Book1看板 Dragon Sword Saga1 〜2〜

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~ 第1巻『旅の仲間:前編』 ~

剣月ライン  Ⅱ.『野盗と剣と武遊浮術(ぶゆうじゅつ)』 妖精紫アイコン2 ~ 情け無用 ~  剣月ライン

 ケインの構える、その異様な剣の大きさに、賊も一瞬ひるむが、この人数でならと 思い返し、じわじわと間合いを詰めていく。  皆、口々に、卑猥(ひわい)な言葉を吐いたり、下品な笑いを浮かべたりしている。 「へっへっ、どうした、お嬢さん? 怖いか? 俺たちが。そっちの坊やを片付けた ら、すぐにでも可愛がってやるからな」  ケインとマリスの周りは囲まれていて、逃げ場はない。 「言いたいことは、それだけみたいね」  マリスが低い声で静かに言った。  ーーその瞬間ーー!!  ケインの腰に下げていたドラゴン・マスター・ソードを、素早く引き抜き、目の前 の賊の腹を、一気にかっ捌(さば)いていた!  腹から、夥(おびただ)しい血の量を吹き出して倒れるその男を血祭りに、立て続け に二人、三人と切り伏せていく。  山賊たちは、驚いて、後退(あとずさ)った。  マリスがピタッと足を止め、振り向き様に、ビシッと剣を賊たちに向ける。  その顔には、余裕の笑みが浮かんでいた。 「どうしたの? あたしを襲うんじゃなかったの? このあたしが、あんたたちみた いな汚い不細工・イノシシブタに、そう簡単にやられるはずないでしょ? せめて、 イン◯ン直して出直してこい!」  ケインの顔からは、血の気が引いた。 「な、なんて、口汚く罵るんだ! こら、マリス! 女の子のすることじゃないぞー !」  気が付くと、山賊どもは、赤くなったり、青くなったりして、皆、完全に頭に血が 上っていた。  ケインの目の前にいる者などは、顔面蒼白であった。 (さては、こいつ、マリスの言ったように◯△X□か!? なんだか、他にも、ちら ほら、同じような反応してるヤツらがいる。まったく、不衛生な生活してるから…… じゃなーい! 何で俺が、こいつらのことを気に掛けてやらなきゃいけないんだ!  今は、こんなこと、どーでもいい!)  マリスに一番近くにいた男が、怒りで肩をぶるぶる震わせた。 「こ、このアマ、ふざけた口きいてくれるじゃねーか! 見もしないで何がわかる!」 「……だから、あんたらも、そーゆー問題じゃなくて……」 と、ケインが仲裁(ちゅうさい)? しようとするが、 「◯△X□野郎!」  マリスが、再び口汚く挑発する。 「てめえ、もう、許せねぇ!」  山賊が束になってマリスにかかっていった!  と、同時に、ケインも、襲いかかってきた賊に対抗することになった。  賊の振り翳(かざ)した斧を、マリスは、ひらりと避けると、木の枝に飛び乗った。 「高いところに逃げても無駄だぞ! こっちには、ボウガンだってあるんだからな!」  ボウガンや弓矢を持った男たちが、マリス目がけて一斉に矢を放ったが、矢は むなしく空を切っただけだった。  瞬間、マリスは、ボウガンの一人の顔を蹴り倒していた。  そこへ、二〇人あまりの男たちが、一気に押し寄せ、彼女の姿は埋もれてしまった。  一方、ケインは一五人ほどを相手にしていたが、そのうち五人は、既に倒していた。  彼の主義としては、殺しはしない。手足、腹などを攻撃し、戦闘不能にする。  むやみに人命を断つことはない。出来れば、反省して真っ当な道を進んで欲しい、 とすら思っていた。  が、そのような輩は、まず、いるはずもなかった。 「その大剣は、俺たちがもらってやるぜ!」 「それさえなければ、貴様なんぞ、簡単に……!」  十人が、じりじりと歩幅を詰めてくる。 「そっか。じゃあ、持ってみるか?」  ケインが、バスター・ブレードを、賊たちに放るが、受け取った男は、その重さに 耐えられず、大剣を抱えたまま、地面に尻餅をついた。  他の男も、大剣の柄を掴むが、両手で引きずるのがやっとであった。 