Book1看板 Dragon Sword Saga1 〜Ⅰ.-1〜
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~ 第1巻『旅の仲間:前編』 ~

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 それは、偶然のような必然の出会い。

 時同じくして、たあいもなく、惹き合った、同志。
 運命を共にする者。

 炎と風、月、樹の力が、光を護りて、闇を切り開く。

 強すぎる光は闇を呼び、闇にあってこそ、最も輝きを増す。

 闇は、光に引き寄せられる。
 己が滅ぶのを知らずしてかーー。

 闇は、光の届かぬ隙間ーー光の通らぬ場所、
 時ーー忍び寄る病魔の如く、
 心に付け入る悪魔のさざなみーー。

 地に住まう者、限りなく光に近く、闇に近い。
 異界の大いなる存在に、成す術なく従う。

 異界の力、地に住まう者に、限りなき力となる。

 さあ、妖精の子供よ、行きなさい。

 正しき剣を持つ者に、
 正しき心を持つ者に、
 悪しき魂打ち砕く為、
 その身を委ねん者に、

 傷を癒し、心を癒し、
 知恵と勇気を授けるのです。

 そうして、勇者を伝説へと導くのです。


 ーー妖精女王フェアリア

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閃光とドラゴン青

プロローグ  閃光とともに、ドラゴンが駆け抜ける!  マントの男は、眩しさに、思わず目を細める。  見たことのない技であった。  ドラゴンも、覚えにあるものとはどこか違う。なんとも説明もつかない形状である。  強いていうなら、黒く、巨大な影。  魔道士の召喚術ではない。だが、明らかに、魔法であると解釈した。  魔法であるなら、防ぐ絶対の自信はあった。  男は、強大な力を誇る、魔道の士であるのだ。  がーー!  自分の身に起きたことを理解する。  空を駆けていたはずのドラゴンが、瞬時にして、己の身体を通り抜けて行ったことを!  男は、その場に崩れ落ちた。まるで、マントだけが地上に降り立ったかのように、 ふわり、と。 「バカな!? 貴様ごときに、この私が……!」  しわがれた呻き声が、息も絶え絶えに、体液を伴って絞り出された。  マントの中から、皺だらけの手が、目の前の青年の背に向かってーー背負った大剣 に向かって、伸びていく。  その手は半透明であり、もはや、存在し兼ねていた。 「な、なぜだ……!? 貴様は、ただの……!」 「そう。よろず屋だ」  青年は、背を向けたまま、構えていたロングソードを腰の鞘に納め、去って行った。  ドラゴンは、既にいなかった。  黒いマントだけが、風に吹かれ、残っていた。  


