Book1看板 Dragon Sword Saga1 〜4〜

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~ 第1巻『旅の仲間:前編』 ~

剣月緑ライン Ⅳ.『誘拐事件』 妖精ライトグリーン2 ~ 奪われた魔法剣 ~  剣月緑ライン

 空は、晴れ渡っていて、清々しい。  ミュミュの言った通り、大通りの両側には露店がずらっと並んでいる。  図書館に行く前に、ちょっとだけ見物しようと、ケインがクレアを誘ったのだった。 そうでもしなければ、真面目なクレアは、気を抜けないと思ったからだ。  おもちゃの短剣や、防具、マント、国旗、冠などを売っている子供向けの店や、 動物を形どった置き物、いろいろな色や形をした石やアクセサリー、宝石などの店も ある。  クレアが、アクセサリーのひとつを手に取って、眺めていた。 「それ、気に入ったの?」 「ええ。でも、巫女は、お守りやまじないのアクセサリーしか、身に着けられないから」 「魔道士になるんだったら、多少は、おしゃれしても構わないんじゃないの?」 「そうだけど……」  クレアは、どうしたものかと、迷っていた。 「おじさん、これ、ひとつくれる?」  ケインの声に、クレアが慌てた。 「いいわよ、ケイン、わざわざ買ってくれなくても」 「いいじゃないか。こんな時くらいしか、プレゼントなんて出来ないんだから」  何の気なしに購入すると、ケインは、シルバーのシンプルなデザインのネックレス を、クレアの首につけた。 「ほら、似合うよ」  クレアは、頬を赤らめた。 「ありがとう。プレゼントなんて、もらったの初めてだわ。……嬉しい」 「そうなの? 巫女って、随分慎ましやかにしてなきゃいけないんだな」  ケインは、カイルがもったいながるのが、わかる気がした。  クレアは目鼻立ちも整っていて、控えめな美しさがあった。着飾れば、一国の王女 に、見られないこともないだろう。質素な装いしか許されなかったとは気の毒に、 ケインは思った。 「ミュミュにも、何か買ってーっ!!」  いきなり、ミュミュがケインの耳元に現れた。 「うわっ、びっくりしたー! ミュミュ、どこから……? それよりも、カイル 見なかったか?」 「知らない。さっきまで一緒だったけど、街娘たちに囲まれて、どっか行っちゃった よー。ミュミュ、ひとりでつまんないから、こっちに来たの」  ケインは、またしても、彼に呆れた。 「まったく、あいつは! クレアに、『俺たちの側を離れるな』とか言っといて、 いい加減な!」  クレアも、彼の隣で、呆れた顔をしていた。 「それよりも、クレアに買ってあげたんなら、ミュミュにもアクセサリー買って!!」 「ええっ? だって、ここには、ミュミュに合うような小さいものは……」  ふと、小指用の指輪を見付けた。 「これなら、足にはめられるかな?」  ケインは、銀色のリングを、つまみ上げ、ミュミュがそこへ足を通す。 「わーい、わーい! はけた、はけたー!」  その後、三人は、他の露店を見たり、ミュミュの希望で芝居を見たりした。  見物客でいっぱいだったので、大通りには向かわず、少し離れた道を行くことに したのだが、そこで、ミュミュは、どうしてもパレードが見たいと言って、消えて しまった。 「私、今まで、こんなに規模の大きいお祭りなんて、見たことなかったわ。もちろん、 街の大きさ自体が違うんだけど、モルデラでは、収穫祭くらいしかやらなかったの。 それも、毎回準備に追われているばかりで、全然見れなかったし……。今日が初めて よ、見る側に回れたのは」  クレアが、晴れ晴れとした笑顔で語っている。  苦労が多かっただろうと、彼女の今までを想像していたケインは、良かったなぁと、 微笑ましく、彼女の笑顔を見ていた。  