ぱたぱた飛び回った。 「ーーてことで、ここからは、あなたたちは、帰っていいわ」  そう言ったマリスに、ケインもクレア、ミュミュも注目した。  マリスは、笑ってはいない。 「グスタフは、慇懃無礼(いんぎんぶれい)なヤツよ。物腰からしてバカ丁寧で、 イヤミったらしかったでしょ? その実、やることは、相当汚いわ。さっきは、人質 がミュミュだったからよかったようなものの」 「ちょっと! どーゆーことさー!?」  ミュミュが両手をぶんぶん振り回しながら飛んで、口を挟む。  クレアは心配そうな目で、しばらくマリスを見ていたが、ふっと目を伏せた。 「そうよね。私の覚えたての魔法なんか、きっと、通じる相手ではないのね。それに、 さっきの術で、ほとんど魔力を使い切ってしまったし……。側にいるだけで、マリス の足を引っ張ることになるのだったら、私はお城に戻っていた方がいいみたい。役に 立てないのは、心苦しいけど……」  マリスが、クレアに暖かい目で見つめ、両手を、彼女の肩に乗せた。 「さっきは、クレアがいてくれて、本当に助かったわ。今度は、お姫様を守ってあげ て。王様が、腕の立つ女官とやらを探しているそうよ。クレアなら治療も出来るし、 結界も張れるし、炎の攻撃だって出来るじゃない!  もし、あたしがしくじったら、あのワガママ王子、またグスタフを使って、何を 企むかわかったもんじゃないわ。あと二日は、滞在するみたいだし……ねっ?」 「……ええ」  クレアは、潤んだ瞳でマリスを見つめ、うなずいたものの、心配そうな顔のまま だった。  マリスの視線が、ケインに留まった。 「ケインも……」 「俺は、一緒に行く」  打ち消すように、ケインは、そう言っていた。  マリスが何か言いかけるが、彼は構わず続けた。 「あのヤミ魔道士、王子の命令で、俺のことも狙ってるんだ。さっきは、マリスの ことしか眼中になかったみたいだったけどな。ここで、あいつを倒しておかないと、 っていうのは、俺にとっても同じことだ。  それに、マリス、俺は、お前に雇われてるんだぜ。『一緒に来い』って言って くれれば、俺はいつでも一緒に戦う。……ああ、解雇されるまではな」  後半、ケインは、明るく、軽い口振りになった。  クレアが、ますます心配するように思えたからだった。  そして、万が一、マリスに何かあったら、という自分の不安を、はねのけるためで もあった。 「そうよね、あたし、ケインの主人だったのよね。忘れてたわ~!」 「なんだよ、忘れんなよ!」  冗談のように言い合う二人を見ているうちに、クレアにも、少し笑顔が見られた。  それを確認してから、マリスが言った。 「それじゃあ、北の森へ出発よ!」


北の山

「もう目を開けてもいいだろう」  ダミアスの声で、ケインは、そうっと目を開く。  ダミアスに言わせると、慣れていない者は、時空酔いをするといけないので、目を 閉じておいた方が良い、ということであった。  それまでの、身体にまとわりつくような違和感も、なくなっていた。  辺りは、真っ暗な森の中だった。  ケインとマリスは、ダミアスに連れられ、空間の中を移動して、北の森へ着いて いた。 「ここが、北の山の頂上だ」  真っ暗闇で、背の高い樹木によって、視界は遮られていた。 「ここまで連れてきてくれて、ありがとう。もう、戻っていいわよ」 「いや」  魔道士は、マリスの言葉に、首を振る。 「あなたがたの戦いを、見届けさせて頂きたい」  ケインもマリスも、じっと彼を見た。  彼の瞳は、相変わらず静かで、はたからは、真意は読み取れない。  どことなく、ヴァルドリューズと似ていたかも知れなかった。  マリスが微笑んだ。 「手出しは、一切無用よ」 「もちろん。あなたがたの戦いを汚すようなことは、いたしません」  ダミアスも、いくらか微笑んでいるようであった。 「それを聞いて、安心しましたよ」  空から、声が響いた。 