Book1看板 Dragon Sword Saga1 〜3〜

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~ 第1巻『旅の仲間:前編』 ~

剣月緑ライン Ⅲ.『黒い龍――ダーク・ドラゴンの力』 妖精ライトグリーン1 ~ アストーレの鍛冶屋 ~  剣月緑ライン

 中原と呼ばれる、西洋と東洋とをつなぐ大陸。マリス一行は、その中心にある アストーレ王国城下町アトレ・シティーを目指す。  カイルの仕入れた情報によると、アストーレ王国は、数年前に魔道士の参謀が誕生 してから、他国との交易も盛んになり、鉱山からは、珍しい宝石の原石も発掘され、 急成長しているという。  一行は、タルムの町から森を抜け、川を越え、その間、モンスターに遭遇 (そうぐう)することなく、三日でたどり着いた。  国境では、入国審査があり、身分証明を見せる必要がある。  クレアは、巫女の証である名前入りネックレスを、そのまま身分証明に使っていた。  本来ならば、巫女を辞めた時点で返さねばならなかったが、巫女のままということ にしておいた方が、世間の信用も高く、このような入国審査などの場合でも有利な ことから、マドラス(マリス)が、モルデラの祭司長に返さなかったのだった。  気の弱い祭司長が、魔獣を倒したマドラスを恐れ、強く言えなかったのをいいこと に。  マリスは、持っていた、いくつものネックレス型ネーム・プレートの中から 『マリユス・ミラー』と男性名が彫られたものを選び出し、首から下げている。 タルムの町で購入した革の服を着ていて、今回も、少年傭兵で通すつもりだ。  なぜ、偽名がいくつも必要なのか、ケインは不思議に思っていた。  傭兵のケインとカイルも、常に、銀のネーム・プレートを首から下げていたが、 当然、本名である。  ヴァルドリューズも、マリス同様、裏面に偽名の刻まれた魔道士の紋章ブローチを、 黒いフード付きマントの胸に、付けている。 (ヴァルは国を追われたって言ってたから、自分のたどった形跡を残さないように しているのはわかるけど、マリスは? 国を出て来たっていうのは、亡命? 逃亡?)  折りをみて、聞いてみたい気もするが、自分から話してくれるまで、待った方が いいだろう、とケインは思い返した。  アトレ・シティーは、一行の出会ったモルデラの町よりも大きく、そして、栄えて いることは一目瞭然だった。  国境からゲートをくぐり、町の中へ入った途端に、いろいろな店が並び、西洋風の 建築物が洒落ていた。  一行は、まず宿を予約した。  宿屋の主人も愛想が良く、宿の内装も、手が込んでいた。  どこへ行っても、印象が良い。  鍛冶屋の看板を近くに見かけ、ケインが通りすがりの町人に尋ねると、「あそこ 以外の鍛冶屋って、湖のとこにあるやつかね? 腕は良いが、かなり変わった人だと いう噂だ」と、誰もが答えた。 「なあ、マリス、すぐそこの鍛冶屋じゃだめなのかよ? 町外れの湖って、遠いぜ」  巻き紙の地図を指差して、カイルが尋ねる。 「腕が良くなくちゃ、いやなの」  マリスに譲る気はなかったので、湖を目指すことになった。 「なあなあ、クレアってさあ、どんな男が好きなの?」  まだいくらも歩かないうちに退屈してきたのか、カイルが、クレアに話しかけた。 「そんな風に、男の方のこと、見たことないわ」 「じゃあさあ、今まで、好きになったヤツとかも、いなかったの?」 「そんなこと……、別にいいじゃない」 「この中の男じゃあ、誰が好み?」  とうとうクレアが、困ったように、ケインに目で訴えた。 「おい、カイル、退屈だからって、クレアにちょっかい出すのはやめろよ。