Book1看板 Dragon Sword Saga1 〜6〜

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~ 第1巻『旅の仲間:前編』 ~

剣月緑ライン Ⅵ.『アストーレ城の陰謀2』 ~ 牢の中の魔道士 ~  妖精ライトグリーン3 剣月緑ライン

「マリス……? ホントに、マリスなのか!?」  目の前に現れた女は、貴族の姫君たちの着る、ふくらんだドレスとは違い、身体に ぴったりとして、裾が床まで広がった、白い質素な、サンドレスのように、肩を露出 した姿である。  意外な登場の仕方に、ケインもクレアも、すっかり再会を喜ぶタイミングを外して しまった。 「他に、誰に見えるってのよ。あ、そっか、あなたたちには、まだ見たことなかった んだったわね。こういうのを着れば、あたしも、まんざらでもないでしょ~?」  マリスは、得意気に片腕を上げ、ポーズを取って、ウィンクしてみせた。  暗がりも手伝って、それは、とても一六歳の娘には見えず、大人っぽく、色っぽく も映った。  ケインとクレアの目は、ますます開かれていった。  心臓の音が大きく響いた気がしたケインの頬に、赤みが差していくが、暗がりの せいで、気付く者はいなかった。 「マリスったら、そんな下着のような服なんか着て、男の人がいっぱいいるところを うろついてたの!? いいえ、それよりも、一体、今まで何やってたのか説明してよ!  みんな心配してたのよ!」  クレアは、泣きそうな、心配した口調になっていた。 「そお? 心配なんてしてくれてたの、クレアだけでしょ?」  マリスは、けろっとしている。 「あなたたちこそ、こんなところで何してるのよ」 「私たちは、捕われた参謀の牢を探しているの」  クレアは、王女誘拐未遂事件、脅迫状にインカの香の残り香、寄せ集めの盗賊団が 武器ばかりを集め、カイルの魔法剣も盗られたが取り返せた、そして、今日起きた 二度目の王女誘拐未遂事件……という、これまでのあらましを、ざっと、マリスに 伝えた。 「ふ~ん、変な事件ね。実は、あたしも、その参謀さんに、ご用があったりするの よね」  三人は、監房を一部屋一部屋通り過ぎながら、話を続けていた。 「あたしは、ちょっと遊んでから、アストーレの北側の森に行っていたの」 「あの例の、モンスターの噂のある?」  ケインたちも調べた森である。 「そう。『あんたたちの主人は、どこ?』って、獣人タイプのミドルモンスター締め 上げたら、城だっていうから、城でちょうど女官を募集してたことだし、今日から 女官になったとこなの。その格好だと、クレアも女官のバイトなのね? 城の中は 広いから、管轄(かんかつ)違うと、なかなか会わないものね~」  などと気楽に笑うマリスに、クレアが驚いた。 「ちょ、ちょっと待って。マリス、あなた、……モンスターの言葉がわかるの!?」  マリスが笑い出す。 「まっさかぁ! ミュミュよ。あの子が通訳してくれたの」  クレアが、今度はケインを見る。  頭をなんとか冷静に戻したケインが、答えた。 「ああ、ミュミュたち妖精も、俺たちヒトからすれば、妖怪変化の一種みたいなもん だからな。で、そのミュミュは、今は一緒じゃないのか?」 「あら、そっちと一緒なんじゃなかったの?」  三人は、顔を見合わせた。 「……ま、いいわ。いずれ、見付かるでしょう。……多分ね……」  マリスが、何か考えながら呟いた。 「それで、マリス、なんで私たちと別行動なんか取ったの? 途中で連絡くらいくれ ても」  心配そうにのぞくクレアに、マリスは、少し困ったように笑った。 「ごめんなさい。例の参謀って、もしかしたら、あたしの知ってるヤツかも知れない のよ。この町では、なるべく目立たないでいたかったの。でないと、そいつに逃げ られちゃう可能性があったからね」  マリスは、そこで、足を止めた。 「あの奥の部屋に、参謀が閉じ込められているわ。あたしは、ここで待ってるから、 ケイン、クレア、先に話を済ませてきて。何か聞きたいことがあるんでしょう?」 「それはそうと、参謀の独房が、よくわかったわね」  不思議そうなクレアに、マリスは、笑って答えた。 「簡単よ。色仕掛けで口を割らせたの」 「それで、牢番のオヤジたちを眠らせたのか?」 「そうよ」  あっさりと答えたマリスに、ケインは、顔をしかめた。  