Book1看板 Dragon Sword Saga1 〜6〜

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~ 第1巻『旅の仲間:前編』 ~

剣月緑ライン Ⅵ.『アストーレ城の陰謀2』 ~ 小姓 ~  妖精ライトグリーン2 剣月緑ライン

「待て!」  剣を構えて見合っていた賊とクリミアム王子が、声のした方を振り向く。  生成(きな)りのフードを被った小姓が、やってくるのが目に留まった。 「俺が相手になる」  賊たちが、じろじろと見回す。近くまで来ると、その小姓が、意外に背丈がある こともわかった。 「誰かと思えば、なんだ、小姓のガキじゃねえか。俺たちも、なめられたもんだぜ!」 「こんなに圧倒的な力を見せ付けられても、まだわからんヤツがいたとはな!」  賊がゲラゲラと笑うが、小姓はまったく動じずに、クリミアム王子の横に行くと、 静かに言った。 「殿下、危ないので、お下がりください」 「い、いや、だけど……」  クリミアム王子は、なにやら口の中でもごもご言っていたが、おとなしく、自分の 馬車の近くまで下がった。 「さてと、お坊ちゃん、何をして遊ぶのかなぁ?」  賊たちがふざけて笑っている。  小姓は、腰に差していた剣を、ゆっくり抜いた。 「ほう、ロング・ソードなんかで、俺たちの剣にかなうとでも思ってのか?」  賊たちは、また笑い出した。 「これは、ただのロング・ソードなんかじゃない」  言い終わると同時に、彼は、手前で笑っていた賊の剣を、弾き飛ばした。  その時、緑色の火花が散るのを、見逃さなかった。 「やはりな。お前らの剣には、魔法がかけられている! だから、魔法攻撃は効かな いし、剣は異常に硬くなっていたってわけだ!」  小姓は、確かめたかったことが確認出来ると、小姓の生成りのフード付きマントを 外した。  風になびいた栗色の髪、青い大きな、少し目の端の上がった瞳、まだどこか幼い 顔立ちではあったが、鍛えられ、引き締まった筋肉質の身体が、衣服の上からでも わかる。 「あのお方は……!」  王女が目を見開き、小さく呟く。 「こ、こいつ……! やっちまえ!」  賊たちは、もう、笑ってはいなかった。  段平やロング・ブレードを振りかざし、小姓だった者ーーケインに向かって突進 していく。  数人の剣を、左手のマスター・ソードで受け止める。  緑の火花が散る。  今度は、そこにいる者たちにも、はっきりとわかった。  ケインは、受け止めた数人の剣を、左手だけのマスター・ソードで支えると、彼ら の腹に、右拳を食い込ませ、蹴りを入れた。  いつもの戦法と同じく、剣はあくまで防御のため、攻撃は素手であった。  むやみに人を斬りつけたくはないというのと、今回は、王女や女官のいる前で あったので、残酷なシーンがあってはいけないのだ。  ケインは、楽々と、ひとりずつの剣を弾き飛ばしていった。 「な、なんで、魔力のかかった俺たちの剣が、効かないんだ!?」  中には、青くなって、そう叫び出す者もいた。 「言葉を返すようだが、実力の差だ」  と、ケインが余裕の笑みで返し、難なく剣を弾き続ける。  あっと言う間に、盗賊たちの剣は、全部吹っ飛び、地面に突き刺さるか、転がって いるかとなった。  再び剣を手にしようと走り出す者もいたが、 「おっと、こいつはお預けだぜ。盗品は、持ち主に返さなくちゃな」  という声がし、どかっ! と賊は腹を蹴られ、吹っ飛んでいく。  カイルであった。  彼は、ケインの弾いた賊たちの剣を、拾い集めていたのだった。  ケインが親指を立ててみせると、カイルはウインクで返した。  二人の連携プレーで、剣がそつなく回収されると、盗賊たちに、武器はなかった。  ケインは、マスター・ソードを鞘に納めた。 「バカが! 唯一、俺たちを捕まえられようというこの状況で、剣を納めるとは、 気でも狂ったか!?」  ハゲ頭の賊が、そう喚(わめ)く。  ケインは、けろっとした顔を向けた。 「別に狂っちゃいないさ。お前たちなんか、素手で充分ってことさ!」  言うと同時に、ケインは、盗賊たちを殴り倒し、蹴り飛ばしていった。  