剣月紺ライン  Ⅰ.『さびれた町』 妖精紫アイコン1 ~ さびれた町 ~  剣月紺ライン

街セピア白  深い緑の山肌が見守る、モルデラの町ーー。  町と呼ぶには規模は小さく、村という方が適切かも知れなかった。  村の大通りでは、人々があくせく働くようでもなく、時折、荷馬車がガラガラと 音を立てて通り過ぎるくらいのもので、世間話をしているわずかな人々、道端に 腰掛けて居眠りをしている老人などが見られる。  旅人からすれば、長閑(のどか)で、のんびりとした、ゆったり流れる時間の中に いるような思いにかられる。  といって、好感を持つには、少々違う。  その村には、活気があまり見られないことが、どうにも引っかかる点であった。  そこには、ある種のあきらめが感じられるのだった。 「おーい、よろず屋! 今度は、こっちを頼むよ!」  大柄な、村の男が呼び止めた人物が、振り返る。  年の頃は、一八。栗色の髪に、深い青色の、端がネコのように上がった大きな瞳。  背丈は、一八〇セナ以上はあり、辺りの村人よりも高く、細身だが、鍛え上げられ、 引き締まった筋肉を防具で囲んだ様子から、一目で傭兵(ようへい)とわかる。  もう一つ、彼を傭兵と決定付けるのが、腰に下げた剣と、それとは別に、背中に 背負っている、布を巻き付けた剣であった。  それは、傭兵であっても、各国の騎士たちであっても、見たことのない大剣であった。  地面から、彼の腰まではあろうかという刃渡り、柄は胸まであると思われるその剣 は、誰がどのような目的で鍛(きた)えたのか。  異様なまでのその大きさには、恐ろしさを孕(はら)んでいるようで、得体が知れず、 村人でなくとも、脅威(きょうい)であった。  青年の、年齢よりも若く見える、幼い顔立ちには、あまりにも不釣り合いである。  否、彼を見た者は、彼が傭兵であること自体が、不釣り合いに思えるのであった。  故に、そのような大きく重厚な大剣を持ってしても、誰もが彼を危険人物とは見な していないのを証明したのが、村の男の横柄な態度であった。  男は、用事を言いつけると、往来で構えていた、囲いのない店に戻る。  若い傭兵は、溢(あふ)れんばかりの布の入った洗い桶を預かってから、人通りから 離れていった。 「今度は、川でせんたくなのー?」  からかうような、呆れるような響きを持って、聞き慣れた甲高(かんだか)い声が、 傭兵の耳の近くで聞こえる。だが、姿はない。 「ああ。なんだか、すごい匂いだな。漬け物を絞った布らしいな」  傭兵は、手慣れた仕草で、冷たい水の中、洗濯をこなしていく。 「もー、昨日は畑仕事だったしぃ、その前はどろぼうを捕まえたしぃ……この前の村 じゃあ、ブタ小屋のそうじだってしたよねぇ? しかも、いつもいつも『そのために 雇ったんだから当然だ』とか言われて、感謝もあんまりされなかったしぃ……。 こんなことばっかしてて、どこが『伝説の勇者』なのさ?」  姿は見えないが、その喋り方から、声の持ち主である小さな女の子は、おそらく、 唇を尖らせていたに違いない。 「人の役には立ちたいけど、別に、感謝されたくて、よろず屋やってるわけじゃない からさ。いくさがない時はヒマなんだし、こういうことだって、自分を鍛えてること にもつながるんだから」 「……って、ケインたら、そういって、悪いこと以外は、なんでも引き受けてるけど さ、ミュミュはたいくつだなぁ。はやく、伝説らしいことしてよー」  傭兵ーーケインは、苦笑いした。 「だから、言ってるだろ? 俺は、伝説の戦士だか勇者だかなんてもんじゃないって。 ただの傭兵だよ。ま、一応、正義の心っていうか、自分の信念てものはあるけどな」  冗談混じりに言うケインに、声は、ため息混じりに返す。 「だったら、ケインのやりたいことって、なんなのさ?」  ケインは、得意気に答えた。 「そりゃあ、俺にだって夢はあるさ! 世界最大の遊園地『ゴールドランド』で 遊んでみたいってな!」  しばらく、沈黙が流れる。  が、ケインは続けた。 「戦争が始まったら、こちとら若くても、いつ死ぬかわからない身だぜ? その前に、 一度くらいは行ってみたいと思うくらい、いいだろう? ただ、むっっっちゃくちゃ、 お金がかかるらしいから、こうして資金を稼いでおかないとさ。……でも、俺って 人がいいから、ついつい報酬(ほうしゅう)マケちゃうんだよなぁ。イイ人って、 ほんっと、損だよなー。あははは!」  