ゴロゴロと転がった『マグロ』の牢の番人たちーーその奇妙さは、彼女の仕業だと 言われれば、なんだかケインには納得出来てしまった。 「『いつもご苦労サマ♥』って、にっこり笑って、牢番たちにお酒注いで回ったの。 眠り薬が入ってるとも知らずに、みんな喜んで飲んでくれたわ」  マリスがころころと笑う。 「また『武遊浮術(ぶゆうじゅつ)』の愛技か」  眉間にしわを寄せるケインに、マリスはウィンクして笑ってみせた。 「そ。それも、中級編ね」  以前、ケインが仕掛けられたのよりもランクが上らしい。 (初級編は、可愛らしさを強調する技だったような? 中級編っていうと、それより も、もっと……?)  牢番たちに、ベタベタしながら、酒を注いでいたのでは? と想像したケインは、 ムスッとした。  クレアは、何のことかわからない顔で、二人を見ていた。  独居房の前に、たどりついた。  ケインは、マリスから預かった鍵を、鍵穴に差し込み、ゆっくりと回した。 「ダミアス殿、失礼致します」  扉を押し開け、ケインだけが入った。  さらに、鉄格子のカギを開けると、その先は、まるで貴族の書斎を思わせるような、 絨毯(じゅうたん)が敷き詰められ、書き物机もあり、豪華なソファまであった。  牢獄とはいえ、参謀という位の高い人間は、丁重に扱われていた。  ソファで、じっと座っていた魔道士は、ゆっくりと、目を開けた。 「傭兵のケイン・ランドールです。朝食会で、あなたをお見けして、少し、お話が したくて参りました。アストーレ王からの、城の中を行き来できる委任状も持って います。よろしいでしょうか?」 「なぜ、ここへ?」  表情のない顔のまま、ダミアスは、重い声を発した。  委任状を見せてから、ケインは語り始めた。 「今日、脅迫状の予告通り、王女殿下の誘拐事件が起きましたが、これも、未遂に 防ぐことが出来ました。二〇人ほどの賊を現行犯で捕え、尋問しましたところ、 奴らは首謀者の名前を吐きました。……あなたの名前です」  じっと見据えている、ケインの深く青い瞳を見つめてから、ダミアスは、静かに 口を開いた。 「これで、私が犯人という、決定的な証拠が出来た、というわけか」  声には表情は現れていなかったが、ほんの少しだけ、笑っているようであった。  何かを諦めたような笑いである。  ケインは、微笑んでみせた。 「でも、なぜか、俺には、あなたは事件とは関係ない気がしてしょうがなかったの です」  ダミアスは、僅かに不思議そうな目になった。 「私の犯行を裏付ける証拠ばかりが揃っているというのに、……なぜ、また?」 「そこなんです。『あなたに不利な証拠ばかりが揃っている』ことに、俺は、逆に、 『不自然さ』を感じたのです。果たして、参謀にまでなった人間が、そんなミスを するでしょうか? それなのに、あなたは、何の弁解もなさらずに、ここに、 こうしている。……もしかして、誰かを庇っているのでは、ありませんか?」  魔道士の参謀は、じっと、ケインの目を見据えた。 「俺にとって、二つ、引っかかることがあった。そのうちのひとつは、魔法剣のこと です。クレア、入ってきてくれ」  呼びかけに答えて、クレアがおそるおそる、ケインの後ろから現れる。 「この方を、『見て』くれ」  クレアは、ダミアスの前で、静かに目を閉じ、彼の波動を感じようと精神を集中 させた。  彼は、それを静かに見つめていた。  彼女は、見終わると、ケインの方を向いた。 「あの時の魔道士は、この人じゃない気がするわ。それに、私の見た『手』とも違う わ」 「よっしゃあ! やっぱり、そうか!」  ケインは、軽くガッツポーズを決めると、ダミアスに振り返った。 「やっぱり、あなたは、魔法剣を奪ってはいない上に、奴らの主人ではなかったの ですね? 真犯人の目星は、俺には、もうついています。あなたの無実を、俺が証明 してみせます! それまで、もう少し辛抱していてください」  ケインとクレアが牢を去ろうとした時、参謀の声が後ろから追いかけた。 「公爵殿方は関係ない。あの方々は、ただ、私を面白く思っていないだけだ」  二人は、足を止めて、ダミアスを振り返った。 「あなたは、あの方々を庇っていたのですね。なぜです?」 「あの方々は、陛下のお従兄弟(いとこ)。私を追い出すために、今回のことを思い 付いたのであれば、そのことを陛下にお伝えするわけにはいかないのだ。