その頃には、護衛の騎士たちが、王女や女官たちを助け出し、逃げ惑う賊たちを 捕えにかかっていた。 「そ、そんな……! 話が違うじゃねえか!」  賊のひとりが思わずそう呟くのを、ケインは聞き逃さなかった。  そして、その男が、無意識のうちに見ていた方向を、目で追う。 (……そうか……! そういうわけだったのか……!)  彼には、事件の黒幕が誰であったのか、見当が付いた。 「話は聞いたぞ! よくやった、ランドール!」  宿舎に戻ると、ダルシウム将軍が顔をほころばせて、やってきた。 「親衛隊も歯が立たなかった相手を、いとも簡単に倒してしまったそうではないか!  賊も全員捕えたことだし、陛下も非常に感心なさっていて、お前を、姫の直属の護衛 にとも、考えておられるようだぞ!」 「すげえじゃねえか、ケイン!」  カイルも嬉しそうに、ケインの背中を肘でついた。  ケインは、将軍に敬礼はしたが、特に表情は変えなかった。  そこへ、捕まえられた賊たちが並ばされ、跪(ひざまず)かされる。 「昨日のように、逃げられてはいかんからな。今から尋問を始める」  ダルシウム将軍の尋問に、彼等は観念したのか、ぶすっとしながらも、すらすら 答えていった。  身代金目当てで、王女誘拐を企てたところ、パーティーでの誘拐に失敗したので、 そのまま誘拐のチャンスを狙っていた、と。 「うそつけ! お前ら、町でパレードが行われていた時、武器屋を襲ってただろ!  それに、そいつとそいつ、見覚えがあるぞ! 確か、俺の剣を盗った時、いたよな?  お前とお前も、パーティーの時に、庭で俺が捕まえた奴等じゃないか! ちゃんと 覚えてるんだからな!  脱走なんかして手こずらせやがって。お前らだけで実行できるわけないんだ、魔法 の使い手なしにはな! しらばっくれてもだめだぜ! 吐けよ、誰なんだよ、黒幕 は? てめえらと一緒にいた魔道士様は、一体どこのどいつなんだ! さっさと 言わねえか!」  ダルシウム将軍を差し置いて、カイルが、近くにいた賊のひとりを締め上げ、 強く揺さぶった。 「う、うう……、さ、さん……」  男が、苦しそうに呻く。 「ああ? なんだよ、聞こえねえよ!」 「お前が掴んでるからだろ」  隣で、ケインがしょうもなさそうに、カイルの肩を叩くと、カイルは、少し手を 緩めた。 「……さ、参謀の……ダミ……ア……ス……」  呻き声は、そう、はっきりと、皆にも聞き取れた。 「本当かっ!? 脅迫状も、あいつか!?」  男は微かに頷いた。 「な、なんと、本当に、ダミアス殿とは……!」  将軍は、呆然としていた。 「あの野郎……! やっぱり、しらばっくれてやがったな!」  カイルが、族から手を放し、憎々し気に言った。  賊たちは、親衛隊に引っ立てられ、牢に連れていかれた。 「黒幕がダミアス殿とは……。陛下には、何と申し上げてよいものか……」  ダルシウムは、その場で考え込んでいた。 「将軍、是非、聞いて頂きたいお願いがあります」  ダルシウムは、気の重そうな顔のまま、ケインを見た。 「この事件を、もうちょっと調べてみたいので、陛下に報告するのは、もう少し 待って頂けませんか?」  ダルシウムの目が見開かれる。 「な、なんと!? どういうことかね?」 「今は言えません。まだ確信したわけではありませんので」  ダルシウムは、しばらくケインの顔をじっと見ていた。確信してはいないという ものの、その瞳から、事件を解決する何かを見付けたような、自信を見出したよう だった。 「わかった。おぬしに賭けてみよう!」  ケインは、そう言ったダルシウムに、深々と、頭を下げた。 「いいのか? ケイン。お姫様の護衛、断っちまってさー。お近付きになれるチャンス だったのに」  ダルシウム将軍と一緒に、国王と謁見室で話をした後、アストーレ城のロビーを、 宿舎に向かって、ケインとカイルは並んで歩いていた。 「別に、お近付きになったって……」  ケインが笑いかけたその時、 「お待ち下さい! ケイン様!」 (ケ、ケイン様?)  聞き慣れない呼び方に、驚いて振り返ると、アストーレ王女が、淡いオレンジ色の ドレスの裾を持ち上げながら、彼等の後を、ふわふわと小走りして追ってきたの だった。  目を丸くしているケインの前まで行くと、王女は、必死な面持ちで、彼を見上げた。 