困ってる じゃないか」 「いーじゃん、ちょっとくらい。なっなっ?」カイルが、ケインに向かって、片目を 瞑(つぶ)る。 「なんだ、それは!?」  二人を見ながら、クレアがますます困った顔になった。 「巫女の修行には、恋愛感情は妨(さまた)げになるの。優れた才能を持つ巫女が、 修行中に、盲目的に恋に走ったら、一気にその能力が低下してしまったって話もある のよ。黒魔法は、そこまでじゃないけど、やはり、恋愛しない方が、早く術を習得 出来るとも言われているわ。ましてや、クレアは、今は魔道一筋でしょう? それ どころじゃないわよねぇ?」  マリスに助け舟を出されて、クレアは安心したようにうなずいた。 「へー、そうなんだー。しかし、もったいない話だよなぁ。せっかく、こんなに かわいいのに、恋愛しちゃいけないなんてな」  カイルは、心から残念そうに言った。 「その点、マリスは戦士だから、関係ないんだろ? 良かったなぁ!」  カイルが笑いながら、マリスの背を叩いた。  マリスは、への字に眉を寄せて、カイルを見ていた。  ヴァルドリューズは、黙々と彼らの後ろに付いていた。 「なあ、ちょっと休もうぜ! 俺、もう歩けねぇよ」  しばらく山道を歩いた時、とうとうカイルが根を上げて、道端の岩に、へたりこん でしまった。 「おい、カイル。クレアだって、こんな慣れない道、頑張って歩いてるんだからさ、 お前が先に根を上げてどうする?」と、ケインが呆れる。 「うるせーなー。俺は、お前やマリスみたいに、鍛(きた)えられてねーんだよ」 「いいわ。ここで休憩しましょう」  マリスの一声で、皆は木陰にそれぞれ場所を取り、座った。  ふと、ケインは、クレアの、革で編んだサンダルからはみ出た部分が、赤く腫(は) れていることに気付いた。 「大丈夫か?」 「ええ」 「山歩き用の柔らかい革のブーツがあるから、町に戻ったら、買った方がいいな」 「ええ、そうするわ」  クレアが、痛みを堪(こら)えて微笑んだ。自分の手のひらを向けて、治療魔法を かけている。 「代わろう」  ヴァルドリューズが、クレアの足の治療を続けた。 「へー、ヴァルって、やさしいとこあるんだな」  そう言って、ケインは、はっとなった。 (まさか、カイルは、クレアの足を気遣って、わざと疲れた振りをしたんじゃ……?)  そのカイルは、何気ない様子で、ポケットから紙巻き煙草(たばこ)を取り出して、 美味しそうに吸っていた。 「一本ちょうだい」  マリスが、カイルと同じ岩に腰掛けた。カイルが、マリスのくわえた煙草に、 マッチで火を点けた。 「はー、おいしい! 煙草なんて、久しぶりだわー」  カイルが笑った。 「煙草もやるのか? そう言えば、お前、一体いくつなんだ?」 「一六」 「ええっ!?」  ケインとクレアは、同時に声を上げていた。  ヴァルドリューズも、いくらか目を見開いている。どうやら、彼も、マリスの年齢 を知らなかったらしい。  カイルだけは、それほど驚いてはいなかった。 「そっかぁ。意外と俺より年下かも、とは思ってたけど、そこまでだったとはなぁ。 俺は、二〇なんだけどさ」 「ええっ!?」  またしても、ケインとクレアが驚きの声を上げる。 「なんだよ、お前ら、さっきから」 「カ、カイル、お前……年上だったのか?」 「見りゃわかんだろ? このセクシーさは、オトナの男ならではだろーが」 「はあ、セクシーねぇ……」  ケインが、不可解な顔で、彼を見る。 「そういうお前らは、いくつなんだよ?」  ケインとクレアが一八歳、ヴァルドリューズは二四歳だと判明した。 (それにしても、マリスが一六? それで、あんな恋愛の演技が出来たとは……)  ケインは、まじまじとマリスを見た。  