陛下は、 気持ちの優しいお方。もし、ご自分の身内が企んだことと知れば、心を痛めてしまう に違いない」  それを聞いたクレアが、はっとなった。 「それで、もしかして、その計画にあえて乗って、……まさか、この国を出る決心 までしていたのでは……!」 「なるほど、そうだったのか。だけど、残念ながら、というか幸いというか、俺が 真犯人だと目を付けているヤツは、公爵たちではないんだ。だから、安心してください」  参謀は、少し見開かれた目で、ケインを見た。  ケインは微笑むと、クレアと独居房から出て行った。 「話は済んだ?」  二人を、離れて待っていたマリスが言った。 「ああ。次は、マリスの番だよ」  彼女は、レザー・ナックルを取り出し、手に装着し始めた。白いサンドレス姿には、 似つかわしくない。 「……何してるんだ? そんなものはめて」  マリスは、深呼吸してから、言った。 「今から、あいつをブチのめす!」  ケインとクレアは、慌ててマリスを取り押さえた。 「何でそんなことするんだよー!」 「そうよ、マリス! いきなり、そんな野蛮なことやめて、せめて話し合って!」  マリスは二人を引きずりながら、牢へと、一歩ずつ近付いていく。  武遊浮術を極めた彼女を、力で止めることは、誰にも出来ない。 「あいつとは、ちょっとした因縁があってね。モンスターも呼び出してることだし、 ここで、一気にカタをつけてやるわ!」 「だったら、それは、もうちょっと待ってくれないか? あと、二日……いや、一日 でもいいから! 彼は、逃げたりしない。保証するよ!」  マリスの足が、ピタッと止まる。 「絶対?」  ケインもクレアも、こくこく頷いた。  マリスは、腕を組んで、しばらく考えていたが、納得した顔になった。 「いいわ。今は、ヴァルもいないことだし、ま、いざとなれば、あいつは 『サンダガー』にやらせるか。サンダガーを飼い馴らすには、時々エサをあげない とね」 「『神』を餌付けしてんのか!?」  ケインは「にこにこしながら、とんでもないことを言うムスメだ!」という顔に なり、クレアも、どう言っていいかわからない表情で、ただ目を丸くしていた。  参謀の次に、ケインが寄りたかった、もう一カ所に着く。  今日、彼の捕えた盗賊団のいる雑居房(ざっきょぼう)である。  賊たちは、大きめの檻の部屋に、二、三人ずつ入れられていた。  牢に入れられているというのに、ぐうぐうと、気持ち良さそうに眠っている。 「おい、起きろ」  ケインは、檻の外から、彼らを見下ろした。  目を覚ました賊たちが、檻の向こう側を見る。 「ああっ、てめえはっ……!」 「あの時の、強え小姓!」 「小姓?」  ケインの後ろにいたマリスが、首を傾げて、隣のクレアを見る。 「それは、お前ら一味を欺(あざむ)くための仮の姿。しかして、その実態はーー 旅の傭兵『よろず屋ケイン』だったのさ!」 「……」 「……」 「……」  辺りは、静まり返っていた。 「ねえ、なんだか、あんまり強そうなネーミングじゃないわね? 単に、働き者 だってことが、言いたいのかしら?」  そうマリスが、クレアに耳打ちしているのが、ケインにも聞こえる。  気を取り直して、ケインは続けた。 「さあ、オジさんたち、ホントのことを吐いてもらおうか。お前たちと手を組んだ 魔道士は、一体誰なんだ?」 「だから、さっき言ったじゃねーか!」 「ダミアスだよ! 何度言えば、わかるんだよ!」  賊たちは、喚いた。 「そんなこといって、実は、他のヤツなんだろ?」  ケインが、そう言っても、賊たちは、同じことを繰り返し答えるだけだった。  それを、ある意味、満足したように見渡してから、ケインは再び口を開いた。 「そうか。随分あっさり答えてくれるな。黒幕を、そんなに簡単にバラしちゃって、 怒られないもんなのかね? 普通、『死んでも言うもんか!』とか言うもんだぜ?」  賊は、ぴたりと押し黙った。 「それに、『様』が抜けてるんじゃないか? 相手は、王国の参謀殿なんだろ?  しかも、雇い主なのに、呼び捨てなんていけないなぁ」  にやにやしている余裕のケインに対して、賊たちは、お互い顔を見合わせ、動揺が 走った。 「ケインが気になったことの二つ目って……」 「そう、こいつらの態度さ」  クレアに、ケインが、肩をすくめてみせた。 