その時、近くで悲鳴が聞こえた! 「助けてくれー! マリスー!!」  聞き覚えのある声に、ケインとクレアは顔を見合わせ、声のした方に向かって、 走り出した。  狭い道を抜けると、空き家のような古い家が見え、裏は原っぱになっていた。  そこで、カイルが数人の柄の悪い男たちに追いつめられ、殴られて吹っ飛んだのか、 壁を背に、寄りかかっていたのだった。  彼の魔法剣は、そのうちの一番大柄な男が持っていた。 (それにしても、こいつ、女に助けを求めるとは……)  駆けつけて、呆れた顔をしているケインを見付けると、尻餅をついているカイルが、 情けない声を出した。 「ああ、ケイン! ちょうどよかった! 助けてくれ!」  ケインは、カイルと男達の間に入った。その後ろで、クレアがカイルを抱え起こす。 「ほう、知り合いがいたとはな」  男たちは、町人のなりをしているが、この街の、出会って来た人々とは雰囲気が 違っているように思えた。  といって、山賊や盗賊とも違うようだ。 「五人がかりで一人を襲うとは、賊まがいのことをして、何のつもりだ」  ケインが男達を見据えるが、彼らは答える気はないようだ。にやにやして、ケイン を見回しているだけである。 「ケイン、こいつら、やっちゃってくれよ! ちくしょー、俺の剣を返せ!」  カイルは、そう喚(わめ)いているが、ケインは、やたらに戦うことはない、話し 合いで解決するならば、と思っていた。  もっとも、このパターンで、今まで、話し合いが通用してきたことなどなかったが。 「この剣は頂いていく。ついでに、貴様の剣も、置いていってもらおうか」  魔法剣を持っている男を除いた四人が、それぞれ剣を構え、じりじりと間合いを 詰めてきた。 「取れるもんなら、取ってみな!」  言うと同時に、ケインはマスターソードを抜いて、手前の者に向かっていった。  ただし、剣は、あくまでも防御のためだけである。  相手の剣の攻撃をマスターソードで躱(かわ)しながら、右手で続けざまに二人、 腹と鳩尾(みぞおち)に重い一撃を喰らわす。  下手に、顔などを殴るよりも、この方が、しばらくは苦しくて身動きが取れないか らであった。  彼らは、ケインが剣を使うものとばかり思っていたのか、少々面食らっている。  すかさず、ケインは、ひらりと飛び上がると、『頭(かしら)』と思われる、魔法剣 を手にした男の前に降り立ち、男の喉笛に、ピタリと剣を当てた。  飛び越された男たちは、追いかけようと体の向きを変えたところで、足を止めた。 「さあ、その剣を、こっちに返してもらおうか」  静かなケインの声に、頭目の額から、一筋の汗が、つつーと流れた。  と、その時ーー  何もない空間に、割れ目が出来た!  垣間(かいま)見える空間の割れ目の中は、空とは全然違っていて、いろいろな色が 混ざり合ったような、見たことのない景色であった。  賊の頭目が悲鳴を上げ、暴れながら空中に浮かぶと、その中に吸い込まれていく。  残りの賊たちもわめきながら、それぞれ宙に浮かび上がり、困惑しているうちに、 空中にあちこち出来た、同じような他の割れ目へと、それぞれ消えていってしまった。  恐ろしい恐怖の叫び声は、割れ目が消えるとともに、シャットアウトされた。 「……そ、そんな……! 何だったんだ、今のは……!?」  ケインは、目の前で起きた光景に、驚きを隠せなかった。  クレアも、声も上げられないほどであった。 「俺の剣ーっ!!」  後ろから、カイルの叫ぶ声がした。 「ごめん、カイル。魔法剣、持って行かれちゃった」  ケインは、振り向いて、「てへっ」と、笑ってみせた。 「笑ってごまかすなーっ! そんなこと、男がやってもかわいくないぞーっ!」 「やっぱり?」  