女の中では背が高く、一七〇セナ近くあり、あどけない中にも大人びた雰囲気、 たまに気取ったような言葉使いをしていたことや、どことなく、しぐさに気品がある ことから、自分よりも年上だろうと思っていた。  だが、年下となると、タルムの山での出来事は、一層腹立たしい。  ますます、彼は、一六歳の小娘などに騙(だま)され、振り回されるわけにはいか ない、と強く思った。 (ヴァルにしたって、二四という異例の若さで、もう一流の魔道士とは……)  ケインが、ヴァルドリューズを、ちらっと見て、そのように考えていた時だった。 「いけないわ! 煙草は一八になってからよ!」  治療を終えたクレアが、マリスに近付いて行く。 「なによー、カタいこと言わないでよー」  クレアは、マリスの煙草を取り上げると、岩に擦り付けて火を消した。 「そこまですることないじゃないのー!」 「いいえ! あなたの身体(からだ)を思えばこそよ!」  にらみつけるマリスに対して、クレアも引かなかった。 「カイルも、煙草は、周りの人にも悪影響なんだから、今後は気を付けてよね!」  クレアの注意は、カイルにまで及んだ。  とばっちりを受けたカイルは、口をあんぐりと開け、思わず煙草を落としていた。 「んもう、……それじゃあ、出発ー」  不機嫌なマリスの一言で、一行は、湖のほとりにあるという、鍛冶屋を目指し、 再び歩き始めた。 湖の鍛冶屋 「ほう、お坊ちゃんたち、どういったご用件かね?」  鍛冶屋に着くと、そこには、想像し得なかった光景が広がっていた。  店の中は、そのまま工房になっていて、壁際の棚には、いろんな形の瓶や壷が並ぶ。  奥には、助手である、顔に生気のない、ひょろひょろした男が一人、異様な色の煙 があちこちから立ち込めている中を、うろうろしているのが見える。  そして、一行の目の前に立っているのが、横に幅広い顔の半分が焼け爛(ただ)れ、 不揃(ふぞろ)いな大きさの目は赤く充血し、まだそんな年ではないだろうに、背中の 丸まった、怪し気な風体(ふうてい)の男だった。  室内だけでも異様な空気が充満し、それを背景に立つ鍛冶屋の主人は、一層不気味 に人目に映っていた。 「腕のいい鍛冶屋ってのは、あんたのことか?」  マリユス(マリス)は、そんな不気味な男でも、一向に引く様子はなく、むしろ 懐かしそうな笑みを浮かべて、話しかけた。  主人は、にったりと笑った。 「腕がいいか悪いかは、そのお客の決めること。うちは、お気に召すまで、料金は 頂かない主義で、やっておりますゆえ」  マリユスは、ふふんと笑った。 「わかった。じゃあ、お宅に頼むことにするよ」  マリユスは、ケインに持たせていたケースを開け、中にある、銀色の甲冑を見せた。 「ほう、これはまた、お見事な甲冑ですな」  主人は、爛(ただ)れていない方の口の端を少し上げて微笑んだつもりが、歪んだ 笑いになり、余計な恐怖感と不快感を与えた。 「これを、別の甲冑に作り替えてもらいたい。なかなか、これ以上の甲冑にお目に 掛かれないもんでね。これ自体を作り替えた方が、早いんじゃないかと思ってさ」 「デザインを変えて、ということですかな?」 「色もだ。それと、オレ、こう見えて、魔法能力も高くてね、魔道士どもに追跡され ないよう、魔力を抑える効果も欲しい」 「それでは、魔力を抑える石を、埋め込みましょう。正規の魔道士協会のものを使用 しないと、後々面倒なので、少々値が張りますが」 「構わない。金ならある」  主人は、紙と羽ペンを持って来て、しばらくマリユスと交渉していた。  一通りの打ち合わせが終わった時、主人がマリユスに尋ねた。 