小さなため息の後、 「……もしかして、ミュミュ、間違えたかなぁ……」 「そうそう、ミュミュの勘違い」 「んもう、ケインのバカ!」  声は、そのままどこかへ行ってしまったのか、ケインには、もう気配も感じられな かった。  彼は、たいして気にも留めず、鼻歌を歌いながら、洗濯を続けた。  一方で、人の運命を変えてしまうかのような、巨大な力の動かす歯車が、あちこち でかみ合い、重苦しい軋(きし)みを上げて、ゆっくりと回り出す……!  そのことに、まだ彼は気付いていなかった。  彼に限らず、そのような波動は誰にも感じられはしない、実に、たあいもない 出来事のようであったのだ。  ケインは、看板こそあるが、ひっそりと佇む、地味な食べ物屋兼酒場に来ていた。  ウキウキと、夕飯を食べに。  無愛想な店員に、『トリの香草蒸し定食』というのを注文してみた。  が、あまり美味しいとは思えなかった。  店構えからして予測はついたが、美味しいものを作ろうという意欲が感じられない 味であった。 (なんか、この町って、どうも退屈なんだよなぁ。さっきの洗濯以外、今日は仕事も 来なかったし。明日の朝早く、ここを立つか……)  楽しみにしていた夕食ですら、このような有様で、ケインは、がっかりした。 「何でも、アストーレでは、王女の誕生日のパレードがあるらしいぜ。その警護を 強化するために、警備兵の人数を増やすんだとか。普段の護衛じゃ追いつかないから、 多少は募集してるみてぇだぜ」 「へぇ。誕生日なんかで、いちいちパレードなんかするのかよ? 王族の考えること なんざ、オレにゃあ、まったく理解出来ねえな。オレの誕生日なんか、誰が祝って くれたかってんだ」  隣のテーブルでの会話が耳に入った。 (アストーレ王国とは、このモルデラのあるモアール公国の隣だったな。そこなら、 もっと大きな国だし、仕事も、もうちょっとありそうだな……)  そう考えながら、ケインがトリを最後までつついて食べていると、 「よおよお、ねーちゃん、何て名前?」  ふと、若いウェイトレスに、ちょっかいを出している男に、目が留まった。  男は、肩まで伸ばしたストレートの金髪に、額には黒いバンダナを巻き、すらりと した体型をしていた。 (へー、なかなかイケメンだな)  さらに、ケインは観察する。  腰には、宝飾品を鏤(ちりば)めた鞘に納めた剣を下げている。随分と高価な代物で、 ケインと似たような年頃のその男の持ち物としては、こちらも不釣り合いである。  この男も、傭兵であるらしいことは見当が付いた。 (しかし、軽薄な態度が戦士の風上にもおけないヤツだな。あんな分不相応な高価な 剣も、アヤシイし。盗んだとか、奪ったとかか? あの女の子にもっと絡むようなら、 よーし、この俺が、少々注意を……!)  と、思ったその時であった。  バタン!  ドアが開き、外からの強い風と共に、二つの黒い影が現れた。  一人は、男にしては小柄であった。黒いマントをはおり、黒い兜で顔は見えなかった。  剣を下げていることから、剣士だということは一目瞭然だ。兜から覗いた鋭い眼光 が、辺りを油断なく伺っている。 (こいつは、できる……!)  金髪傭兵のことはさておき、その男と、そして、一歩後ろから入ってきた男の存在 感に、ケインは注目した。  後ろの男は、かなりの長身であった。頭からすっぽりとフード付きマントに身を 包んでいて、やはり、全身黒ずくめである。ゆっくりと、地を踏みしめる際に、 マントが揺れ、浅黒い肌が覗く。 (ふーん、こっちの男は、なりからして神官か、殉教者、または魔道士か……)  だが、ケインの勘では、神官のイメージからは、ほど遠かった。その男からは、 白ではない、黒の気配が、決して肌の色のせいでなく、にじみ出ているように思えた からであった。  無言で、彼らを目だけで追っていく。  二人がテーブルにつくと、小柄な剣士のマントの裾から、銀色の甲冑の足が現れた。  雇われ傭兵の身に着ける、部分的な防具と違い、いかにも頑丈な、それでいて軽そ うな、かなり良い物であると思われる。  あの甲冑は、どこかの軍で、支給されたんだろうか? こんな村には、軍隊などは、 なさそうだし……というと、ヤツは、お忍びでここへ来ているか、または脱走兵か?  それに、あの兜。食事の時も外さないとは。アゴの部分だけ下げられる作りにも なってるな。やっぱり、顔を見られたくない理由があるんだろうな。あれも、安物 じゃなさそうだし……。口元だけ見ると、意外と若そうだな……などと、ケインの 想像は膨らんでいく。  