Book1看板 Dragon Sword Saga1 〜4〜

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~ 第1巻『旅の仲間:前編』 ~

剣月緑ライン Ⅳ.『誘拐事件』 妖精ライトグリーン3 ~ 誘拐事件 ~  剣月緑ライン

バルコニーパーティー  アストーレ城ーー。  ケインとカイルは、警備兵の身なりをして、サロンの外の庭に並んで立っていた。  バルコニーから会場の様子がのぞけるような位置である。  国の警備隊の制服は、ヴァルドリューズが用意し、隊長には、彼が催眠術のような 魔法をかけたので、最も好都合な場所につけたのであった。  クレアも、女官として、大広間に潜り込んでいる。 「ごちそうもおいしかったよー」  ミュミュが、ケインたちの目の前を、ちらちら飛んでいる。さっそく、つまみ食い をしてきたようだ。  バルコニーからのぞく会場では、各国の王子や特使が紹介され、次々と室内に入場 している。  王女が十六歳ということで、王子たちは、花婿候補であった。 「あのヒトは、カオはいいけど、痩せ過ぎで頼りなさそう。あらあら、あのヒトは、 がっしりしてカッコいいけど、ちょっとヒゲが濃いよ。それにしても、あんなに たくさんのヒトたちの中から、お婿さん選べるなんて、ヨリドリミドリでいいね~!」  ミュミュが、きゃっきゃ言いながら、ずけずけと、王子たちの品定めをしていた。  ケインは、ちらっと、自分があそこにいなくて良かったと思った。  大広間は、大勢の参列者たちで賑わい、楽団の優雅な演奏も流れていた。  貴婦人たちは、髪や耳に、ごてごてとした飾りを身に着け、お椀をひっくり返した ようなドレスを着ていて、男たちは、長髪を後ろでリボンで結び、びらびらした 前かけをしている。  そのようにしか、ケインには思えず、いずれも奇妙でならなかった。 「いや~ね~、ケインたら。あれは、この地域(エリア)での最新ファッションじゃ ないの。『びらびらしてる』のは、『前かけ』じゃなくて、『ネクタイ』っていう んだよ」  ケインの心を読んだミュミュが、修正した。 「アストーレ王国アトレキア陛下、並びに、第三王女アイリス殿下、おなーりー」  宮廷音楽家たちの演奏が、がらっと雰囲気を変え、国王と王女の入場を告げる声が 響く。  来賓たちは、静まり返り、一斉に入り口を向いた。 「おい、ケイン、見てみろよ。いよいよ、お姫様の登場だぜ」  カイルが、わくわくしながら、肘でケインをつついた。  厳粛なムードの中、穏やかな笑みを浮かべて歩く、豪華なマントに実を包んだ 中肉中背の男と、ひらひらと軽そうな素材で出来たドレスを着た、小柄な少女が 続いて入場する。 「……なんだよ、まだコドモじゃないか。まあ、十六ってったら、こんなもんか。 マリスは、もうちょっと大人っぽいけどな」  カイルが、がっかりしたように呟いている。  ケインの位置からは、王女の顔まではよく見えなかったが、それよりも、彼は、 特使たちの方が気になっていた。  近隣諸国数カ国を始めとして、遥か南方の貿易国の代表までが参列している。  近年、勢力を増してきたというだけあって、是非、アストーレとお近づきになり たいという国は、多いようだ。 「しかし、お姫さんてのも可哀相なもんだよなあ。あの中に、好みの男がいたとして も、自分じゃ選べないんだもんな。国の都合で決められちゃうんだろ?」 「そうだよね、ミュミュ、お姫様じゃなくて良かったー」 「その点、町娘の方が自由だよな。カッコいい傭兵と想い出も作れるし」 「きゃはは! 何それ、自分のこと?」  カイルとミュミュの会話を背に、ケインは、広間を慎重に覗いていた。  魔道士らしき黒いフード付きマントの者も数人いたが、今のところ、特に怪しい 動きはなさそうだ。  噂の参謀らしき姿は、なかった。  特使の魔道士も、真っ赤なカシスルビーを付けていたが、アストーレ国王の近くに、 それらしきルビーを額につけた者は、見当たらない。  