「簡単に黒幕白状するわ、捕まっても、安心してぐーぐー寝てるわ。雇い主が参謀 だとしたら、こんなに安心してられない。他の誰かに、身の保証をされてるのが、 バレバレだぜ」  それには、クレアもうなずいて、納得した。 「あんたたち、早く吐いた方が、身のためよ」  いつの間にか、マリスが檻(おり)の鍵を開けて、中に入っていた。 「おい、マリス、そんなとこで、いったい……」  ケインが、そう言い終わらないうちに、マリスは、いきなり、中の一人を捕まえ、 ねじ伏せた。  賊は、叫び声を上げた。 「さあ、あんたたちを雇った魔道士の名前を吐きなさい! 『ダミアス』なんて名前 じゃないはずよ!」  マリスが、のしかかりながら、賊の腕を抱え込む。 「い、いてえ! 何すんだ、このアマ!」 「早く言わないと、この腕、へし折るわよ」  彼女に腕を反対側に曲げられ、男は苦しそうに、呻き声を上げる。 「だから、参謀のダミアスだって! いててて!」  檻の中の残りの二人が、マリスに襲いかかるが、あっさりと、殴り飛ばされ、壁に 打ち付けられる。  ごきゅ!  鈍い音と同時に、絶叫が、牢屋中に響いた。  クレアが、思わず顔を伏せた。 「こ、こいつ! お、俺の腕をぉぉぉ! 折りやがったぁぁぁ!」  ケインが、慌てた。 「お、おい、何もそこまで……!」 「なによ、腕の一本や二本。大の男が、それくらいで泣き声出すなんて、情けないわよ!」  マリスは、そいつを放り出すと、今度は、よろよろと立ち上がりかけていた、 モヒカン頭の足を、蹴って転ばせ、背に馬乗りになった。  モヒカン男が、恐怖にかられた叫び声をあげた。  白いドレス姿の美少女が、野盗にのしかかっている図などは、ナンセンスである。  残った一人は、恐怖のあまり身動きも取れず、これ以上開かないほど目を見開いて、 見ているしかなかった。 「さあ、これが脅しじゃないって、わかったでしょ? さっさと吐きなさい。参謀殿 は、『ダミアス』なんて、ふざけた名前じゃないはずよ。『グスタフ』でしょ!?」 「えっ? 今、なんて……?」と、クレア。 「マリス、城の参謀の名前なら、ダミアスだぜ。『グスタフ』って誰だ?」  驚いたマリスが、二人を見る。 「『ダミアス』!? 『グスタフ』じゃないの!?」  ケインとクレアは、首を横に振った。 「なあ~んだ、ヒト違いか」  マリスは、あっさり、賊を放して立ち上がった。 「クレア、こいつら、治してやって。大丈夫よ、あたしが一緒についててあげるから、 こわくないわ」  クレアが、怯えながら檻の中に入っていき、負傷した賊たちを、白魔法で治療する。 「もともと、白状させた後は、こうしてあげるつもりだったのよ。ね? やさしい でしょ?」  マリスは、ケインとクレアに微笑みかけた。  クレアの顔は、引きつっていた。 「あのなぁ、あんまり、むちゃくちゃするなよ。それに、参謀が、お前の探してる ヤツかどうかくらい、ちゃんと確かめてから行動しろよ。さっき、危うく、関係の ない人間を、やっつけようとしたところだったんだぞ」  と、呆れて言うケインに対して、 「あら、大丈夫よ。あたし、グスタフの顔なら知ってるもの。やっつける前に、 気付くわよ」  マリスは、にっこり微笑んだのだった。  牢の塔を出て、ケインたちは、もと来た道を通っていた。 「ケイン、調べものは、まだあるの?」  マリスが尋ねる。 「ああ。いよいよ真犯人のところへ、お邪魔するんだ」 「それは、誰なの? 盗賊たちからは、そこまで聞き出さなかったじゃない?」 「ああ。俺には、もうわかってるから」  ケインが、再び答えた時、 「ねえ、何か変だわ……!」  クレアが、辺りを伺いながら、慎重な声を出した。  その途端、嘲(あざけ)るような笑い声が、辺りに響くと同時に、周りの景色が、 ぐらっと揺れた。 「よくも、邪魔してくれたな、ケイン・ランドール!」  空から、若い男の声が、降り注ぐ。  クレアが怯えた表情で、ケインを見る。ケインは目で合図し、クレアを自分の背後 に下がらせた。  マリスは、腕を組み、目だけで辺りを油断なく伺う。 「今度こそ、真犯人のご登場のようだな! クリミアム第一王子、クリストフ殿下!」  ケインは、空に向かって叫んだ。


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