「ところで、この甲冑は、どうされたのですかな? 見たところ、これは、相当高価 な代物のようで、おそらくは、どこかの国の騎士のものではないか、という気が致し ますが?」 「拾ったんだよ。モルデラの山に転がってたんだ。持ち主が捨てていったんじゃない かな。たまたま通りかかって見付けたんだけど、いいものみたいだったからさ、勝手 に持って来ちゃったんだ。誰にも言うなよ」  マリユスは、いかにもいたずら小僧を装って、ウィンクした。 「ほう、拾い物でしたか! それでは、坊ちゃんのサイズに、直さないといけません なあ!」  主人は目を思い切り見開くと、メジャーを持って、マリユスに歩み寄り、はあはあ と荒い息をした。  異様な不気味さは、ますます募っていた。 「えっ!? い、いいよ、いいよ! サイズは大丈夫だったから、この通り作ってくれ ればいいからさ!」  主人は、少し疑い深そうな、だが残念そうにも取れる顔をしたように、皆には見え た。 「なあ、マリス、あんな妖怪地味た、いかにも怪し気なじじいなんかに頼んで、本当 に大丈夫なのかよ?」  鍛冶屋を出て、開口一番は、カイルだった。  それを聞いたクレアが、じろっとカイルをにらむ。人を見かけで判断するな、と 言いた気だ。 「ああいうのに限って、腕は良かったりするものよ。ワケありのものも、扱い慣れて るみたいだったしね」  マリスは、一向に気にしていなかった。  夜には、甲冑が出来上がるというので、彼らは、そのまま湖で時間を潰すことに した。 湖  周りを見渡していたケインが、近くに茂っていた木々の中から、手頃な枝を見付け、 形を整えると、草の蔓(つる)を釣り糸代わりにくくりつけて、釣り竿にする。 「おっ、釣りか? 時間潰しには、ちょうどいいな!」  カイルも真似して、竿を作る。  ケインが、クレアとマリスの分も作りかけ、近くに座っているヴァルドリューズを 振り返る。 「ヴァル、きみもやるか?」  彼は、座ったままで、身動き一つしなかった。  やれやれ、また興味なしか、と思うが、どうもおかしい。  ケインが、ヴァルドリューズの顔の前で、手を振ってみるが、何の反応もない。 「瞑想(めいそう)に入ったわね」  ケインの隣では、マリスが屈んで、ヴァルドリューズを見ている。 「時間がある時は、いつもそうなの。高い魔力を常に保っておく為に、イメージ・ トレーニングしてるのよ」 「だったら、せめて、目くらい閉じてくれればいいのに。ああ、びっくりした」  魔道に疎(うと)いケインの反応が、新鮮に映ったマリスが、吹き出して笑った。 「さ、ヴァルのことは、放っておいて、みんなで釣りを楽しみましょう」  湖の水は、濁った青緑色をしていて、深いのか浅いのかもわからない。  暇つぶしでなければ、誰も、こんなところで釣りなどしたくはなかったのだが、 わざわざ町に戻るのも面倒だったので、仕方なくである。  餌になりそうなムシを、地面を掘って見付け、ツルと小枝と一緒にくくると、 カイルが、懇切丁寧(こんせつていねい)に、釣りのやり方を、クレアに教えた。  クレアは、ムシを怖々見ていたが、カイルに言われた通りに、竿をかたむけた。  マリスは、経験があるらしく、ケインの隣で、勝手に始めていた。 「小さい頃、じいちゃんに教わったの」  マリスが懐かしそうに、邪気の無い笑顔で言った。  気が付いた時には、その和やかな笑顔に魅入ってしまったことを、恨めしく思い ながら、ケインは気を取り直した。 「おじいちゃんと、一緒に住んでたのか?」 「ううん。森の中に、一人で住んでた魔道士のおじいちゃんでね、あたしは家を抜け 出して、しょっちゅう遊びに行ってたの」  『糸』を湖に投げ直して、彼女は、続けた。 