広間では、優雅にダンスが行われた。  外国の王子の一人が、アストーレ王女にダンスを申し込んでいる。  王女の隣では、国王が微笑み、王子と王女が広間の中央に進み出て、踊り始めた ところである。  カイルが大きな欠伸(あくび)をした。 「いいねえ、貴族は。こんな風に、ちんたら過ごしてても、カネはあるんだからな。 俺も、どっかの王女に一目惚れでもされて、逆玉の輿にでも乗っかりてぇや」  カイルが冷やかすように、または、どうでもいいように言った。  突然、広間の明かりが、ふっと消えた。  貴婦人たちの悲鳴や、動揺の声が次々と上がる。 「な、何だ!? どうしたんだ!?」  カイルまで、動揺していた。 「バカ。最初から、何かあると踏んで、ここにいるんじゃないか」  強盗か人さらいか、はたまた暗殺か。  いずれにしても、逃走するための手段が、この近くにあるはず、と踏んだケインは、 庭を駆け抜けていった。  案の定、裏の細い道に通じている門の近くに、ウマが二頭つないであった。そこに は、警備の格好をした者が二人いたが、明らかに偽物(にせもの)であった。  彼らは、同じ制服のケインを見るなり、剣を抜き、襲ってきたのだった。    ケインは、マスターソードを抜き、応戦した。  昼間の時と同じように、剣で攻撃を受け止め、拳でやりかえす。 「ケイン! 賊がそっちに行ったぞ!」  カイルの声がした方を見ると、人影がやってきたその後を、カイルが追って来ていた。 「待て!」  ケインが向かうと、賊は、何かを抱えたままウマに跨(またが)って逃走した。 「カイル、ここは任せた!」  ケインは、まとわりつく二人の男を蹴り飛ばし、もう一頭のウマに飛び乗った。  賊を乗せたウマに、すぐに追いつく。  道が狭いため、なかなか横に並ぶことは出来ない。  漸(ようや)く、視界が開けたと思うと、広い野原となり、その先は森であった。  そこへ逃げ込まれると、視界が悪い上に、モンスターもいるので厄介だ。  ケインは、ウマのスピードを上げ、野原では、なんとか横に並ぶことが出来た。 「止まれ!」  言ってみたところで、相手は止まるわけはなかった。  よく見ると、賊の前に乗せている黒い布の中から、女のドレスの裾のようなものが、 ひらひらと、はためいている。 「さては、こいつ、人さらいだな!」  ケインは、ウマを近付けていき、無理矢理、賊のウマに飛び移った。  ウマは、人間三人分の重さに耐えられず、バランスを崩し、嘶(いなな)いて、 横向きに倒れた。  彼は、咄嗟(とっさ)に、布を被せられた女を庇って、地面に落ちた。  どんな体勢でも受け身を取る訓練をしていたおかげで、彼自身は怪我はしなかった。  一緒に倒れた男の被っていたフードがめくれていた。  知らない顔である。  だが、やはり、昼間の連中のように、盗賊という感じはしなかった。  彼は、誘拐した女を諦めたのか、一人で森へ逃げ込もうとする。 「そっちはモンスターがいるぞ!」  ケインの警告も、彼には届かなかった。  追いつめられた犯人というものは、ますます人気のない方へ逃げていくものなのか、 賊は、一人で森に向かって走る。  ケインも、急いで後を追ったが、男の叫び声と森のざわめく音で、彼の最期を 悟った。  下等のモンスターと言えども、訓練もしていない者が魔除(まよ)けなしで済むもの ではない。  ケインは、ウマが、倒れているところまで歩いて戻った。  黒い布に包まれた女は、まだ倒れている。  ウマから落ちた時、どこも打っていないはずである。 「おい、大丈夫か?」  ケインが抱え起こすと、微かに薬の匂いがした。騒がれないために、薬を嗅がされた のだとわかる。  被せられた黒い布をどけると、そこに、青白い顔が現れた。  長い睫毛(まつげ)、うっすらと開かれたピンク色の小さな唇に、小さい顎、まだ 幼そうな娘であった。 「大丈夫か?」  ケインが、声をかけながら、揺すった。  娘の瞼(まぶた)が、ゆっくり開いていく。 「……あ、あなたは……?」  