「な? おじさんたちには、無理だって、わかっただろ?」 「ならば、これでどうだ!」  賊は、四、五人がかりで剣を抱えて、やっと腰まで持ち上げた。  そこへ、ケインが、バスター・ブレードへ蹴りをくらわせる。  賊たちは、弾き飛ばされた。  素早く、ケインはバスター・ブレードを取り返すと、左手で柄を掴み、慣れた様子 で、軽々肩に乗せ、右拳は瞬時に戦えるよう、構えを取った。  その様子からは、剣術と武術を自在に使いこなしているのが、見て取れる。  実力の差は歴然であったが、それでも、賊たちは、まだ彼を若年の戦士と高を くくり、向かって行く。  彼も、今までの旅の道中、賊に出くわすこともあったが、賊に限らず、戦で出会う 傭兵の中にも、きちんと武術を学んできたわけではなく、ただがむしゃらに武器を 振り回しているだけの者が多々いた。  それでは、モンスターとたいして変わらないと思っていた。  人間相手だから、手加減しているつもりだが、こうもケンカ下手だと、間違って 死に追いやってしまうこともーーなどと、思っていると、予感が的中する。 「しまった! 避(よ)けろ!」  思わず、行動とは反対のことを、賊に叫ぶ。  左から来た奴を剣で振り払った時、その影に隠れていた者に気付くのが遅く、 盾代わりにしていた大剣で、つい勢い余って切り飛ばしてしまったのだった。  男は、勢い良く、ふっ飛んでいった。 「だから、ケンカ慣れしてない奴らは、やりにくいんだ!」  不必要に傷付けたことで、彼の中でも心が傷付く。  いつもそんな気がしていた。  いかに相手を最小限の被害で抑え、戦闘不能にするかが、彼の信念なのであった。 「こいつ、小僧のくせに、結構やるぞ!」  賊の間で、そのような声があちこちで起こる。  ケインは、大剣の峰を、肩に担ぎ、立ち塞がった。  賊たちと違い、息切れなどはしてもいなかった。 「やっとわかったか。こっちは、お前たちのように、自分より弱い奴しか襲わない ような、おキラクな稼業じゃないんでね。常に、自分より強い敵とばかり戦ってきた んだ。若くても、お前らとはキャリアが違うんだよ!」 「なんだと!? 生意気な!!」  ケインが、にやっと笑って挑発すると、賊たちは、カッと頭に血が上り、ますます なりふり構わず、剣や斧を振り回すのだった。 「まったく、大人気ないな」  ケインのスタイルは変わらず、大剣は、あくまでも防御で、それを軸に、拳と 足蹴りのみで攻撃していた。  彼の方の敵は、大分手薄になってきたので、少しずつ、マリスのいた辺りに詰め 寄って行く。 (マリスは大丈夫だろうか。さっき、二〇人くらいに襲いかかられていたけど……)  その時、賊の中に、マリスらしい人影を見付けて、ケインは唖然とした!  ケインの相手であった賊たちも、ピタリと手を止めて、声を上げる。 「なっ、なんだ、ありゃあ!?」  マリスが囲まれていた周辺には、十人の賊が、放射状に倒れていた。  全員、戦闘不能になって蹲(うずくま)っている。  そして、その中心には、次々とマリスにやられた者たちが、今もなお、積み重なっ ていくのだった。  ある者は剣で切りつけられ、ある者は、ちょっと殴られただけで吹っ飛び、その山 に築かれていく。  ケインは、はっとして叫んだ。 「危ない、マリス! 後ろだ!」  彼の警告もむなしく、男の一人が、マリスを背後から、羽交(はが)い締めにした! 「へっへっへっ、もうこっちのモンだぜ! よくも、散々俺たちをコケにしてくれた な!! 見てろよ、嬲(なぶ)り殺してくれるわ!!」  ケインは目の前の賊たちを振り切り、マリスへと走った!  羽交い締めにされたマリスには、尚も五人の男たちが、じりじりと迫って行く。 「へっ! 所詮(しょせん)は女だぜ。力では、男にかないっこないか」 「ただでは殺さねぇ。じっくりいたぶってからだ」  マリスに迫る賊たちが、取り囲む。 「マリス!」 「こら、小僧! 待ちやがれ!」  ケインと、彼を追う賊が走り寄ると、マリスが、不適な笑みを浮かべるのがわかっ た。 