ガミガミとケインを罵(ののし)っているカイルには構わず、背を向け、ケインは 腕を組んで、考えた。 「それにしても、空間に消えるなんて、あんなこと、奴らに出来るはずがない。 あれは、魔法なのか?」 「私、さっき見たの。最初に、魔法剣を持った人が、割れ目の中に吸い込まれた時、 中から引っ張っている手が見えたの」  ケインもカイルも、クレアに注目する。 「あんなことが出来るのは、人間では、魔道士しか考えられないわ」  がくっと、カイルが跪(ひざまず)いて、頭を抱える。 「ああ、なんてこったぁ! 俺の剣が、よりによって魔道士の手に渡ってしまうとは ……!」 「でも、カイルの魔法剣の魔法は『浄化』で、ミュミュによると、精霊の意志が関係 してるんだろ? だったら、たとえ魔道士が持っていたとしても、悪いことには使え ないんじゃないか? ましてや、それを使って俺たちがやられることもないし」  カイルが、がっくり肩を落として溜め息をつく。 「ケイン、お前って、つくづくおめでたいヤツだな。あんな、空間を行き来する なんて、相手は上級の魔道士だぞ? そんなヤツなら、他の魔法攻撃も出来るように、 剣をちょっと改造しちゃうかも知れないし、だいたい、今、俺の身を守るものがない じゃないか! 普通の剣じゃ、中級モンスターを倒すことすらできないんだし、お前 のバスター・ブレードみたいに、対魔物用に出来てる剣なんて、そこら辺には……」  カイルは、はっとなって、ケインの手にしている剣を見た。 「ケイン、その、そのマスターソードってヤツを、俺に貸してくれ!」  カイルは、すばらしい思いつきに、瞳を輝かせていたのだが……。 「………………………………………………………………………………………………………………………………………………」 「そんな、不審な者でもみるような目つきで、俺を見るなよ。なっ? なくさない ようにするからさ、貸してくれよー」  無言で疑いの目を向けているケインに対して、カイルはヘラヘラと愛想笑いを 浮かべた。 「カイル、ひとつ聞いていいか? お前ほどの腕なら、さっきの奴等なんか、簡単に 追っ払えたんじゃないのか? それが、どうして?」  カイルは、クレアの方をちらっと見たが、すぐに目を反らした。 「一緒にいた女を助けたかったら、武器を捨てろって言われたんだ。彼女が逃げて から殴られた。幸い、顔じゃなかったから、良かったけどな」  クレアもケインも、呆れた視線をカイルに送った。  二人と別れてから、それほど時間も経っていないというのに、もう女と知り合った というのか。 (女の子を守ろうという心がけは立派だが、ことの始まりが始まりだから、同情出来 ない。こんなヤツにマスターソードを貸したりしたら、女の身の保証と引き換えに、 悪党どもに、簡単に売り渡さないとも限らない……)  しばらく考えてから、ケインは、にこっと笑いかけた。 「カイル、武器屋に行って、お前の剣を見てみよう」 「わーっ! やっぱり、お前、俺を信用してないな!?」 「当たり前だ」  二人のやり取りを、クレアは、しょうもなさそうに見ていた。  クレアが、このことをヴァルドリューズに報告するついでに、勉強もするという ので、二人は、図書館まで送っていった。  クレアの初めての祭り見物は、呆気なく終了してしまったのが、ケインには可哀相 に思えてならなかったのだが。  それから、ケイン、カイルの二人は、武器屋に向かった。  すれ違う町娘たちが、振り返る。 「傭兵の人たちだわ。外国人みたいね」 「格好良いわね」  などという声がちらほらする。 (ふ~ん、カイルって、女から見ると、そんなにカッコいいのか。まあ、イケメン ではあるけどな)  と思いながら、ケインが隣を見ると、カイルは、すれ違い様、女たちに、ふっと 微笑み、流し目を送っていたのだった。 