「王から聞きました。なぜです? なぜ、わたくしの護衛を、お引き受けして下さら ないのですか?」 「私には、事件を解決する使命が、残されているのです」  ケインは、穏やかに答えた。 「わたくしは……わたくしは、どうなるのです? 守っては頂けないのですか?」  王女は、ほとんど哀願していた。  ケインは、心配させないよう微笑んでみせた。 「殿下は、もう安全です。私が事件を解決致しますから、どうか、今晩からは安心 して、ごゆっくりお休みください」  ケインは頭を下げると、王女に背を向け、歩き出した。 「やはり、わたくしのことが、お気に召さないのですね。だから、護衛も引き受けて くださらないんだわ……」  王女の声が、だんだんと涙声に変わっていくので、ケインが振り返ると、王女は 両手で顔を覆(おお)い、しくしくと啜(すす)り泣き出した。 (えっ!? もしかして、俺が泣かしてるのか!?)  ケインは戸惑い、どうしたものかとカイルの方を見るが、彼は目配せして、 そそくさと消えていった。 (カイルのヤツ、気を利かせてるつもりか? そんなことしなくても……)  小柄な王女のか細い肩が、震えていた。  ケインが、なだめるように応える。 「何をおっしゃるんです。気に入らないなんて、そんなんじゃ、ありませんよ」 「いいえ、いいえ! わたくしといると、いつも、悪いことばかり起きるのだわ! だから、あなたは、わたくしの側にいたくないのでしょう?」  王女は、余計に泣き出した。 (うわー! なんで、そうなるんだ!?)  ケインは、どうしていいかわからず、おろおろしていたが、やっとのことで口を 開いた。 「悪いことばかり起きるから、危険だから嫌だなんて、そんなことはありません。 ただ、……俺は、ただの旅の傭兵なのです。そんな者が、殿下のような方のお側に いては、よくないのです。殿下のお側は、アストーレの、ちゃんとした身分の方が、 お守りするべきなのですよ」  王女は、強く、首を横に振った。 「そんなこと、ありませんわ! あなたは、二度も、わたくしを賊の手から救って くださり、アストーレの警備隊も親衛隊もかなわなかったほどの敵を、あんなに あっさりと倒してしまわれたわ! それだけで、充分、誇らしいお方です! お願い です。わたくしの護衛をして頂けませんか?」  その必死さは、ケインにも充分伝わった。  彼は、王女の髪と同じ、栗色の大きな瞳を見つめると、やさしく微笑んでみせた。 「では、この事件が片付きましたら、ありがたく、護衛の任務に就かせていただき たく思います。それでも、よろしいでしょうか?」  王女の顔が、みるみる明るくなっていった。 「……ええ! ええ! お願いいたします!」  その笑顔に安心したケインは、軽く会釈をして、その場を去ろうとしたが、ふと 思い直した。 「お部屋まで、お送りしましょう」  王女は、涙を拭うと、「はい」と、嬉しそうに、小さく答えた。濡れていた頬には、 赤みが差していた。  ケインは、ふと、自分に妹がいたら、こんな感じだろうかと考え、王女を可愛らし くも思えた。  それと、どうも王女は、なぜか、ケインが、彼女を嫌っているように思っている ようでならなかったので、そう思わせないためにも、出来るだけやさしく振る舞おう と心がけたのだった。  付き添って間もなく、王女を探していた女官たちが追いついたのだが、ケインは、 王女を、そのまま部屋の前まで送っていった。  にこやかにと心がけて、お休みの言葉をかけ、王女の部屋のドアが閉まると、彼は、 表情を変え、気を引き締める。  その足で向かったのは、女官の休憩室であった。 「ケイン」  彼に気付いた、女官の服装のクレアが、立ち上がる。 「クレア、一緒に来てくれないか」  クレアは、わかっているというように頷くと、二人は足早に、廊下を歩いて行った。  ケインのポケットには、国王からの委任状が入っている。  事件の捜査で、自由に城の中を出入り出来るよう、ケインが要望したのだ。  異例であったが、それには、ダルシウムの口添えもあり、王女誘拐を二度に渡って 防いだ彼の功績も大きかった。  ケインとクレアは、裏門から外に出て、暗く、細い道を通って行った。