「さっさと姿を見せたらどうなの、グスタフ!」  マリスが、空に向かって声を張り上げた。  ゆるゆると、黒いものが舞い降りて来る。  それは、木の枝に止まると、徐々に人の形になっていき、記憶に新しい、長身の 痩せた魔道士の姿へとなった。 「出て来たわね」  マリスが、ひとり呟く。  グスタフが、杖をさっと一振りした。  二人は、身構える。  側にある木の根本に、黒い穴が開き、黒いモヤとともに、獣人型モンスターが 現れた。  まるで、その黒い穴は、小規模な次元の穴とでも言うように、ぞろぞろとミドル・ モンスターたちが召喚されていくのだった。  ケインもマリスも、剣を持つ手に、力がこもる。  その時、爆風音とともに、小型の竜巻のような渦巻く風が、モンスターたちを巻き 上げ、そのまま空高く吹き飛ばしていってしまった。 「貴様、手出しはしないと、今言ったばかりではないか!」  グスタフの、忌々(いまいま)しそうな声がする。 「手出しはしない。そのかわり、お前も、堂々と、彼らと戦え。神聖な戦いを汚す ことのないように」  静かな声で、ダミアスが返した。 「そうよ! くだらない手品なんか見せてないで、かかってきたらどうなの?  それとも、あたしたち二人に恐れを成して、手も出せないってわけ?」  マリスが挑発する。 「ふっ、いいだろう。魔術の使えない人間が何人束になろうと、私の敵ではない!」  グスタフの姿が揺れ動いて、景色の中に溶け込んだ。  次の瞬間ーー 「来るわよ!」  マリスの声と同時に、拳の大きさほどの火の球が、ケインの目の前に現れた。  ケインが、反射的に、剣で防御する。  火は弾き飛んで、空に消えていった。 「ほう、この至近距離で、よく交わしましたね。それに、その剣からは、魔力が感じ られる。対魔物用の剣でしたか」 「ドラゴン・マスター・ソードだ」  ケインが静かに答える。 「ほう、まさか、こんなところにそんなものがあるとは、思いもよりませんでしたよ!  そうか、だから、あの時、私の魔力を込めた剣が、効かなかったのですね。それなら ば、それを考慮に入れて、攻めなくてはなりませんね……!」  どこからともなく聞こえてくるグスタフの声。  気配を探るが、それが追いつかないほどの速さで、声は、彼らの周りをぐるぐる 回り、どこから攻撃が来るのか、ケインには、まったく見当が付かなかった。 「ケイン、後ろ!」  背に殺気を感じたと同時に、マリスが横から、ケインの後ろに剣を突き出した。  ガシッ!  杖とマリスの長剣が、かち合い、緑色の火花を放出する。 「ちっ、次は外しませんよ!」  夜の森は、闇だった。  さらに、グスタフは、黒いフード付きマントで黒い風景に溶け込み、空間移動術を 使う。  殺気で気配がわかっても、動きが速く、それを読むのは至難のわざである。 「ケイン」  マリスが、そっと背中合わせになり、小声で話しかける。 「あたしが合図したら、一気に、あそこの太い木まで走っていって。木を背にして 戦うわよ」 「ああ、その方がいいな」  マリスの合図で、ケインは一気に、大木目がけて走った。  その後ろで、パチパチと燃える音や、稲妻のようにピカッと光るのがわかる。  マリスが剣で弾いているのが、感じ取れる。  大木に着いたケインは、振り向いた。  マリスは、移動せずに、戦っていた。  グスタフの姿は見えないまま、四方から放たれる炎や稲妻を、彼女の対魔物用 ロング・ブレードが、すべて弾き飛ばしていた。  グスタフは、ケインが走り出したと同時に、マリスを集中攻撃したのだ。  ケインがマスター・ソードを構え、呪文を唱えようとすると、ふいに、炎や稲妻が 止み、辺りが静かになった。  奇妙な異変に、マリスもケインも、その場で剣を構えたまま、辺りの様子を嗅ぎ 取ろうと、神経を集中させる。  マリスの目の先で、何か黒いものが、うようよと蠢(うごめ)き始めた。  ざわめく木々。  