「お前ー、そーゆーことして、女を誘(おび)き寄せてたのか!?」  そこへ、二、三人の町娘たちが集まってきた。 「ねえねえ、傭兵さんたち、どこからいらしたの?」 「あそこの焼き菓子、とっても美味しいのよ」 「一緒に食べない?」 「じゃあ、お言葉に甘えて、お茶にでもしようかなー」  はしゃいでいる娘たちに、カイルも、にっこりと、さわやかな笑みを送る。 (ホント、懲(こ)りないヤツ)  呆れているケインに、町娘の一人が話しかけてきた。 「そっちの傭兵さんも、いかが?」  気が付くと、娘はケインに、誘うような、媚(こ)びた目を向けていた。 「いらない。食べたくない」  ケインは、無愛想に、つっぱねた。  その反応にしらけたように、町娘たちは去っていった。 「お前さあ、彼女たちに失礼だろ? せっかくの好意をそんな簡単に無にするもん じゃないぞ」 「武器屋に急ぐぞ」  ケインは、ぶーぶー言うカイルには取り合わずに、進んだ。  祭りのせいで、町全体が開放的になっているようだった。  先ほどとは違う娘たちが、こちらを見て、黄色い声を上げていたかと思うと、 またしても彼らは囲まれていた。 「あのう、どちらから、いらしたんですか?」 「話すほどのところでもない」  やはり、無愛想に振る舞うケインだった。 「旅の傭兵さんなんでしょう? いろいろお話聞きたいわ」  カイルが何か答えかけていたが、ケインは、彼の首根っこを抱え込んだ。 「俺たちは、恋人同士だから、放っておいてくれ」  町娘たちは、さーっと、いなくなってしまった。 「あーっ! お前、何てこと言うんだよー! 皆いなくなっちゃったじゃないか!」  カイルが、ギャーギャー言っても、ケインは無視した。 「あのなあ、町娘の中には、同じ町の男なんかよりも、外の国で戦ってきた強い男 との恋を、夢見てる娘だっているんだぞ。平凡な生活の中にいるからこそ、よその国 から来た、旅のたくましい男と、燃えるようなひとときを過ごしたい。  そういう女心が、お前には、わからないのか!? それを、お前は、むざむざと、 よりによって、俺たちが恋人同士だなんて、ふざけた言い訳しやがって、あの娘たち の純粋な気持ちを踏みにじったんだぞ!」 (よくもまあ、そこまで自分に都合よく考えられるもんだ。早い話が、それに あやかって、自分がオイシイ思いをしたいだけだろ?)  ケインが取り合うのもバカバカしく、黙っているのをいいことに、彼は喋り続けた。 「お前さあ、女嫌いなの? それとも、女が怖いとか? もしかして、ホントに男が 好きとか?」  ケインは無視して、勝手に言わせていた。 「あ、わかった! 実は、好きなヤツがいるんだろー? 誰だよ、白状しちゃえよ、 黙っててやるからさ。郷里(くに)に置いてきてるとか? 仲間内か? クレアか?  マリスか? それとも……ヴァルドリューズか!?」  ばたっ!  転んだケインは、ゆっくりと立ち上がった。 「俺は、進んで恋人作るようなマネはしない。旅は続けるし、戦いの中でいつ命を 落とすかわからない身だろ? 残された女の方はどうなる? ずっと俺を引きずって 生きていけってのか? そういう思いはさせたくないし、別れが辛くなるようなこと は、わざわざしたくないんだよ」  言っていて、彼の中のどこかが疼(うず)いたような気がした。だが、それは、以前 ほどではないと思った。 「俺だって、そんな殺生なことはしたくねーよ。だからさあ、その時だけでいいって いう娘を見付けるんだよ。お互いがそういう気持ちなら、後腐れだってないんだから さあ」  キッと、ケインがカイルをにらむ。 「俺は、そういう考えは持ち合わせてない」 「ふ~ん、あっそ」  カイルは、面白くなさそうな声を出した。 武器屋 「生憎(あいにく)、さっきちょっとパレードを見に行ってる間に、いい武器は盗まれ ちまったみたいでね。