教わった その道は、参謀であるあの魔道士が、とらえられている牢屋の塔へとつながっている。  昨夜、クレアに会いに行ったのは、城の女官を頼むことと、もう一つ。  空間から、盗賊を引っ張っていたという手ーーこれを見たのは、彼女だけだった。  ケインは、昨夜、将軍が参謀の腕を捕えた時、彼の手が袖口から覗いたのを見て、 そのことを思い出したのだった。 『あの時の手は、ほとんど骨と皮だけのような、細くて、かなりお年の人のような 手だったわ。中指辺りに、大きな緑色の石のついた指輪をしていたの』  昨夜、彼女は、そう言った。  それは、ケインの見た、彼の手とは違っていたのだった。  参謀の手は、そこまで年寄り臭くはなく、両手とも、そのような指輪は、嵌(は)め てはいなかった。  牢の入り口に着き、牢番のいる管理室の窓口を覗くと、番人の男が、机に突っ伏し て、よだれを垂らし、眠りこけているのが見える。 「なんだ、不謹慎な人だなぁ。おい、牢番のおじさん、起きろよ」  ケインは、開いていたドアから部屋の中に入り、男の身体を揺すった。 「これは……、眠り薬を飲まされているわ!」  クレアが、別のテーブルの上にある、酒の入った器の匂いを嗅いで、指差した。  それを聞いたケインは、とっさに男のポケットや、机の周りに鍵がないか調べるが、 どこにもなかった。 「カギが盗られてる。誰か、忍び込んだヤツがいるんだ……!」 「急ぎましょう!」  二人は頷き合うと、管理室から廊下に出た。  暗い廊下を、まだいくらも行かないうちに、「ケイン、見て!」と、クレアが声を 上げる。  仮眠室の扉が開いていて、覗くと、ベッドから、人が落ちたまま眠っていた。 「さっきと同じ香り……、同じ睡眠薬を飲まされているわ……!」  クレアが、床に転がっている器を調べて、言った。  そのすぐ近くに監房の扉があるが、また人が倒れていた。そして、やはり、眠って いる。  扉には、鍵がかかっていなかった。  そこから先は、罪人を閉じ込めている牢が並んでいる。  ケインが扉を開け、見渡してから、クレアを手招きした。  間隔を空けてつり下げられたランプが並び、ぼうっとした光を灯している。  回廊には、同じように酔いつぶれた人の姿が、今にも消え入りそうなランプの灯り に、照らし出されていた。  死体ではないとわかってはいるものの、見ていて、あまり気持ちのいいものでは なかった。 「なんか、俺たちの行く先々に、ヒトが転がってないか? 鍵が開いててくれて 助かるけど」 「不気味ね……」  ケインとクレアは、ぐうぐうといびきをかいている『マグロ』をよけながら、 注意深く、監房の中を覗いていった。  檻(おり)の中では、髪の毛や髭がぼうぼうに伸びた罪人たちが、横になって、 じっと動かない。  時折、その死んだような目が、ギロッとこちらを向くが、何も言わない。  ケインのすぐ後ろを歩いていたクレアが、悲鳴を上げた。檻の中から手を伸ばし、 彼女の長いスカートの裾を掴んでいる者がいた。  ケインが剣の柄で振り払い、クレアが檻から離れると、罪人の手は、何かを掴もう と伸ばし、探っている。  二人は、先を急いだ。 「あそこに、人がいるわ!」  クレアが、前方を指さす。  ケインは頷くと、いつでも抜けるように、剣の柄に、手をかける。 「誰だ、そこにいるのは」  前方の闇に向かって、ケインが言い放った。  この牢の鍵を盗み、先に来ていた訪問者であり、おそらく、事件の首謀者の……!  そう予想したケインは、鋭く目を光らせ、クレアを庇うように、自分より後ろに 下がらせた。  闇の中から、何者かが向かってくる気配がしていた。  だんだんと露(あらわ)になってくる人の輪郭がはっきりしてくると、二人は 「あれ?」と、思った。  白っぽい姿が浮かび上がる。  それは、女だった。 「やっだー、久しぶり! ケインにクレアじゃないのー! こんなところで会う なんて、奇遇ね!」  二人のカンは、見事に外れた。  暗がりの中から現れたのは、意外にも、行方不明中のマリスだった。


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