定食は、どう探しても、もう食べる箇所は残っていなかった。  店を出てから、ケインは体を伸ばした。辺りは、暗くなり始めている。 「さて、それじゃあ、食後の運動と行くか」  昼間背負っていた大剣は、宿屋に置いてきていた。行く先々で人々を驚かせてしま い、警戒されて、店に入れてもらえないのも困るからだ。  大剣は普通の人間には重過ぎ、使用するのは不可能な上に、人目にも付く分、 盗まれる心配もしていなかった。  今は、腰に下げた、一見ただの普通のロング・ブレードに見える剣のみである。  辺りが暗くなると、人里離れたところには、下級のモンスターが湧いてくるのは、 どの国でも同じだった。山道や、自然の中などに、よく見られる。  ただし、彼が気になるのは、最近、数が増えたことと、下級では済まないものまで 出現することもあるということだった。  通常、モンスターを斬るには、剣に、『魔除け』の護符やアクセサリーを付ける、 または、神官や魔道士に『魔除け』の魔法をかけてもらうかであった。  しかし、そのどちらも、彼には必要なかった。  彼が持っている剣は二つとも、人の造ったものではなく、魔物にも有効であったの だから。  そして、今持っているロング・ソードーードラゴン・マスター・ソードを手に入れ てから、ミュミュと出会い、旅を続けていた。 (ミュミュとの付き合いも、もう二年くらいになるんだなぁ。……そう言えば、 あいつ、どこ行ったんだ? 今までも、勝手に消えて、いきなり出てきたりしてた からな。ま、いっか)  そんなことを思いながら暗い方、暗い方へ向かっていくと……。 「もし、そこのお方」  何か声をかけられた気がしたが、そのまま進もうとしたケインに、 「もし、そこの、背の高い、明るい茶色の髪をした、青い服の、見たところ、まだ お若い旅のお方」  そこまで形容されては、彼も、振り向かないわけにはいかなかった。  そこには、村人であろう、白いひげを腹まで伸ばした、背の丸い老人が、心配そう な顔で立っていたのだった。 「今から、あの山を越える気かね? 悪いことは言わんから、やめなされ」  ケインは、にっこり笑ってみせた。 「大丈夫だよ、爺さん。俺、こう見えても、一人前の剣士なんだぜ。モンスターの 一〇匹や二〇匹、どーってことないぜー!」  老人を、安心させようと、明るく言ったつもりだったのだが、ケインの思いに 反して、老人は驚いて目を見開き、声を荒げた。 「何を言うんじゃ! そんなことをすれば、たちまち魔獣ドラド様のお怒りに触れて しまう! いかんいかん!」 「は? 魔獣ドラド?」  拍子抜けしたケインをよそに、老人は、山の方へ目を向けて、一度まじないの言葉 のようなものを呟くと、またケインに視線を戻した。 「あの山の、てっぺんにある洞窟の中に棲(す)んでいる魔獣様で、ホッカイグマくら い大きくて、凶暴な肉食獣じゃよ。昔、ある時期になると村へ降りてきて、田畑や 建物を荒らしていくので、村長と祭司長様が知恵を絞り、対策を考えたのじゃ。 それは、その時期に、魔獣に生け贄(にえ)を捧げることじゃった」 「生け贄……? そんな時代錯誤な……?」 「時代錯誤とは何じゃ!」  老人は、何も知らないケインに、「仕方がないのう」と言いながらも、どこか張り 切ったように、くどくどと説明した。 「生け贄には、いろいろなものを試したそうじゃ。ブタやウマ、ヒツジなどの大型 動物から小動物、コメや農作物なども。しかし、いずれも効果はなく、村は大損害に 見舞われておった。  そんなある時、この村のまだ巫女見習いの少女が、自ら進んで生け贄になったとこ ろ、その年は、魔獣が村へは降りて来なかったそうな。そして、時々ちょっかいを 出しに来ていたモンスターたちも、姿を見せんようになったということなのじゃ。 ありがたや、ありがたや!」  よほど感謝しているのか、老人は手をすり合わせて、目には涙すら浮かべていた。 「以来、毎年、若い女性の生け贄を捧げ、モンスターたちは村へ来なくなり、わしら も山へは入らなくなった。そのような暗黙の契約のもとに、この村は、こうして、 魔獣様と共存しておるのじゃよ」  あんぐり口を開けて聞いていたケインであった。 「ありがちな言い伝えだけど、今時そんな話が……?」 「それが、あるんだってさ」  知らない男の声が、老人の後ろから聞こえた。  男が進み出ると、ケインには見覚えのある、先ほどの店にいた、金髪の軟派な傭兵 であった。 「魔獣サマは、どういうわけだか、若い女しか食いたくねーんだってさ。