小さな唇が、か細い声を発した。  栗色の、縦に巻かれた髪、丸みを帯びた顔に、少し目尻の下がった茶色の大きな瞳、 美しく弧を描いた整えられた眉、つんと尖った小さな鼻、チェリーを思わせるピンク 色の小さな唇、か細く弱々しい肩、軽い身体。  彼女は、全体的に、色素が薄い感じであった。  美しいというには、少し違ったかも知れなかったが、すべてが、か弱く、はかな気 で、頼りなかった。  彼の保護本能が、くすぐられた気がし、しばらくの間、彼女から視線を反らせない でいた。  娘も、ぱっちりと見開かれた瞳(め)で、ただただケインを見つめていた。 「へー、さっきの『お椀をひっくり返したような』とか『びらびらした前かけ』 なんかよりも、随分詩的な感じ方だね!」  ケインが、はっと見上げると、ミュミュがぱたぱた飛んでいた。 「ケインー! 大丈夫かー!」  カイルが走って来る。  その後方では、警備隊がウマに乗ってやって来ていた。結構な人数がいた。  カイルが、ケインの手元をのぞきこんだ。 「あれー、お姫さんじゃん」 「なにっ、姫っ!? じゃあ、誘拐されたのって……!」  ケインは、もう一度、娘の顔に目をやる。  視線の合った娘の頬が、ほんのりと赤く染まった。 「アイリスー! 無事か!?」  国王がウマから降りて、転げそうになりながら、走り寄った。 「お父様……!」  ケインは、ゆっくり彼女を抱え起こした。  王は膝を付いて、王女を心配そうに抱え込む。 「薬を嗅がされて、まだ身体が動けないようですが、じきに回復するでしょう」  そう言い終えると、ケインは頭を低くした。 「そなたは、どの隊の者だ?」  国王の質問に、彼は焦るが、どこからともなくヴァルドリューズの声が聞こえる。  だが、周りは誰も反応していない。おそらく、彼にだけしか聞こえないのだろう。 「ダルシウム将軍の隊の、ケイン・ランドールです」 「おお、余の親衛隊のか! それで、犯人はどうしたのだ?」  ケインは、王女を気遣うように見てから、すぐに王に視線を戻し、低い声で答えた。 「あの森に逃げ込み、……モンスターにやられたものと思います」 「……そうか。サロンの庭に残った、そやつの仲間を調べれば、はっきりするで あろう。それにしても、手柄だったぞ、ランドールとやら。今夜はもう遅い。 とりあえずの礼として、我が城で、ゆっくり休むが良い。明日改めて、城で、 そなたの栄誉を称えよう!」  ケインとカイルは、ウマを並べて、警備隊とともに、城へ向かった。  城に泊まれることになり、カイルは有頂天で喜んだ。 「お前が賊を追っかけていった後、残った二人は、俺がやっつけて、縛り上げたんだぜ。 だから、俺のことも表彰してくれるんだとさ。なにしろ、一国の王女の誘拐を防ぐこと が出来たんだからな。賞金とかも、がっぽりもらえそうだな、おい」  ケインは、それには、愛想笑いで返した。 「だけど、俺たちが城にいるってこと、マリスに連絡しなくて大丈夫かな」  カイルは、呆れた。 「お前なぁ、マリスは、勝手にしてていいって言ってんだぜ? じゃあ、どこに 寝泊まりしようが、構わねぇじゃねーか」 「お前こそ、お気楽に喜んでるけどな、まだ事件は解決してないし、賊が簡単に入り 込めたくらいだぜ? どうも、俺は、あの城では、何か、ややこしいことが起きてる んじゃないかって、気がするんだ」  ミュミュが、周りに見付からないようカイルの肩に止まり、髪の毛に隠れていた らしく、彼の髪をかき分けて顔を覗かせて、真面目な表情のケインを見ている。 「ああ、そうかも知れねぇな。ま、それは、お前が解決してくれよ」  カイルは、ヘラヘラと、ケインに笑ってみせた。  ケインは、肩をすくめた。これじゃあ、今夜は、北の森に行くのは無理そうだな、 と思った。  この事件がもとで、ケインたちは、思いのほか、ここアストーレに長く滞在する ことになろうとは、思いもよらなかった。


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