「ゴドーじいちゃんは、何でも知ってて、何でも教えてくれたの。見た目も変わって たから、みんなは変人扱いしてたけど、あたしは好きだったわ」 「そうか。それで、あの鍛冶屋の主人みたいな、一風変わった人にも、慣れてたわけ か」  納得してから、ケインは、また尋ねた。 「魔法は習わなかったのか?」 「なんか、魔法って面倒くさい気がして。ゴドーには教わらなかったわ。彼も、教え ようとはしなかったし、魔法で使用される『ルーナ語』は、家庭教師に習わされたけ ど、習った魔法は白魔法だったしね。  ああ、『サンダガー』の召喚で、あたしが唱えたのは、白魔法なのよ。神を召喚 するための『全身浄化』って言って。今では、あの魔法しか使えないの。まるで、 それが出来るようになったのと引き換えみたいに、それまで使えた白魔法が、使えな くなっちゃって」  ケインは、マリスの様子を見ていて、それは、作り話ではないと思った。 「白魔法を家庭教師に習ってたっていうことは……?」 「あたしの母親が、……実は、巫女で、それで、あたしも、まあ、……貴族の生まれ だったから、神殿に、巫女の修行にも行かされたこともあって……」  マリスは、言葉を選び選び、ケインの顔をなるべく見ないようにして、言った。  ホントかな? なんだか、今までと違って、歯切れの悪い言い方だし……。でも、 こんなことでウソついて、何になる?  と、ケインが、疑わしい目を、彼女に向けていると、 「マリス、お前、巫女の家系だったのかよ!? じゃあ、両親とも神官か!?」  少し離れたところにいたと思ったカイルが、竿を替えに、近くまで来ていたところ だった。  ひどく驚いて、後退(あとずさ)っているカイルの後ろから、クレアも駆け寄った。 「それなら、マリスも巫女だったの!?」 「なんだと!? ウソつけ!」  クレアの問いかけに、即座にカイルが続くと、マリスが慌てて言い訳した。 「ちょっと、大声出さないでよ、恥ずかしい! ほらね、どうせ、誰にも信じて もらえないし、驚かれると思ったから、あんまり言いたくなかったのに」  恥ずかしさで上気した顔は、演技ではないだろう、とケインは判断した。  マリスの本心を垣間見られたことで、ケインは、微笑ましいのと、してやったりと 両方の思いでくすくすと笑った。 「ああっ、んもう、ケインまで……!」  マリスは、更に顔を赤らめた。 「ねえ、洗礼は受けたの? ベアトリクスには、確か、有名なティアワナコ神殿が あったわよね? モルデラからも、そこへ修行に行ったベテランの巫女の方がいらし て、実に誇(ほこ)らし気だったわ」 「あそこでの修行の日々は、……正直、あんまり思い出したくなくてね。どうしても、 行かなくちゃいけなくて、イヤイヤだったから」  クレアは興味深そうであったが、マリスは逃げ腰で、心の底から嫌そうな表情で あった。  根が武人であるマリスに、巫女の修行は合わなかったのだろうと、ケインは納得 していた。  魔法も、あまり好きじゃない、というのも本当だと思った。  実は、彼も、魔道士は、苦手だった。  魔道自体、得体が知れず、魔道士たちは皆、表情はなく、言葉も抑揚がなく、 つくづく感情を読み取るのが難しい。そのおかげで裏をかかれそうで、いまいち、 信用が出来なかったのだった。  その点、武人の方がわかりやすく、付き合いやすいと思っていた。  そんなことを考えていると、ケインの竿に、ビクッと、何かが食いついた感触が 伝わった。 「ケイン、来たの!?」  マリスが、目を輝かせた。 「おっ! なかなか大物っぽいじゃねぇか!」 「すごいわ! 何が釣れたのかしら!」  カイルもクレアも、期待する。  