人間の男 ならともかく、魔獣なんかがよー」  傭兵は、面白くもなさそうに、顔を歪め、下品な笑いを浮かべた。  ハンサムが台無しだった。 「これ、口を慎まんかい! まったく、これじゃから、よそモンは! おお、おそろ しい!」  老人は、またまじないの言葉を唱えた。 「じいさん、その魔獣って……本物なのか?」  トボケたケインの質問に、老人は、またとんでもないことを言いおって! という 顔になった。 「本物に決まっとるじゃろーが!」 「誰も退治しようとはしないのか?」  それには、老人は、力なく首を横に振り、ため息をついた。 「皆、やられてしもうたんじゃよ……」  同情する間もなく、傭兵が「けっ」と言った。 「腕の立つ男たちはやられ、若く美しい女たちは食われ。どうりで、この村には活気 がねーと思ったら……。しょーがねえ、こうなったら、少々不細工(ぶさいく)でも 我慢してやるか」 「……おい、何の話だ?」  ケインは、呆れた顔で、傭兵を見た後、気を取り直して、老人に向き直った。 「その魔獣、俺が退治して来ようか?」  ケインの何気ない、親切心から出た言葉に、老人と金髪傭兵が目を丸くした。 「お、お、お前さんなんぞの勝てるお方ではないぞ! ほんに、おそろしいお方なの じゃ! それどころか、魔獣様のお怒りで、この村は全滅し兼ねないじゃろう!  やめておくれ!」  悲痛な叫びを上げ、老人はケインの腕をつかみ、揺さぶった。  だが、ケインの中では、ふつふつと熱い思いがこみ上げて来ていたのだった。 「そんなこと言ったって、このまま放っておいていいわけないじゃないか! いずれ この村ごと獲って食われるぞ? ずっと怯えたまま、ただ死ぬのを待つだけでいいの か!? そんなのはだめだ! 誰かが魔獣を倒さなくちゃいけないんだ!」  そばにいた金髪の傭兵は、呆気に取られて、ケインの顔を見つめている。  立派な剣を持っていながら、その傭兵も魔物を退治しようという素振りもないこと に、やはり、カッコだけの軟派なヤツだったか、と、ケインは一瞥(いちべつ)した。 「……仕方がない。祭司長様のところに、相談に行ってみなされ。どうしても行くと 言うのなら、せめて、『魔除(まよ)け』くらいはして頂けるじゃろうからな」  白いひげの老人は、あきらめたように、ケインを祭司長の家へと案内したのだった。 「何!? 魔獣ドラド様を、退治するじゃと!?」  白い、飾り気のない法衣に身を包み、頭にも白い帽子を被った祭司長が、まじまじ とケインを見つめた。  案の定、彼は、そんな考えを持つなと怒られた。  そういうことなら、この町を出て行くようにとも言われた。  ケインなりに説得を試みたのだが、同じことばかりを繰り返す彼らには、途中で 無理だと悟った。  本気で取り合うことに、いい加減うんざりしてきた彼は、もう祭司長を説得するの はあきらめた。 「よくわかりました。では、これからこの村を出て、他の国に行くことにします」  深々礼をすると、ケインは、部屋の出口に向かって歩き出した。 「そんなことを言って、本当は山へ行くつもりではあるまいな?」  ケインの足が、ピタッと止まる。 (……鋭いな、このじいさん)  彼の行動は、祭司長に読まれていた。 「おぬしがちゃんと次の町へ行けるように、見送らせよう。クレア、この方をタルム の町まで、ご案内なさい」  その祭司長の呼びかけで、隣の部屋から出て来たのは、淡い色の神官服を着た、 ケインと同じ年頃の少女だった。  黒く艶(つや)やかな長い髪に、黒曜石(こくようせき)のような瞳。目鼻立ちが 整っているだけでなく、憂えた色を浮かべた瞳が、ますます月のような美しさを印象 付ける美少女だった。  ケインは、いったん宿屋に戻り、大剣と荷物をまとめると、宿屋をチェックアウト した。  それから、クレアとモルデラの村を出た。 (タルムの町を越えると、アストーレに出られるな)  そこでクレアと別れてから、また戻ればいいなどと考える。  彼女は、巫女の服装の上に、黒いフード付きのマントを羽織っていた。ケインの 大剣には、驚きを隠せないでいたが、おそるおそる切り出した。 「さっき聞こえたのですが……、あなたは、魔獣ドラドを倒しに行こうとしていたの ですか?」 「ああ、さっきはな」  もうあきらめたような口調を装う。  しばらく無言で歩いた後、再びクレアが切り出した。 「ドラドを知っているの?」  話しているうちに、魔獣の名前は、村長が名付けたらしいことがわかった。 「いや。