Book1看板 Dragon Sword Saga1 〜3〜

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~ 第1巻『旅の仲間:前編』 ~

剣月緑ライン Ⅲ.『黒い龍――ダーク・ドラゴンの力』 妖精ライトグリーン3 ~ 妖精 ~  剣月緑ライン
キラキラ湖

「どう?」  湖の底を静かに見据えていたヴァルドリューズに、隣に立つマリスは、慎重な様子 で尋ねた。 「これまでのいきさつから、この湖の底に異次元への出入り口が出来ていたようだが、 今は何も感じない。おそらく、マスター・ソードの力で、消し去られたのだろう」 「それなら、良かったわ。さっきの怪物は、ミドル・モンスターだったわ。魔界の 入り口まで開いていたなんて……何者かが呼び出し……!?」  突然、マリスの言葉が途切れた。 「……ヴァル、……それ、なに?」 キラキラ100pink妖精100キラキラ100  かなり間の抜けたマリスの声で、ケインたち三人がヴァルドリューズを振り返ると、 彼の周りを、何かが、ちらちらと飛び回っていた。  ちょこんとヴァルドリューズの肩に腰かけ、三人を、じっと見る。  ピンク色の肩につかないくらいの巻き毛に、薄いピンク色の衣をまとい、ムシや、 蝶に近い形の、透けた羽を生やした、妖精の女の子であった。 「ミュミュ!」  ケインが、大きく目を見開いた。  妖精は、みるみるふくれっ面になって、ケインをにらんだ。 「ひどいよー、ケイン! ミュミュのこと、完っっっ全に、忘れてたでしょー!!」  一同は、驚いて、ケインと、てのひらほどの大きさであるミュミュとを見比べた。 「ごっ、ごめん! だけど、今までだって、急にいなくなったり、しばらく出て こなかったこともあったじゃないか。こっちも、いろいろあったからさ、それどころ じゃなくて……」 「それどころじゃないって、どーゆー意味さ!? ひどいよ! ミュミュはねっ、 知らない時空で迷っちゃって、一人ぼっちで、とっても淋しくて、泣いてたんだよ!  そしたら、ヴァルのおにいちゃんが助けてくれたんだよー!」 「ヴァ、ヴァルのおにいちゃん……?」  ケインも皆も、今度は、ヴァルドリューズの方を見る。  彼は、いつもの無表情で、淡々とした口調で語った。 「瞑想から戻ろうとした時、異次元の空間で彷徨(さまよ)っていたのを、たまたま 見つけたのだ」  ヴァルドリューズに礼を言ってから、ケインが、ほっとしたような、呆れたような 顔になって、ミュミュをもう一度見た。 「それにしても、妖精が時空で迷うなんてこと、あるのか?」 「ケインがミュミュのこと放っておくからだよー! バカー!」  ミュミュは、ケインの頭を、か弱い拳でぽかぽかと殴った。 「ごめん、ごめん! ホント、すっかり忘れてて」 「なにぃー!? もーっ! ミュミュ、ケインなんか、知らないもん! ホントに、 怒ったんだからね! これからは、ヴァルのおにいちゃんに『付く』よーだ!」  そう言うと、ミュミュは、ヴァルドリューズの肩に腰かけ、ケインからは、ぷいっ と顔を背けてしまった。 「まいったなぁ、今度こそ、本気で怒らせちゃったかな?」  ケインは、苦笑いしながら、頭をかいた。  妖精は、頬をふくらませたまま、ヴァルドリューズの頬に、くっついた。 「あ、あのー、お取り込み中、悪いんだけど……」  マリスが、まだびっくりした目のまま、切り出した。 「ケインと、そこの妖精って、知り合いだったの?」 「知り合いなんてもんじゃないよ。ミュミュは、ケインがマスター・ソードを持つ ようになってからだから、二年くらい、一緒にいるんだよ。ミュミュたち妖精ーー ニンフとかの子供たちは、『伝説の戦士』になる人間に、付くことになってるんだよ。  ミュミュ、ケインのこと、『伝説の戦士』だと思って付いて来たのに、ケインてば、 全然『伝説らしいこと』はしないし、ミュミュのことは、放っとくし……! もう、 『伝説』は、ヴァルのおにいちゃんにするから、いいんだもん!!」 「ありゃりゃ、『伝説の戦士』ってのは、妖精の、しかも子供の気分次第で決まるの かよ?」  カイルが、素っ頓狂(すっとんきょう)な声を出した。  ケインも、肩をすくめてみせた。 「あれっ? あんたの剣……」  突然、ミュミュが、カイルの剣に、目を留め、ふーっと側に飛んで行った。 「『ここ』には、精霊がいるよ! 何の精霊かは、わかんないけど……」  ミュミュは、カイルと、ケインとに振り向いて、言った。 「精霊だって?」  カイルが、首を傾げた。 「ああ、でも、言われてみれば、そうかも知れねぇ。この剣は、俺を護ってくれてる ような気がしてたんだ。よくないことや、危険を察知して、なんとなく教えてくれる ーーそんな場面が、いくつかあったんだ。それは、この剣に宿る魔力が、そうしてる のかと思ったが……精霊が棲(す)んでたってワケか」 「そーだよ。この剣の『精霊さん』は、剣の持ち主を、護ってくれるんだよ。だから、 この剣の魔法は、持ち主しか使えないの。他のヒトが、やろうと思っても、ダメなん だよ」 「確かに、俺以外のヤツには、『浄化』の魔法は使えなかった」  カイルが、感心して、ミュミュを見た。 「お嬢ちゃん、教えてくれて、ありがとよ」  ミュミュの機嫌は直ったようで、満足そうに笑っていた。 