「やれやれ、あんたたち、相手の実力が、まーだわかってないようね? このあたし が、あんたたち如きに、簡単に捕まると思って? わざと捕まってあげたに決まって るじゃない」  そう言い終えると同時に、彼女は、身体を前に折り曲げる。  ーーと、羽交い締めしていた男の身体が浮いた! 「な、何ぃ!?」  皆、唖然として、その場に立ち止まった。 「力ってのはね、あればいいってもんじゃないのよ。使い方よ」  マリスは、背中の男を、背負い投げると、すぐに男の足を両手で掴み、周囲の賊 目がけて、まるで大剣のように、男を振り回した。 「うわあっ! 何すんじゃあ!」  男たちは、次々と叩き飛ばされていく。それは、とても信じ難い光景であった。 「な、なんだ、あの女!? バケモンか!?」  山賊たちから、声が上がる。  だが、ケインには、彼女の力ーーいや、それが、実は、ある体術であることに、 見当が付いた。  マリスの周りにいた賊たちが、殆ど飛ばされてしまったあと、大剣にされた男は 放り出され、木にブチ当たって落ちた。 (なんて、むごいことを……)  悪党も人間であるからには情けをかける彼とは、全く逆に、彼女は、完璧に彼らを 物のように扱っていたのだった。  もはや、無傷の山賊は、ケインを追って来た五人のみである。 「じょ、冗談じゃねぇぜ! あんな怪力女に潰されてたまっかよ!!」  賊たちは、命あってのモノダネとばかりに、次々と敗走し始めた。  ひゅーん  何かが、賊の頭上を通っていく。  先頭を切って逃げていた賊の男が、腰を抜かし、後に続いていた男たちも、立ち 止まった。  彼らの目の前に、いきなり現れた『それ』は、賊の一人であった。  彼らは、一瞬、何が起こったのか、理解できなかった、いや、理解したくなかった のかも知れなかった。 「このあたしから、逃げられるとでも思うの?」  彼らの後ろから、マリスの声がする。  彼女は、放射状に倒れている男たちの中心に積み上げられた、呻き声を上げている 負傷者の上に立ち、腕を組んでいた。  その中の一人を掴み取り、逃げようとする賊を足止めするために、ぶん投げたのだ。 「ケイン、そいつらを逃がしちゃだめよ!」  マリスの声が、悪党たちに、残酷に響く。 「ひーっ!!」  山賊たちは、その場に、へたり込んでしまった。 「あんたたち全員には、これから、『最大の屈辱』を味わってもらうわ」  マリスが妖しく微笑んだかと思うと、ひらりと飛び降りた。着地点には、やはり 戦闘不能の賊が転がっている。  踏みつけられた賊が叫び声を上げるが、マリスはおかまいなしだった。 「あ……、あんた、一体……何者なんだ……?」  一人が、勇気を持ってーーというより、その言葉が思わず口を突いて出ていた。 「あたしの名前は、ルシール。ただの町娘よ」 「う、うそだっ! そんなはずはねぇ!!」  マリスは、どこまでも、賊たちに不誠実であった。 「マリスって、超ドSだったんだな」  山道を、町に向かって下っている途中、ケインが、苦笑しながら言った。 「そお? 小さな悪を倒しただけよ」  マリスは、にこっと無邪気に笑った。 「あいつらは、金品を強奪したあげくには、平気で人を嬲(なぶ)りものにして、 女は犯してきた連中なのよ。殺さないでやったんだから、それだけでも有り難く 思ってもらわなくちゃ」 「でも、あいつら、あんな屈辱を受けるくらいなら、死んだ方がマシだと思ったん じゃないかなぁ」 「だからこそ、『最大の屈辱』なのよ」  ケインとマリスは、顔を見合わせて、笑った。 「ど、どうか、命だけは、お助けを……!!」  五人の賊は、口々に、祈るように訴えていた。 「あんたたちは、そうやって命乞いをしている無抵抗の人間を、何十人、何百人、 その手で殺(あや)めてきたのよ? 自分だけは許してもらおうなんて、ムシが良すぎ るんじゃないの?」  マリスは腰に手を当て、彼らを軽蔑(けいべつ)の眼差(まなざ)しで、思い切り 見下していた。 「反省してるんでしょーね?」 「も、もちろんです! もう、いたしません!」 (調子のいいこと言ってるけど、こーゆー時って必ず、『ははは! バカめ!』とか 言いながら、躍りかかってくるヤツが、大抵一人はいるもんだがーーどうやら、 そんな殊勝気なヤツは、この中にはいないらしいな。かと言って、全員が、本当に 反省してるとも思えないが)  ケインは、彼らとマリスとのやり取りを、静観していた。 「よろしい! では、あんたたちは助けてあげる!」 「えっ? そんな簡単に許しちゃうの?」  拍子抜けしたのはケインだけではなく、賊たちも呆気に取られ、口を半開きにして 彼女を見上げていた。 「ただし、その証拠を見せてもらってからよ」  そう言ってから、彼女のさせたことは、転がっている山賊全員を、素っ裸にし、 一人ずつをロープで縛り、木の上から吊るすという作業だった! 「冗談じゃねぇ! 何で、俺たちがそんなことを……!」  五人のうちの一人が、反抗的な目でマリスを睨んだ。 (あ、やっぱり、反省してない。まあ、確かに、反省してたとしても、そんなこと するの、嫌だよな……)  と、ケインも納得した時、  しゅっ!  風を切る音がしたと同時に、マリスがマスター・ソードを横振りしていた。  触れてはいないはずのその男の頬からは、赤い一本の線が横に走り、血が滲(にじ) み出た。 「あんたも吊るされたいの? いいのよ、あたしが吊るしてあげても」  冷ややかな目で、マリスが言い放った。 「その代わり、ただ吊るされてるだけじゃ済まなくなるのよ。わかる? あんたの ケツの穴に、こいつをぶち込んでやるんだから!」 「わーっ! まだそんなことを言うか!? 俺のマスター・ソードを、そんなふうに 使うなー!!」  賊より早かったケインの反応に、マリスは、けろっとした顔で応える。 「あら、大丈夫よー。後で、こいつらに、綺麗に拭かせるから。これが、ホントの 『尻拭い』ってヤツよ。ほーほほほ!」  笑う者は、誰もいなかった。  ということで、五人の賊たちは、自分の仲間を木に吊るし上げることに、専念しな ければならなくなったのだった。 「ちょっとー、夕方から人と待ち合わせてんだからねー。早くしてくんない?」  マリスが、マスター・ソードを、ぶんぶん振り回して、催促する。 「は、はい、ただ今!」 「てめえら! 裏切るのか!?」 「やめねぇか、バカ野郎!」  五人は、苦し気な声を上げる仲間を、彼らに罵倒されながらも、急いで吊るし上げ にかかっていた。まだ転がっている賊も、彼らとマリスを恨めし気に見つめている。  彼らにとって、それは、確かに屈辱であった。  全員を吊るし終えた後、マリスが更なる指令を与える。『用意しておいた太い木の 枝で、吊るした者の尻を、思い切り叩いて回れ』ということだった。 「何てこと思いつくんだ、このアマ!!」 「この野郎! ふざけやがって!!」  吊るされた賊たちは、口々にマリスに罵詈雑言を浴びせていたが、マリスは、両手 を腰に当てたまま、彼らを振り返りもしなかった。 「も、もういいじゃないっすか、そんなバカなこと、わざわざさせなくたって……」 「そうだぜ。あんたには、情けってもんがないのか!?」  五人が、それぞれに、怯える目で、訴える。 (これって、やる方も、やられる方も、確かにバカだよな。思いつくヤツが、一番と んでもないが……)  ケインも見守る中、 「情け? な・さ・け~? なによ、それ?」  無慈悲(むじひ)な言葉が返され、五人は一気にうなだれた。 「こいつらは、悪者よ! 尻くらい叩かれて、とーぜんじゃないの! あんたたち、 反省したんなら出来るはずよ! さあ! 今こそ、正義のために、こいつらの尻を、 思いっきりひっぱたくのよ!」  彼女の言うことは、皆には常に不可解であった。  務めを果たしたその五人を、マリスは約束通り、逃がしてやった。  吊るされた中には、なんとか脱出する者もいるかも知れない。  逃げた五人は、常に生き残った元仲間に、追われる宿命となるのだった。


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