さっき、村のじいさんから、クマくらいの大きさの、凶暴な肉食獣だって、 聞いただけだよ」  クレアは、憂鬱(ゆううつ)な面持ちになった。 「それも、あくまでうわさであって、今、この村にいる人で、魔獣を見た者はいない んです。でも、毎年、若い娘は生け贄に捧げられてるんです……」  ケインは、ちらっと、クレアを見た。 「……私の番だって、……いずれ回ってきます」 「えっ? きみ、祭司長の娘なんでしょ? 例外なしってわけ?」  思わず立ち止まるケインに、クレアは、首を振った。 「いいえ、私には、身寄りがなくて。ただ、祭司長様のお手伝いをしているだけです から……」  言ってから、クレアは足を止めると、一層思い詰めた顔になった。 「私……、こんな状態、もう耐えられないんです!」  彼女は座り込んで、両手で顔を覆った。 「村の人たちは、どうして平気でいられるのか、わからない。次は、自分たちの娘や 孫が食べられてしまうかも知れないっていうのに、なぜ、何も手を打とうとしない の!?」  ケインは、片膝を着くと、クレアの肩に手をかけ、静かに尋ねた。 「きみは、魔獣ドラドを倒すことに、賛成なのか?」  クレアは、それには答えなかった。 「ドラドの情報が正しいのかどうか、偵察(ていさつ)に行くくらいは構わないだろ?」  明るい調子のケインの声に、クレアは思わず顔を上げた。何かを決心したような顔 だ。 「もし、……あなたが行ってくれるというのでしたら、私もついて行きます」 「えっ! それは、ダメだ。危険だよ!」  焦るケインに、クレアは強く、首を横に振った。 「どちらにせよ、もうすぐ食べられてしまうんです。何もしないうちに、そんなのっ て耐えられないわ!それに、私、剣は使えないけど、白魔法ーー傷を癒す呪文は使え ます。いれば、何かとお役に立てると思います」  なるほど、おとなしそうに見えたけど、意外と芯はしっかりしてるのかも? と、 ケインは感心した。  その時、 「誰だ!?」  ケインは、クレアを後ろへ庇い、いつでも抜けるようマスター・ソードの柄を掴む と、気配を感じた道沿いの木を睨(にら)み据(す)えた。  すると、木の周りに生えている草を踏みならしながら、ひゅ~という口笛が聞こえ る。 「俺だよ、俺」  例の金髪の傭兵が、にやにやしながら出て来たのだった。 「何のつもりだ?」  ケインは、油断のない目で、まだ剣に手をかけたまま、傭兵を見る。 「おいおい、俺は敵じゃないって。そんな物騒なマネなんかすんなよ」  傭兵は、困ったように笑っている。 「お前が、魔獣を倒しに行くんだったら、ヒマ潰しに見学でもと、ここで張ってたん だよ。そしたら、こんなかわいい女の子付きなもんだから、びっくりしちゃってさ」 (驚いたのはこっちだ!)  ケインは、傭兵のおどけた調子に、多少の警戒心は解いたが、完全ではなかった。 「冷やかしなら、やめろよ。魔獣ドラドは、どんなヤツかわからないからな。偵察 するだけとはいえ、お前も怪我をする前に帰れ」  真面目なケインの表情とは対照的に、傭兵は面白そうな顔をして、また「ひゅ~」 と口笛を鳴らした。 「よぉっ! にいちゃん、カッコいいぜー!」  彼は、手を叩いて、喜んでいるような、冷やかしているような、であった。  呆れているケインの横で、クレアが、キッと傭兵を睨みつけた。 「ちょっと、あなた、私たちは真剣なんです。からかわないでください!」  傭兵は、バツの悪そうな顔をして、からかう素振りはやめ、小さく呟いた。 「……だからさ、……俺も手伝ってやるよ」  気恥ずかしそうな彼の態度と言葉に、ケインは驚いた。 「は? 魔獣退治を、か? お前が? 何で?」 「安心しろよ。この剣にかかっちゃあ、魔獣だろうが何だろうが、ちょちょいの ちょいだぜー」  傭兵は、なんだか意気込んでいるが、ここで、ケインは素朴な疑問を投げかけた。 「それはすごいが、……お前、強いのか?」 「お前こそ」  三人の間に、沈黙が流れる。  まあ、いい。今は偵察なんだ。こいつが弱いとわかれば、本番で連れて行かなきゃ いいだけだと、ケインは思い直した。 「とにかく、この件では、この三人が仲間ってことだな。俺は、ケイン・ランドール。 見ての通り、旅の傭兵だ。よろしくな」 「巫女のクレア・フローディアです」 「俺は、カイル・アズウェル。よろしくな!」  と、長髪をかき上げて、彼は、クレアに言った。 


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