「ついでに教えてあげようか? 妖精は、『いろんなもの』が見えるんだよ。 『ヒトの守護神』とかも」  すっかり得意気になったミュミュは、マリスの目の前に飛んでいく。 「あんたの名前はねぇ、マリス・アル・ティアナ……えーと、あれ? なんだっ たっけ?」  みるみるマリスの顔色が変わっていく。 「な、なんで、あたしのことを……」  妖精は、ますます調子に乗って、続けた。 「守護神は、『雷獣神サンダガー』だね!」  一同、驚きのあまり、絶句していた。 「ケインの守護神は、ジャスティ……いたっ!」  ミュミュは、舌をかんでしまった。 「ええと、ジャスティ……何だっけ? もう、いいや。で、ちなみに、この金色の髪 のおにいちゃんは……」 「ミュミュ」  ミュミュがカイルに何か言う前に、寡黙(かもく)な魔道士が、珍しくその場を 遮(さえぎ)った。 「人には、余計なことは、わざわざ知らせない方がいい。知ったことによって、 不幸になることもあるのだ。私や、マリスのように」 「は~い」  甘えた返事をすると、妖精は、ヴァルドリューズの頬に、再びすり寄った。  彼の言葉に、妙に重みを感じた一同は、マリスとヴァルドリューズを見つめる。 (もしかして、ヴァルもマリスも、特殊な能力を身に付けたため、或は、目覚めた ために、国を追われたり、魔物と戦わなくてはならない宿命になってしまったとか?  それとも、何か他にも……?)  ケイン、カイル、クレアが、そのように考えている間、マリスは、うつむいて、 唇をかみしめていたが、キッと顔を上げた。 「あたしは不幸なんかじゃないわ。運命なんて、自分のこの手で変えてみせるんだから!」  静かだが、そう言い切った彼女の横顔を見つめながら、ケインは、なんとなく、 自分は、それを見届けるんじゃないか、という気がしたのだった。 (それは、単なる俺の希望なのかも知れないけど……) 「おお、お待ちしておりましたよ。ご希望の品は、こちらでよろしいですかな?」  一行は、鍛冶屋を訪れていた。  異様な煙が立ち込め、何度見ても、不気味なところである。  夜になっても、湖は静まり返り、その周辺でも、低級な魔物ですら出現しなかった ところを見ると、異次元への出入り口は、ヴァルドリューズが確認したように、 マスター・ソードの力によって、完全に閉ざされていたと言えた。 「さすが、噂通りの良い腕だな。これは、報酬だ」  マリス扮するマリユスは、男言葉に切り替え、大金を支払った。 「こ、こんなに……ですかい!?」  鍛冶屋は、驚いていた。  見開かれた目は、より一層大きく、相変わらず、充血していた。 「それから、このことは、黙っていて欲しいんだ。万が一、鎧の持ち主に伝わっては マズいからな」  そう言って、マリユスは、口止め料代わりに、更に金額を追加した。 「ふっふっふっ、これで、思う存分、暴れられるわ」 「……って、今までのは、違ったのか!?」  不適な笑みを浮かべているマリスに、ケインは驚いていた。  アトレ・シティーに戻る道中、マリスは、新品の剣を取り出し、クレアに渡した。 「これは?」 「クレアは剣持ってなかったもんね。これ、護身用に使って。メタル・オリハルコン で出来た、あたしの鎧の一部を使って、軽めに作ってもらったから、大丈夫。ヴァル に魔力を吹き込んでもらえば、魔法剣にもなるわ。それとも、魔法上達したら、自分 でやってみる?」  マリスが、ウィンクした。 「マリス、ありがとう! 大事にするわ!」  クレアの瞳は潤み、美しく輝いていた。それを認めたマリスも、嬉しそうに微笑ん だ。 「それと、そこの妖精サン、あたしは、ここでは『マリユス・ミラー』って名乗って るんだから、人前では、違う名前で呼ばないでね」  ミュミュが、パッと現れた。 「偽名使ったって、わかるヒトには、わかっちゃうのに」  妖精は、ブツクサ言った。 「あの、ケイン」  クレアが、ケインを向いた。 「私に、剣を教えてくれるの、今夜からでもいい?」 「わかった。でも、さっき、カイルに回復魔法をかけ続けてたから、疲れてるんじゃ ないか? 今日はもう遅いし、明日にしよう。疲れを取ることも大事なんだぜ」 「今は、そんなこと言ってられないわ。やっぱり、私が一番足手まといだもの。剣も もらったことだし、もう、誰の足も引っ張りたくないの。寝る前に、ちょっとだけで いいから、お願い」  ケインは、クレアの瞳に、強い意志の光を見た。  彼女も、マリス同様、自分で運命を変えようとしている人に、違いなかったの だった。 「わかったよ、クレア」  ケインは、やさしく微笑んだ。  宿に着いたときは、夜中であった。先に予約を済ませておいて正解だったと、一行 は思った。  ケインは、クレアには、剣の握り方と、構え方だけを教えた。 (今日はいっぱい歩いたし、釣りもしたし、モンスターも倒して、次元の穴を塞いだ。 カイルは死にかけて、ミュミュは見つかった……いろんなことがあった。ロクに観光 出来なかった城下町も、明日は、少しは見て回れるかも)  宿屋のベッドの上で、そんなことを考えているうちに、ケインの意識は、すぐに 眠りの中へと、引き込まれていった。  


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