草の根をかき分けて、前方から、獣人タイプのモンスターたちが、何十匹と現れた。 「なっ……! 汚いぞ、グスタフ!」  ケインは、見えない魔道士に向かって叫んだ。  薄気味悪い魔道士の笑い声が、どこからともなく聞こえる。  ケインが、マリスに助太刀しようと向かうが、すぐに殺気を感じ、横転して飛び 退(すさ)った。  そのケインのいたあたりを、グスタフの杖が突き抜けた。 「あなたも、なかなか勘がいいですね。マリス嬢は、あやつらにお相手していて もらい、先にあなたを倒しておこうと思うのですが、如何(いかが)です?」  グスタフのねっとりとした声が、ケインの耳元で聞こえる。  ケインは、すぐに態勢を立て直した。  剣を構えながら必死に目を凝らし、五感を研ぎ澄ませた。  目の前の暗闇に、ぼうっと、人の顔らしきものが浮かんだ。  殆ど髑髏(どくろ)と思える、皺(しわ)だらけの皮でできた顔面に、耳の下辺りから 生えた長い白髪、額には、黒い宝石、中心にある骨張った鉤鼻(かぎばな)、凹んだ 眼窩(がんか)には、燃えるような炎の色をした眼球ーー  それは、まるで、何百年も生きてきたかのような人間の顔であった!  グスタフは杖を振りかざした。  それを、ケインがマスター・ソードで防ぎ、右手の拳を狙いをつけて打ち込むが、 手応えはない。  不気味な笑い声とともに、魔道士の顔だけが闇に浮かび、またしても杖を繰り出す。  それをよけると、右から電光が放たれる。  ケインがマスター・ソードで応戦するのを、見物でもするように、グスタフの顔は、 同じ位置で笑っている。  あらゆる方向からやってくる攻撃ーー突き出す杖、火の球、雷(いかずち)は、人間 相手と違い、気配が読みにくいため、ケインにしてみれば、普段以上に神経を使う。  防いでばかりでは拉致(らち)が開かない、と思ったケインは、地面から飛び出して 来た火の球をよけ、横に飛ぶと見せかけ、地面を蹴って方向転換すると、闇に浮かぶ 魔道士の顔目がけて、マスター・ソードを振り下ろした。 「おわあああああああ!」 「外したか!」  グスタフの叫び声が響き渡る中、ケインは、舌打ちした。  顔を真っ二つに割るつもりが、とっさによけられ、顔の右側を斬りつけただけ だったのを、悔しそうに見た。 「おのれ、よくも……! 貴様如きが、私の身体に傷を付けるとは……!」  ケインが思ったよりも、傷は、深く斬り込まれていた。  グスタフは、頭のてっぺんから、だらだらと血を流し、右目を抑え、無事な方の 目を見開いて、ケインを凝視していた。  その彼の血の色を見て、ケインは、ぞくっとした。  彼の血は、赤くなかった。  魔物と同じ濃い緑色であった。 「そんな! 魔道士といえども、人間なんじゃ!?」  一瞬の隙をつかれ、ケインは、突然現れた杖に、突き飛ばされた。 「たかが、戦士にしては、よくやった。褒めてやろう。だが、私の身体に傷を付けた とあっては、もう、手加減はしないぞ! 覚悟しろ!」  グスタフは、その長身をゆらりと現し、ケインの前に立ちふさがった。  受け身を取って転がり、起き上がりかけたケインの目の前に、グスタフの筋張った 手のひらが向けられた。 「もともと、貴様は消せという依頼だった。丁度よい! 今こそ消してやる!」  その瞬間ーー 「消えるのは、貴様だ」  この場に不釣り合いな、抑揚のない、無表情な低い声が聞こえたと思うと、 グスタフの胸から、真っ赤な炎が吹き出し、絶叫が辺りに響きわたった! 「……き、貴様……、い、いつの間に……!」  グスタフは、全身を痙攣(けいれん)させながら、ゆっくりと振り返った。 「ヴァル!」  ケインが叫ぶ。  黒いマントに身を包み、フードを降ろした黒髪の魔道士の姿が、そこにある。  ヤミ魔道士グスタフの後ろに現れたのは、紛れもなく、ヴァルドリューズだった。


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