今は、これくらいしか残ってないんだよ」  武器屋の主人の話に、二人は唖然となった。 「おい、頼むよ、おじさん。パレードが見たかったら、ちゃんと店番置いとけよ」  カイルが文句を言った。 「いやあ、町の警備隊も、パレードの護衛で手一杯でさ、頼めるのがカミさんくらい しかいなくてさ。そしたら、いきなり五人くらいの男が押し入っていて、いい剣を みんな持っていっちまったんだそうなんだよ」  ケインとカイルは、顔を見合わせた。さっきの五人組だろうか? 「その五人て、賊か?」 「いいや、盗賊とは違うらしい。ちゃんとした、そこら辺の町人の服を着ていたよう だし、カミさんのことを脅して、武器を盗っていっただけだったしなあ」 「パレードの時間ていったら、お前が襲われてた頃だぞ」 「奴等の一味かな」  ケインとカイルは、ひそひそ話し合った。 「おじさん、宿屋の近くに鍛冶屋があるだろ? あそこで剣を作ってもらったら、 どのくらいで出来上がるかな?」  ケインが尋ねる。 「そうだねえ、今日は祝日で、皆浮かれてるからねえ、まあ、明日中には、作り始め てくれたにしても、二、三日はかかるだろうなぁ」 「冗談じゃねーや。剣が出来上がるまで、ケインかヴァルが護衛でずっと一緒か。 それじゃあ、女の子たちと、茶も飲めやしねぇ」  カイルの呟(つぶや)きが、ケインにも聞こえる。 「しょうがないなー。じゃあ、ここにある剣の中から、カイル、好きなの選べよ」  剣が出来るまで、彼のお喋りに付き合える自信は、ケインにはなかった。  今思うと、湖の鍛冶屋は、甲冑と剣を半日で作れたというのは、腕が良かった、 または、不思議な力でも使えたのかも知れないな、などと、ケインはうっすら思った。  その間に、カイルは、柄のところに、ちょっとした細工のある普通のロング・ ソードを選んだ。 「ありがとさん。じゃあ、ちょっとおまけして、二〇リブルでいいよ」  店の主人が、愛想笑いで言った。 「ーーだってさ、ケイン」  と、カイルは、ケインの肩に、ぽんと手を乗せる。 「は? カイル、お前、マリスからもらった金は?」 「どっかで落としてきたらしい。てへっ♥」  彼は、頭を掻きながら、笑っている。 「ホントだ。男がやっても、かわいくないっ!」  恨めし気に見るケインに、カイルは、一層ヘラヘラしてみせた。 「『色男、金も力もなかりけり』って、言うじゃないか。はははは」 「そんなこと、言わないぞー」  ケインは、仕方なく、カイルにまでプレゼントをあげる羽目になってしまった。 「さんきゅー、ケイン! だか、これは、これとしてだな、俺の魔法剣は、お前が ちゃんと取り戻すんだぞ。お前は、俺の剣を目の前にしていながら、みすみす奴等に 引き渡してしまったんだからな。その責任は大きいぞ!」  仁王立ちになっているカイルに、ケインは絶句していた。  武器屋では、ついでに、警備の仕事のことも聞いてみるが、もう募集は終わったと いうことであった。  今日のところは、よろず屋としての仕事も見付かりそうもない。  武器屋を出ると、もうパレードは終わっていて、大通りは閑散としていた。 「何してたのー? パレード終わっちゃったよー」  ミュミュが、二人の目の前に現れた。 「面白かったか?」 「うん!」  ふと、カイルが、ミュミュの足元に目をやる。 「あれ? ミュミュ、どうしたんだ? 足枷(あしかせ)なんかはめて」  ミュミュが、みるみる膨れっ面になる。 「違うもん! あしかせなんかじゃないもん! これは、アンクレットだよー!  オトナの女の必需品だよー! ケインがミュミュにプレゼントしてくれたんだ~」 「ほー、ケインがねぇ……」  カイルが、ケインを横目で見る。 