ケインは冷静に、魚との駆け引きを手応えで読み取り、力を込め、一気に竿を引き 上げた。  そうして、草の上に跳ね上がったのは、見たことのない灰色の魚だった。  体調は、二〇セナくらいで、さほど大きくなく、肉厚だ。  目が大きく、鱗(うろこ)も大きい上に、タイルのように固そうで、口から、緑色を した袋状の内蔵を吐き出しかけていた。  背と顔の両側には、黄色い水かきのような膜が付いていて、鰭(ひれ)のようである。  尾が三つ又になっていて、それぞれが黒いヘビのように、にょろにょろと動き続け ていた。  頭を寄せ合い、期待に目を輝かせてのぞきこんでいたはずの彼らは、お互いの表情 が次第に曇っていくのが、見なくてもわかった。 「……奇形ね……」マリスが、呟いた。 「いや、それだけじゃないと思う……」ケインも、ぼそぼそと応えた。  我ながら、なんという気色の悪いものを釣ってしまったのか、この湖には、こんな ものしかいないのか?  ケインは、胸が悪くなるような思いがした。 「気にすんなよ。続けようぜー!」 「ええっ!? まだ続けるの?」  カイルが精一杯笑いかけているのを、クレアが不安そうに見る。 「これ、食べられるかしら?」  マリスが、指をくわえてそう呟くのを、ケインが慌てて止める。 「よせよ! こんなモン食ったら、死ぬかも知れないぞ!」 「焼けば大丈夫よ」 「そんなムチャな!」 「ケインたら、心配性ねぇ。じゃあ、クレア、念のために、これを白魔法で浄化して みて」  クレアもカイルも、呆気に取られていた。 「『浄化』って、魂に対して行うものであって、『消毒』じゃないんだけど……」  と首を傾げながら、クレアは両方の手のひらを魚に向け、一応、浄化の呪文を唱え る。  それが終わると、マリスは、手が直に触れないように、木の枝と短剣とで、 鱗(うろこ)を取り、魚の口から出かけた内蔵を引っ張り出し、枯れ枝を集めてきて、 魚を串刺しにして焼いた。  その間、カイルは、クレアを付き合わせて、湖に向かってツルの糸を投じる。  ケインは、すっかりやる気をなくし、足を抱えて、焚き火の前に座っているマリス と一緒に、魚が焼けるのを見守っていた。 「これって、深海魚よね?」  彼にとっては、そんなことは、どうでもよかった。  ただ、マリスって、時々変なこと言うなぁ、と思った。  だが、マリスは、真面目に考えているようであった。 「どうして、湖なのに、こんな魚がいるのかしら? あの『糸』じゃ、そんなに深い ところまで潜れないのに。それだけ、この湖は、得体が知れないと思ったていた方が よさそうね」 「あ、ああ、そうだな」  確かに、それは、一理あるかも知れない、とケインも考えた。  そのうち、魚が焼けると、マリスは嬉しそうに串を手に取り、短剣で、そうっと 魚に切れ目を入れ、中まで火が通っていることを確かめると、いきなりかぶりついた。 「だ、大丈夫なのか!?」 「平気、平気」  慌てて覗き込むケインに、マリスは、口をもごもごさせて、けろっとした顔を向け る。 「ちょっとパサパサしてるけど、思ったよりイケるわよ。ケインも食べてみる?」 「お、俺は、いいよ」 「これで、マラスキーノ・ティーがあればねー。ま、我慢するかぁ」 「ゲテモノ食い!」  ケインは、こわごわ彼女を見ていた。  ふと、ヴァルドリューズの様子を気にするが、まだ瞑想中である。 「やっぱ、だめだー。全然釣れねーや」  カイルとクレアが、引き上げてきたその時、  さばさばさば……!!  湖の中から、山の形をした巨大な物体が現れたのだった!


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