「……お前、不毛だなー」 「なっ、何を言い出すんだ、何を……!」 「どうりで、普通の女に興味が持てないわけだ」  カイルは、うんうん頷いて、一人で納得していた。  それには構わず、ミュミュが切り出す。 「今晩、アストーレ城では、姫様の誕生パーティーが開かれるんだって。各国の特使 やら、王子様やらが来て、一緒にお祝いするんだよ~。ステキだね~!」  ミュミュは、浮かれまくっていた。 「ねーねー、ちょっとだけ、見てみようよ~!」 「無理だよ。お城じゃあ、警備も充実してるし、ミュミュだけで見に行ってきなよ」 と、ケイン。 「ふ~ん、わかった」  ミュミュは、つまらなそうに、ぱたぱた飛んでいった。 「腹減ったなー」  カイルが腹をおさえた。 「何か食うか?」 「そうだな」  カイルとケインは、早めの夕飯を食べに、酒場へ行くことにした。  一行は、いつも酒場で落ち合っていた。行けば、もしかしたら、マリスに会える かも知れないと、ケインは思った。 「カーッ! うめえ! 一汗かいた後は、やっぱり木の実酒に限るぜー!」  カイルが、酒の入ったツボを、どんとテーブルに置いた。 (こ、こいつ……何もしてないくせに)  ケインは、トリの竃(かまど)焼きに手を伸ばしながら、カイルをたしなめる。 「おい、あんまり飲むなよ。カネがないんだから。まったく、どっちが年上なんだか ……。だいたい、お前の長剣が、無駄な上に一番高かったんだぞ」 「わかった、わかったっつーの」  そのうち、クレアとヴァルドリューズも現れ、同じテーブルを囲んだ。  ケインは、クレアからヴァルドリューズも聞いているであろう、北の森の話をし、 後で見に行こうと持ちかけた。 「で、そっちは何か収穫はあったか?」  カイルが、むしゃむしゃミシアの実をかじりながら、ヴァルドリューズを見る。 「先ほどから、たまにだが、魔力の波動を感じる」  ヴァルドリューズが、無表情に語る。 「それは、やっぱり、アストーレ城の宮廷魔道士のものなんだろうか?」  ケインの質問に、彼は首を横に振った。 「ひとつだけではない。違う波動がいくつかあるのだ」 「いくつか……?」  皆、顔を見合わせた。 「もしかして、ミュミュの言う、王女の誕生パーティーに出席するために来た、 外国特使たちの中に、魔道士がいるんじゃ?」  ケインに向かって、ヴァルドリューズは、ゆっくりと頷いた。 「この国には、あまり魔道が伝わってきたという記録はなかった。だからこそ、 参謀になったという宮廷魔道士が現れた時は、相当珍しかったに違いない」 「今のところ、この国の魔道士は、彼だけみたいよ」  ヴァルドリューズに次いで、クレアが静かに言った。 「てことは、俺の魔法剣を持ってった奴らは、外国の奴かもしれないのか」  カイルが、面白くもなさそうに、木の実酒をがぶっと飲んだ。 「武器屋から、良い剣だけを盗っていったのも、その仲間だとすると、奴ら、武器 ばかり集めて、何を始める気なんだろう?」  ケインが、皆の顔を見回し、問いかける。 「ま、外国の奴等の仕業(しわざ)だとすると、王女のパーティーとやらで、しばらく はこの国に滞在するんだろうな。その間に、俺の剣を取り返せばいいってことか。 けっ、長期のご滞在を祈るぜ」  カイルが投げやりに、酒のツボを置いた。 「だから、パーティー見に行こうってばーっ!」  またしても、突然ミュミュが出現した。 「カイルの剣も、きっとあるよ」ミュミュは、にっこり笑った。 「適当言うなー!」カイルが泣き叫んだ。 「何にしろ、一見の価値はあるかも知れんな」  ヴァルドリューズが、静かに言った。 「北の森を調べるのは、魔法剣を取り戻してからでも、遅くはないだろう」


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